表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

130/763

後始末 2

「オークションの件は、私からギルド職員に伝えましょう」


「よろしくお願いします!  ……それで、最後の相談なんですが、これは、あの…、私のことなんですが…」


 どうにも言い出し辛い…。 俯いていた視界にチラチラと動くものが映ったのでそちらを見てみると、4人が“がんばれーっ”という感じでこぶしを振っている。


「どうされました?」


 モレーノ裁判官の穏やかな声と無言でこぶしを振る4人に励まされて、思い切って打ち明けた。


「私が“特殊な鑑定”スキル持ちで、犯罪者は見ただけでわかり、アジトも簡単にわかるという噂が流れてるようで、困っております。 どうしたらいいか、相談に乗っていただきたくて…。  あの、ずうずうしくて、申し訳ありません…」


 最後まで言い切ったものの、考えてみればモレーノ裁判官とは、昨日が初対面。それも裁判官からすれば、仕事でしかない。 それを頼りにされても迷惑だよね!? どう考えても筋違いだった…。


「ああ、アリスさんの耳にも入りましたか。 その件については、ダビの資産の処分がすんだら私からお話するつもりでした」


 恥ずかしくて、うつむいた顔が上げられないでいると、穏やかな中に申し訳なさを含んだ、微妙な声で裁判官が言った。


「この噂は私の法廷にいた人間が発端となったものです。気が付かずに、申し訳ないことをしました」


「なぜ、裁判官が謝るのですか? 裁判官が流した噂ではないのでしょう? 頭を上げてください!」


 良くはわからないが、モレーノ裁判官が悪くないのだけはわかる。 裁判官の手を握りながら伝えると、


「アリスさんは、この噂を流した人に何を求めますか?」


「え?」


「この噂のせいでアリスさんは盗賊に命を狙われました。 噂を流した人間に、あなたは何を要求しますか?」


 モレーノ裁判官は感情を読ませない、静かな表情で私に問いかけた。


「……あの裁判を見て、私のスキルを誤解した人がたわいなく他人に話したことが発端となったのであれば、特に謝罪を要求するつもりはありません。 ただ、誤解を解き、噂の収束を図りたいだけです」


 思ったことをそのまま伝えれば、裁判官はかすかに微笑んだ。


「では、故意に流した噂だったとしたらどうでしょう? 盗賊たちを誘き寄せるために、誰かが故意に噂を流したのだとしたら?」


 誘き寄せられた盗賊が私を襲った?  昨夜、私の側には裁判官が依頼をしてくれた4人の護衛しかいなかった。


「故意に噂を広めた誰かが、私の命を狙っていると…?」


 いつの間にそんなに強い悪意を持たれていたのか…。 ぞっとして、ライムごと自分を抱きしめていると、肩に乗っていたハクが私を宥めるように頬にすりすりっと頭を擦り付けてくれた。


 ……まずは話を聞こう。  


 私が気を持ち直したのを感じたのか、裁判官は静かに話を続けた。


「いいえ。 あなたの命を狙ったのではありません。 囮に使おうとして失敗したのです。

 現在、私に確認が取れている全てをお話しますので、まずは座りましょうか」


 裁判官は周りを見回しながら言ったが、この部屋の椅子は全て物置に使われていたので、インベントリからホーンラビットとワイルドボアの敷物を出して裁判官に勧めた。


 護衛の4人はそのまま床に座る。  室内だから気にしないのかな?


 気持ちを落ち着ける為に、カモミールティーをカップに注いで出すと、ほのかに甘い香りが広がった。 少しだけ気分が柔らかくなる。


 カップが足りないから、4人にはティーポットごと渡しておいた。 カップも複製しておけばよかったな…。


 裁判官と自分たち(ハク&ライム)の前にカップを置くと、裁判官がアイテムボックスからマドレーヌを出してくれた。


 葉っぱの形を模した可愛いお皿から4つ取ると、残りをお皿ごと4人の方に回してくれる。 感謝を込めて小さく頭を下げると、裁判官も小さく笑って軽く頭を下げてくれた。 この人は有力者なのに、どうしてこんなに腰が低いのか……。


 私がお茶の香りを楽しみ、マドレーヌの甘さに頬を緩ませたのを確認してから、裁判官はおもむろに話し始めた。


「今回の噂を広めたのは、この町に領主が派遣した領主隊の隊長・ソラル子爵です」


「はぁ…。 領主隊…ですか?」


 いきなり貴族の登場だ。 この世界で関わる最初の貴族のイメージは最悪だな…。


「ええ。 領主のガバン伯爵は町長の不正を疑っていて、調査のために8日ほど前から調査隊を派遣していたのです。 ですが、まあ、あまり調査は進んでいなかった。 

 そこに今回のダビの事件が起きました。裁判が進むにつれ、ダビの犯罪に町長も加担している節があったことからソラル子爵も傍聴席に姿を見せ、ダビの証言で、町長と犯罪者たちとのつながりが判明しました。 

 ………調査が上手くいっていなかったソラル子爵は自分の手柄を欲していました」


 8日間かけての調査では詳しいことはわからなかった。そこに棚ぼたで町長の犯罪が明らかになったが、棚ぼたは棚ぼた。けっして自分の手柄ではない。


 自分の手柄………。

ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ