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後始末 3

「……まさか?」


「ええ、そのまさかです」


 裁判官は大きな溜息を吐きながら続けた。


「ソラル子爵は、自分の手で盗賊団や人身売買組織を捕らえることを、ガバン伯爵への手土産にしたかった。

 そこで、アリスさんを囮にすることを思いついたのです」


 聞かされた事実はあまりにもくだらない……。


「私は軍に所属しているわけでもなければ、この国の人間でもない。 その上、なんの協力要請も受けていませんが…?  

 第一に、私たちが野営を行っている付近に、兵は1人もいませんでした。

 この国の貴族は、そんなくだらない理由で民を見殺しにすることを良しとする教育を受けているのですか!?」


 私に、ビジューから贈られたスキルや装備がなかったら。モレーノ裁判官が依頼してくれた、4人の上位ランク冒険者がいなかったら。  


 ……私は昨夜、死んでいたかもしれない。


「子爵はその日の夜に盗賊団が襲ってくるとは思わなかったようですね。見通しが甘すぎた。

 この国の貴族は、『民を思いやること』を学んでいるはずなのですが、ソラル子爵にはその教育が行き届いていないようです。 

 ……今回、アリスさんが襲われたのはこういった事情でした。 あなたはこの噂を広めた人間に、何を求めますか?」


 モレーノ裁判官がわざわざ私に聞いてくれるのは、裁判官がこのことを『見逃しにしない』という意思表示。 


 だったら考えよう。 私は何を求める…?  


 私が考え込んでいる間、裁判官は急かすことなく静かにお茶を飲み、お菓子を食べながら待ってくれていた。お菓子がなくなると、アイテムボックスから別のお菓子を取り出し、ハクやライムにも取り分けてくれる。


 …この人になら、言いたいことを全部言ってもいいんじゃないかな? 出来ないことやダメなことは、きちんと断ってくれるだろうし、この世界、この国の常識がわからない私があれこれ考えるより、話が早いだろう。


「私が求めるのは、謝罪です。 言葉は要りません。全てを金銭に置き換えた謝罪を要求します」


 唐突に話し始めても、裁判官は穏やかな顔を崩さないままで聞いてくれた。


「いくら欲しいですか?」


「……本来なら領主のものになるであろう町長の財産の全てを。

 町長の共犯者などから領主が接収する財産があれば、その全ても。

 それから…、それから………」


「大丈夫ですよ。 落ち着いて、思いついたことを全て話してください」


 ただの駒のように自分の命を軽んじられたことがあまりにも悔しくて、話す言葉が胸につかえて出てこなくなった私の手を取り、モレーノ裁判官は静かに微笑みながら、優しく手の甲を撫でてくれた。 


「ふぅ……。

 それから、すでに広がっている噂を収束させるのに、裁判所で水晶を使用した方が良ければその水晶の使用料と、領主隊の隊長の1年間の全収入を現金で一括で。

 最後に、領主と領主隊の隊長に連なる人間が、今後冒険者になる私に一切関わらないことを求めます」


 言い切った。なかなかに強気な要求だけど、言いたいことは全て言った。後はモレーノ裁判官の判断に任せる!


(こんな感じだよね?)


(うん、アリスにしては頑張ったにゃ!)


(ありす、えらい!)


 従魔たちの賛同も得られて、強気でモレーノ裁判官を見つめると、裁判官はなぜか笑いを堪えていた。


「裁判官…?」


「確認します。 今後、冒険者になるアリスさんの後見や後押しを望むのではなく、“関わってこないこと”を希望されるのですね?」


「はい。領主や領主隊・隊長の権限で出される依頼に関わりを持ちたくありません」


「つまり、ガバン伯爵やソラル子爵と、両家に連なる者からの指名依頼や強制依頼を受けたくない、と言うことですね?」


「はい。登録もまだなのに、何を思い上がっているのかと笑われるかもしれませんが…」


 自分でも、自意識過剰?って思う内容で、少し恥ずかしいけど…。 嫌なものは嫌だ! 


「わかりました。この全ての条件を承諾させましょう」


「……え?」


 一瞬、裁判官が何を言ったのかわからなかった。


「今回のアリスさんの主張を正当なものと認めます。この件はわたしに預けてくれますね?」


「あ、はい」


 気が抜けた返事しかできない私に代わり、護衛の4人が指笛を吹いたり、拍手をしたりと喜びを表現してくれた。


「はい! モレーノ裁判官、どうぞよろしくお願いします!」


 やっと、理解できた私は、改めて裁判官に頭を下げる。


「はい、お任せください」


 裁判官は、とても頼もしく頷いてくれた♪


ありがとうございました!

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