表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

135/763

護衛続行、です

「アリスさんが四肢欠損の治癒が出来ることは、外部には秘密のことですか?」


「いいえ。普通に使っているスキルです。吹聴する気はありませんが、隠す気もありません」


 素直に答えると、モレーノ裁判官はゆったりと笑った。小声で、


「伯爵は慌てるでしょうねぇ」


 と呟いているから、強気の謝罪要求に有利なのかな?


「ガバン伯爵との交渉に、4~5日ほど掛かると思われますが、アリスさんはその間、お忙しいですか?」


 …4~5日も掛かるのは想定外だったな。 何をして過ごそう?


「特に予定はありません。 食材のストックを増やしておきたいので、買い物はしたいですが…」


「では、裁判所で仕事をしていただけませんか? 時間はアリスさんに合わせますので盗賊の取り調べに立ち会ってください。 アリスさんの治癒を餌に、盗賊たちの口を割らせましょう。 1人に付き3万メレでは少ないでしょうか?」


 捕らえた盗賊は43人。 半数弱が四肢欠損しているので、立ち会うだけで60万ほどの収入になる。 


「いいえ、十分です。 でも、取り調べに<断罪の水晶>は使わないんですか?  ダビは水晶の力で簡単に自白していましたが?」


 治療を餌にする必要はないと思う。


「<断罪の水晶>の使用は、裁判官の負担が大きいのです。 ダビや町長のように狡い性質の犯罪者は、力を残しておくと反乱を起こす危険があるので全てを奪いますが、基本はステータスはそのままで、スキルを奪うだけです。 体力がないと、鉱山などへ送っても役に立ちませんからね。 

 まあ、取り調べに非協力的であれば、<断罪の水晶>を使うことになりますが」 


「だから、<ステータスの水晶>のオークションには、冒険者がこぞって参加したがるの!」


<ステータスの水晶>は思っていた以上に貴重品だった。 元がダビの能力だと思うと、ちっとも惜しく感じないけど。


「そうでしたか。 もちろん、喜んでご協力しますが、時間は私の都合で大丈夫なんですか?」


「ええ、取り調べ以外にもするべきことはいくらでもありますからね。 私以外の裁判官が取り調べをすることもありますが、よろしいですか?」


「大丈夫です。 では、手が空いたら裁判所にお邪魔します」


「助かります。 受付には話を通しておきますので、まずは私を呼び出してください」


 まずはモレーノ裁判官の指示を仰ぐってことかな? 窓口がトップだと、時短になるね♪


「わかりました。

 宿の代わりにしばらくダビの部屋を使いたいのですが、問題はありませんか?」


 ダビの部屋って言うのがちょっと嫌だけど、クリーンを掛け倒して我慢しよう。


「不動産ギルドの査定の後は現状維持が条件ですが、アリスさんは【クリーン】を使えるので汚れの問題はありませんね。 売買契約時に、引渡し期日に余裕を持っておくといいでしょう。 

 ですが、ダビの部屋よりも盗賊の隠れ家の方が広くていいのでは?」


「食事して寝るだけですから」


「…アリスは、護衛依頼が完了したと思い込んでいないか? まだ、安全が確立されたわけじゃないぞ?」


 私と従魔たちが寝られるスペースがあればそれで良いと告げると、アルバロが呆れたように言った。


「襲われてもそれなりに対処できるので、大丈夫です。 アルバロとマルタにはパーティーメンバーがいるでしょう? いつまでも付き合わせる訳にはいきませんし、裁判所にも依頼料の負担を掛けられませんよ。 

 今回の戦利品の売却が全て終わってから集まれば問題」

「あるぞ! ダビの罪を暴いてくれたアリスに何かあったら、死んだ仲間に申し訳が立たねぇ! 依頼がここで完了しても、俺はこの1件が落ち着くまではアリスの護衛をするからな!」


 自信満々に「問題ない」と言おうとしたら、イザックが噛み付くように反論した。


「わたしはソロ活動だから、問題ないぞ。 このままイザックと共に護衛を続けよう。友情だから、金はいらない」

「あたしのパーティーメンバーには近場の依頼を受けるように伝えてるから、問題ないけど? この町の冒険者を守ってくれたアリスをしっかり護衛しろって言われてるし」

「俺のパーティーにも短期の依頼を受けるように言ってあるから、問題ないぞ。 俺も、自分たちの分もしっかり守れ!って言われているしな」

「では、依頼は私が出しましょう。裁判所の負担にはなりません」


 言葉尻に被せてきたイザックの迫力にびっくりしている隙に、話がどんどん進んでしまう。


「ちょっと待って!! モレーノ裁判官、あなたが依頼料を負担する理由がありません! ダビの件は、マルタたちが<鑑定士>を呼んでくれたり、あの場にいた皆さんがダビを逃がさないように協力してくれたからこそです! 皆さん、私にそこまで気を使ってくれなくて大丈夫ですから!」


 複製がやりにくくなるし、好き勝手に動き辛くなるから何とか断ろうとすると、


「こんなに早く、わたしからライムとハクと食事を奪おうと言うのか!?」

「俺に、ハクとライムと美味い飯をもっと味わわせろ!」

「仲間の冥福を祈るために、美味い水をもっと飲ませてくれ!」

「あたしはアリスのごはんが食べられるなら、それでいいわ。依頼料なんて今回の戦利品で十分だし?」

(皆がいると、ごはんがいっぱいになるから、大歓迎にゃ♪)

「いや、私だって、この町の美味しいごはんを食べたいし!」


 ………なんか、余計に収拾がつかなくなってしまった。


 “パン!!!”

「!?」


 どうしようかと頭を抱え込みそうになっていると、突然の破裂音の後に静かな声が響いた。


「では、こうしましょう」


 破裂音の音源はモレーノ裁判官の手のひらで、裁判官は手のひらを打ちつけた姿勢のまま、穏やかに微笑んで話し出した。


「アリスさんには気の毒ですが、危険はまだ去っていません。 どう考えても護衛は必要ですよ。

 護衛候補たちは従魔とのふれあいと食事を希望しているようですので、1日1食、アリスさんの手料理を振舞ってはどうですか?  食費がかさむでしょうが、きっと何らかの形で補填があるでしょう。

 昼食の際には私も呼んでいただけるとありがたいですね。 部下達に昼食の習慣がないので、独りで食べるのは味気ない。 食費として、アリスさんの護衛に上位ランク冒険者を4人雇いましょう。 依頼料は1日」

「1,000メレ! で、良いよな?」


「「ああ」」

「いいわ」


「おや、上位ランク冒険者の護衛依頼が1日1,000メレですか。 これはとてもギルドを通せませんねぇ。

 では、ギルドを通しての依頼は今日で完了として、明日からは個人依頼としましょう。 依頼料は永遠に秘密にしておきますよ」


「さすが、モレーノ裁判官だ! 話がわかってる!」

「…え?」


「これで決まったな。 宿は首領の隠れ家に変更だ」

「…あれ?」


「アリスはこの町の食い物に興味があるのか? 美味い店に連れて行ってやろうな」


 ………反論の余地なく、話がまとまってしまった。 私はもうしばらく、集団生活をするらしい。


「……期待を裏切るようですが、調味料も食材もまだまだ揃っていないので、大したものは作れませんよ?」


「……それって、まだまだ美味いものが作れるってことだよな!?」


「え? いや、そんなこと言って」


 “ない”って言いたかったのに、マルタが力いっぱい飛びついてきて、


「何が欲しいの? 町の案内なら任せて! 欲しい物の店まで連れて行ってあげる!」


 期待に目を輝かせて言い募ってきた。


(諦めるのにゃ)

(おいしいの、いっぱいたべる~)


 ……。うん、そうだね。頑張って美味しいのをいっぱい作ろう。


「これで話はまとまりましたね。 明日の昼食が楽しみです」


 モレーノ裁判官が、満足そうに笑いながら裁判所に帰ろうとすると、マルタが慌てて引き止めた。


「裁判官! 明日のオークションに、<道具屋・ヒメネス>の店主も呼んであげられませんか?」


<道具屋・ヒメネス>? 聞き覚えがある…。 あっ! マルタが私の為に呼んで来てくれた、鑑定士さんのお店だ!


「マルタ、オークションに参加してもらうことが、道具屋さんへのお礼になりますか?」


「仕入れのチャンスをモノにしたくない店主は少ないんじゃない?」


 そうか! これは、道具屋さんへのお礼のチャンスか!


「モレーノ裁判官! <ヒメネス>の店主さんは、ダビの犯罪を暴くのに協力してくれた方なんです。是非、お声がけをお願いします! ……<商業ギルド>の鑑定士さんも声を掛けた方がいいかな?」


「<商業ギルド>の参加は難しいですが、<ヒメネス>の店主には通達をしておきましょう」


「ありがとうございます!  店主さんには、ダビの持ち物に限り、3点優先してください」


「ダビの持ち物限定ですか?」


「私が裁量できるのはダビの持ち物だけですから」


 不思議そうな裁判官に説明すると、


「裁判官! 店主は今回の功労者の一人だ。 全部の中から3点優遇してやってくれ!」


 アルバロが意見し、3人が大きく頷いた。


「今回のことは、この町の冒険者全ての利益につながることだ。 アリスだけが礼をする必要はない」


 エミルが私に言い聞かせるように、視線の高さを合わせて言う。  


 幼児のような扱いが不本意だが、言っていることは納得できたので頷くと、頭を撫でられた…。  


 この扱いは何なんだろう…? 無性に蹴り飛ばしたくなる………。


ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ