お昼ごはんに誘った
裏庭に食器を出すのもどうかと思い、隣の部屋を使わせてもらうことにした。
誰が揃えたのか、可愛らしくも品のある食器やカトラリーを可愛らしいカーテンの上に置いていく。 衣類や比較的小さな家具も取り出すと、マルタが細工の美しいチェストを気に入った。パーティーハウスの自室に置くらしい。
売却品を記入し終わった職員さんと一緒に裏庭に移動すると、裏庭を囲うように目隠しの布が張られていた。
大捕り物の後は裏庭を使うことがあるので、慣れているらしい。 職員さんが誇らしそうに教えてくれた。
この世界は裁判所が検察と警察も兼ねているのかな? だとすると、裁判所の最高責任者のモレーノ裁判官はかなりの権力者だろう。 穏やかな権力者……。 格好いいな♪
棚やテーブルセット、食器棚やタンスやベッドなどを出し終えるとモレーノ裁判官がやって来て、進捗状況や簡単な予定を教えてくれた。
今朝、挨拶を交わした商人たちには、“売却品が増えたので、商人を増やし改めて明日オークションを開く”と説明し、今日集まってくれた礼として、今日1日物品の品定めを出来る権利と、1点だけ優先して買い取りができる権利(希望が重なったときはくじで優先を決める)が与えられた。
素行のよろしくない商人を今日中に呼び出して言い含めるので、オークションの開催は明日の朝10時から。 今日集まっていた商人たちは、一足早い8時から1点ずつ優先して買い取り出来る。
冒険者ギルドは、無償で冒険者相手のオークションを開くことに同意した。 水晶はすでに職員に預け済み。開催日程の調整の為、近々に職員が4人の所に顔を出すとのこと。
不動産ギルドの職員が、明日の夕方ごろ、ダビと盗賊の首領の部屋の売買契約を結びに裁判所まで来てくれる。
盗賊たちを奴隷商に売却する前に取り調べがあるので、売却には2~3日の猶予が欲しいとのこと。
領主のガバン伯爵宛に、ソラル子爵の所業と共に謝罪を求める旨をナイトバード便(飛ぶのが早い魔物。昼でも普通に飛ぶらしい)で送ったので、返事が来るまで時間が欲しいとのことだった。
「うぷっ!?」
(アリス、口を閉じるのにゃ!)
ハクの前足を口に突っ込まれるまで、自分がどんな間抜けな顔になっているか気が回らなかった。
短い時間でこれだけの段取りを付けてくれたことに、ただただ、びっくりするばかりだ。
「アリスさんはこの後、どういうご予定で?」
モレーノ裁判官に予定を聞かれたのと同時に、お昼の鐘が鳴った。
「お昼ごはんを食べた後にギルドマスターの家に行くのと、おやつの買出しに行くくらい、ですね。 裏庭をお借りしてお昼をいただこうと思うのですが、よろしければ裁判官と職員さんも一緒にいかがですか? 味の保証はありませんが、量だけはたっぷりありますので♪」
モレーノ裁判官にもう少し聞きたいことがあったのでお昼ごはんに誘ってみると、裁判官たちの返事の前に、護衛の4人が元気になった。
「アリス! わたし達の分もあるのか!?」
「ええ、もちろん」
「昨夜作っていたサンドイッチも出してくれる!?」
「いいですよ」
「俺は握り飯を食べたいんだが…」
「具材は変わりますが、ありますよ」
「水! 水はあの美味い水なのか!?」
「よかったら、りんご水もありますよ?」
「「「おおおおおおっ♪」」」
「きゃあ! やったぁ♪」
「これは、ごちそうにならないと後悔しそうですね」
4人の喜びようにモレーノ裁判官も興味を持ったらしい。 ……ハードルがすごく上がってしまった。
「あのテーブルセットを使いましょうか! …野営用にもらっておこうかな」
首領の隠れ家にあったテーブルセットと道具屋にあったテーブルセットを指差したが、4人は気に入らなかったらしい。
「え~、ブーツ脱ぎたい~!」
「ああ、裸足がいいな!」
「帆布はここに敷くぞ?」
「今朝、良い物を手に入れて来たんだ!」
「……裸足、ですか?」
イザックが空いているスペースに帆布を敷き、アルバロが中央にどう見てもテーブルの天板にしか見えない物を置いて、マルタとエミルが躊躇している裁判官と男性職員を強引に帆布の端に座らせた。
ハクとライムも帆布の横に移動して、【クリーン】を掛けられるのを待つ姿勢だ。
楽しそうな2匹と4人に釣られて、私も楽しくなってきた。
「今日もピクニックですね♪」
隠れ家に置いてあった方の質の良いテーブルセットだけインベントリにしまって、帆布、天板、従魔と4人にクリーンを掛ける。
「お2人にもクリーンを掛けますね?」
裁判官と職員には断ってから、クリーンをダブルで掛けて靴を脱ぐように促すと、イザックが裁判官の靴を剥ぎ取って、そのまま芝生の上に誘い出してしまった。 …不敬とかにはならないのかな?
男性職員にも靴を脱ぐように促すと、
「私もご相伴に預かりたいのですが、残念なことに仕事が立て込んでいるんです。記録も済んだので、部屋に戻ります」
本当に残念そうに言ってくれたので、バスケットにフルーツを盛り合わせて押し付けた。
「忙しいのは私たちの持ち込んだ物品の売却のせいですよね? 気持ちだけのお礼ですが、皆さんでどうぞ!」
とっさにバスケットを受け取った職員は困惑した顔で裁判官を見たが、裁判官が軽く頷いたのを見て、嬉しそうにお礼を言って機嫌よく裁判所内に戻って行った。
自分で皮を剥いてもらわないといけないんだけど…、大丈夫だよね!
ありがとうございました!




