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気分は『掛取り』 2

「土地と家が2,300万メレ、調度品などを全て含めて2,700万メレといった所でしょう。

 はじめまして、アリス様。 わたくし<商業ギルド・不動産管理部・主任>のセルヒオと申します。 この度はよろしくお願いいたします」


 セルヒオと名乗った男はにこやかに挨拶をしながら握手を求めてきたが、私には訳がわからない。 腕を胸の前で組んで拒否を示すと、セルヒオは何もなかったように手を引っ込めた。 ……スマートだな。要注意だ。


「この度は、急いで換金なさりたいとのことでしたので少し辛めの査定となっておりますが、10日程のお時間をいただければ、あと150万メレほど上乗せできると思います。 わたくしにお任せいただけますか?」


「……何のこと?」


「コンラート様から家の売却を依頼されまして、代金はアリス様に、と申し付かっております。 査定に納得いただければ、早速契約を交わしたく思いますが…?」


 ……………ん?


「コンラート?」


「なんだ」


 コンラートとはギルドマスターの名前だったらしい。 

 

 この男は家ごと家財道具も全て売り払って、私に支払うつもりのようだ。 確かに全財産と言っていたが、思い切りがいいというか、約束をきちんと守る誠実な男と褒めるべきか。 


 ………仕方がないなぁ。


「奥さま、ご主人は“自分の全財産”を私に支払うと約束をしているんですが、聞いていますか?」


「……はい」


 奥さんは、両手でエプロンの裾を絞るように握り締めながら答えた。


「では、聞きます。 この家はどなたのものですか?」


「……主人のものです」


 奥さんが声を搾り出すように答えると、後ろで娘さんと思われる女性が旦那さんに抱きついて泣き出した。  ……泣き声がうるさいから、もう少し離れて欲しいな。


「奥さま、これを見てくださいな。

 とっても素敵なネックレスでしょう? 弟が私の誕生日に贈ってくれたんです♪  そして、この剣を含め、装備しているものは全て、私の大切な人からの贈り物。 

 私が買ったものじゃないけど、私の大事な大事な財産です」


「……?」


「ねえ、奥さま?  この家はどなたのものですか?」


「…………!!」


「おい、何を言っているん」

「私の家よっ!  この家は私の家です! 主人が私の為に買ってくれた、私の家です!!」


「お、おいっ!」


 通じて良かった♪


「そうですか。 奥さまの家でしたか。 では、私が受け取るわけにはいきませんね。 

 セルヒオさん、でしたね?  こういった事情で、無駄足を踏ませて申し訳ないのですが、今回はお引取りいただいても…?」


 この人には何の非もないのに追い返すようでとても申し訳ない。 何かお土産を、とインベントリのリストを眺めていると、予想もしていなかった、朗らかな笑い声が聞こえた。


「いえいえ、たまにでしたらこんな無駄足も良いものですよ。 喜んで帰らせていただきましょう。 

 盗賊たちの家と部屋の査定もわたくしが担当しますので、よろしくお願いいたします」


「あら…! ちょうどいい所でお会いできました。 家の方ですが、しばらく宿の代わりに使おうと思っているのです」


「おや…。 では、査定は後日の方がよろしいですか?」


「家を汚すことはありませんので、査定はいつでも結構です。 留守にする時は家の鍵は空けておきますので、いつでも、都合のいい時にいらしてください」


「わかりました。 では、わたくしはこれで失礼いたしましょう」


 セルヒオさんは、挨拶を済ますとさっさと家を出て行ってしまった。


 行動に無駄のない人だ…。 「高く買ってね!」って言いたかったのに、言う暇がなかった。


 私たちもさっさと帰ろうと振り返ると、アルバロとエミルとイザックの3人がかりで口を塞がれているギルドマスターと、泣きながら娘さんと抱き合っている奥さんがいた。 


 静かだったのは、アルバロ達のお陰だったのか。


「お待たせしました。 早く帰りましょう!」


「「「おう!」」」


「おい、アリス! これはどういうことだ!?」


「なによ、コンラート。 何か文句でもあるの? 約束どおり“あなたの全財産”を受け取っただけでしょう? 第一、私はあなたに名前の呼び捨てを許可した覚えはないわよ!」


 遅くなると、オムレツとチュロスの店へ行く時間も遅くなる! だんだんイライラしてきたのが伝わったのか、


「アリス! まだ、店が混む時間までは余裕があるぞ!」


 イザックが、宥めるように教えてくれた。


「……。 コンラート、こちらへいらっしゃい。 ……早くっ!」


「な、なんだ?」


「約束は“1年間の収入の半分”よ。 (たが)えないでね?」


「ああ、わかっている」


「私はまだどこにも口座を作っていないけど、何とかして調べて、毎月きちんと入金すること」


「ああ、わかっている。明日にでも裁判所で手続きをするから安心してくれ」


 …裁判所でどんな手続きをするんだろう?  この世界の裁判所は多岐にわたって仕事をしているんだなぁ。


「そう。ならいいわ。 【リカバー・ダブル】」


「なっ…!」


 見慣れた光がギルドマスターの失くした腕を形作っていく。 成功、だな。


「2、3ヶ月で入金が途切れることのないように、きっちりと1年間支払ってちょうだいね。

 皆さん、お待たせしました!  今度こそ、早く行きましょう!」


 これ以上、足止めされたくないのでギルドマスターが戸惑っている内にさっさと歩き出す。


 後ろで私を呼び止める声が複数聞こえる気がするけど、気にしな~い!


(マッシュポテトのオムレツにゃ♪)

(ちゅろす~♪)


 2匹も3千万メレ弱で満足したのか、家を貰わなかったこととギルドマスターにリカバーを無料で掛けてことを怒っていないようだ。


 うん! いっぱい買い込もうね!!


ありがとうございました!

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