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後始末 4

「商人たちも待たせていますので、先にダビの財産を片付けましょう。ダビを連れて来させる間に、この部屋の中の物を確認してください」


 モレーノ裁判官の指示に従い、部屋の中の物を順番に見て回る。


 現金・素朴な家具・普通の衣服・木製の食器から始まって、ラインの美しい家具・どこで着るのか、おしゃれな衣類・落としたらすぐに割れそうな、薄く美しい食器・どう見ても女性用のアクセサリーなど、いろいろとあるが、どれも必要ない。


 全てを売却してもらうようお願いすると、マルタと裁判官が反対した。


「アクセサリー類はどれも綺麗だから、売らずに取って置いた方がいいわよ?」


「そうですよ。 アクセサリー類は持っておいて損はありません」


 どういうことか聞いてみると、


 “地域によっては、現金よりアクセサリーや宝石の方が有効なことがある”


 との事だった。 嵩張らず物々交換等にも使いやすいアイテムだから持っておいた方がいいらしい。


「では、アクセサリーや宝石は持っておくことにします。 他の物は全て売却を」


 おねがいします、と続ける前に部屋のドアが開いてダビが連行されてきた。


 腰に逃亡防止の鎖を巻かれて静かに部屋に入って来たダビは、私に気付くと濁った目で私を睨み付ける。


(あいつ、ムカつくにゃ!)

(むかつく! とかす?)


(溶かさなくていいからね~!)


 ダビを見ていきり立つ2匹を宥めながら苦笑していると、


「おまえのせいでっ…! おまえさえギルドに来なければ…っ」


 ダビの怨嗟の声が部屋に響くが、それもすぐに聞こえなくなった。 


 兵士が顔色も変えずにダビを床に取り押さえ、猿轡を噛ましている。  ここでは珍しくない事態なんだろう。


「では、始めましょうか」


 モレーノ裁判官がダビと一緒に入室してきた職員たちに目配せしてから私に向き直った。


「ダビの<アイテムボックス>から全ての収容物を取り出します。 売却リストに記入しますので、アリスさんは取り出す物品が必要だと思ったら声を掛けてください。 声の掛からなかった物は全て売却とします。 よろしいですか?」


「はい、結構です。 よろしくお願いします」


 モレーノ裁判官は職員から水晶を受け取ると、ダビの左胸に触れさせた。


「アイテムボックス・オープン」


 自分に残った最後の財産を奪われまいと、ダビがボックスを閉じようとしているようだが、ボックスは開いたままだ。絶望に染まるダビを気に留めることもなく、職員が淡々とアイテムを取り出していく。


 ダビのアイテムボックスには、町長や盗賊団・奴隷商と交わした契約書や念書、部屋の権利書に高額硬貨、ナイフ、睡眠薬、痺れ薬、指輪が入っていた。


「睡眠薬と痺れ薬をもらいます。 他は全て、指輪も売却してください。裏にイニシャルが入っている物は面倒です」


「わかりました。契約書や念書はこちらでいただいても構いませんか?」


「もちろん」


「部屋は見に行かなくても良いのですか?」


「構いません。 全てを1メレでも高く買い取ってもらえるように、お口添えをお願いします」


 “高く買って欲しい”と念押しすると、護衛の4人が意外そうな顔になったのが、意外だ。 当たり前のことだよね?


「わかりました。 これはどうしますか?」


 そう言って見せてくれたのは眼鏡と水晶。


「<アイテムボックス>スキルの水晶?」


「ええ。これがダビに残っていた財産の最後になります」


『断罪の水晶』は、本当に全てを奪うんだな…。 できれば2度と関わりたくない…。


「では、眼鏡も売却を、水晶はこれと一緒にオークションに出してください」


 インベントリからステータスの水晶を取り出して、裁判官に渡す。


「現金は預かっていていただけますか? 売却後の代金と一緒に受け取りたいので」


「わかりました。 では、この部屋は職員に任せて、空き部屋に移動しましょう」


 面倒なお願い事をさらりと引き受けてくれたモレーノ裁判官は、またもや自ら別室に案内してくれた。


 忙しいだろうに、“できる男”はフットワークが軽いなぁ♪








「この部屋でどうですか? 狭いようなら、この扉で隣の部屋とつながっているので使ってください」


 モレーノ裁判官が通してくれた部屋は確かに広かったが、家具を置けるほどではない。


「店1軒分の全てと家1軒分の家具も全て持って来ているので、スペースが足りません…。 裏庭もお借りしてもよろしいですか?」


 素直に伝えると、少し驚いた顔をしながら了承し、裏庭に目隠しの幕を張ってくれると言ってくれた。


 お礼代わりに、エミルの書いた盗賊のアジトの詳細と愛人の家から回収した書類を全て取り出し、護衛の4人に確認してから裁判官に渡す。


「これは…。 ダビの持っていた物と合わせると、どれだけの犯罪の特定につながることか…! 裁判所が主体となって領兵とも連携をとりましょう。 …決してソラル子爵の手柄にはしませんので、安心してくださいね?」


「はい♪」


 さすが、モレーノ裁判官! 口に出していない希望まで、きっちりと汲み取ってくれる! 頼りになる人だ♪





 モレーノ裁判官が全ての書類とダビのステータスの水晶を持って部屋から出て行くと、護衛の4人が集まってきた。


「よかったわね! モレーノ裁判官なら、きっと何もかも上手く取り計らってくれるわ!」


「少なくとも、アリスのスキルを誤解して命を狙ってくるヤツ等は減るぞ!」


 口々に、私の今後の安全を喜んでくれる。  昨日会ったばかりなのに、親身になってくれる優しい人たちで、冒険者たちの信頼を集めるのも納得だ! 


 この4人が、あの時あの場所にいてくれた幸運をビジューに感謝した。








「どれも大したものはないな」

「首領の剣は悪くないぞ」


「じゃあ、首領の剣だけイザックが受け取って、盗賊が身に着けていた物と、宿に置いてあった装備品は全て売却ですね」


 部屋の隅から順番に並べた装備品はほとんどを売却することになった。 “汚れが酷いので査定が下がる”とマルタが残念そうに呟いたお陰で、【クリーン】を掛けることも忘れない♪


「あ、石鹸っ!」

「ポーションが多いな。少し補充しておくか」

「魔石が多いが…、特に何もないな」

「ハーピーの羽根か。使える」


 盗品だけあって、道具屋に置いてあったものは一貫性がない。 魔物素材が多いが、加工の手間を考えるとこのまま売った方がいいだろう。


「アイツ、仲間の上前を撥ねすぎじゃねぇか?」


 アルバロが呆れたように言うとおり、首領の隠れ家にあった物は、他のアジトに比べて、質の良い物ばかりだった。


 アクセサリーや宝石類、綺麗な布は皆で分けて、装備品は好みに合わないので売却する。


「記録にもう少し時間が掛かりそうなので、今ある現金を分けておきましょうか」


 売却リストに半分も記録できていないので、金庫のお金を始め、アジトにあったお金を皆で分けることにした。


「7等分な」


「裁判所に対する手数料ですか?」


「違う、ハクとライムの分だ。 きっちりと働いてくれたんだから、仲間はずれは良くない」


「でも、ハクとライムは私の従魔だし…。なら、マルタの馬とイザックの鳥は?」


「馬も鳥も従魔じゃないわよ。 一緒の扱いは良くないわ」


 皆がハクとライムを仲間扱いしてくれるのは嬉しいが、分配の頭数に数えるのはどうだろう?


 でも、断ってしまうとハクとライムの頑張りを否定することになってしまう……。


(僕たちも頑張ったにゃ~!)


(はくといっしょでいいよ?)


 困っていると、2匹から心話が届いた。


(ライムと僕で1人前でいいにゃ♪)


(本当にそれでいいの?)


(にゃ♪)

(うん!)


 自分たちの働きはきっちりと評価させるが、欲張り過ぎない2匹の案は4人にとても好意的に受け入れられた。


「アリスのお金に対するスタンスがわからない」


 マルタが頭を抱えているのが、私にはわからない。 上位ランク冒険者はお金の感覚が違うのかな?


「1人160万メレ強か…。盗賊のくせに金を残してたな」


「ああ、顔に似合わず、計画性があるヤツ等だな」


 盗賊団の所持していた現金は9,976,800メレ。6人で割ると1人1,662,800メレ。私はハクとライムの分も貰ったので3,325,600万メレ! いきなり小金持ちだ。


(831,400メレずつのお小遣いだね! 何に使うの?)


(にゃ?)

(ぷきゅ?)


(いっぺんに全部使っちゃダメだよ? 計画的にね?)


 2匹の頭を撫でながら言い聞かせていると、


(おこづかいいらないよ?)


 ライムが拒否し、


(欲しいものはアリスに買ってもらうにゃ! 全部アリスのお金にゃ!)


 ハクが、守銭奴(ほごしゃ)らしくないことを言う。  …いや、逆にハクらしいのかな? 収入が全部食費と高級宿(おふろ)に消えないように、気をつけよう!

ありがとうございました!

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