盗賊団撃退 ご…、尋問!
今回は少し残虐かも知れません。 ご注意ください。
(アリス、大丈夫にゃ……?)
ハクがふわふわの頭を頬にすり寄せ、時にぺろぺろしながら心配してくれている。
「…ん、もう平気。 大丈夫だよ」
私たちを襲ってきた盗賊団は、45人。 内、死亡者が2人。
2人の内の1人を殺したのは私だ。
頭部がぱっくりと2つに割れて事切れていた。 最初の膝の高さで放ったウインドカッターが、匍匐から立ち上がっていなかった盗賊の頭に当たったらしい。
皆の無事を確認した後、盗賊たちの武装を解除して回っている時にその死体を見つけ、私は吐き気を催した。辛うじて吐きはしなかったが、苦しくて苦しくて、涙がこぼれた。
初めての『同族殺し』だ。 後から後から苦いものが込み上げてきたが、ハクが私の肩から離れずに、小さく暖かい体温と、ふわふわの毛皮の感触で私の心を癒してくれた。
(ライムを出すにゃ)
(まだ、危ないよ?)
(大丈夫にゃ! 僕が護るにゃ。心配してるから、早く出すにゃ!)
ハクの勧めに従ってハウスを開くと、ライムが転がるように出てきた。
(ありす! ありす! だいじょうぶ?)
(大丈夫だよ。平気だよ)
ライムはハウスの中にいたのに、私の状態がわかっているかのように、心配をしてくれる。
(ありす、ないたの? つらい?)
(ううん、もう大丈夫。 ライムとハクの元気な顔をみたら、私も元気になったよ。ありがとうね)
ライムに笑って見せると、ハクも一緒に笑ってくれた。
(アリス、顔を洗って、そろそろ皆と合流するにゃ。 盗賊の中に腹を傷つけているヤツがいるのにゃ。
放っておくと、お風呂代が減るにゃ!)
放っておくと“死ぬ”。 そう表現しないハクに感謝しながら立ち上がる。
(そうだね。お風呂代が減るのは困るね)
さて、死人を増やさない為に、顔を洗って、治療に行かないと。
「お手伝いできなくてすみません」
皆の所に戻ると、盗賊のほとんどが武装解除されて集められていた。
「もう、大丈夫か?」
「はい。 重傷者を死なない程度に治療しますね」
足や腕を切り落とされた人、やけどを負った人、矢が刺さったままの人と、色々な怪我人がいるが、治療を行わないと命に関わる人達だけ治療して回った。
治療を受けた盗賊たちは、一様に驚きを露にしている。
「なに? そのまま死にたかったの?」
疑問をそのまま口にすると、治療を受けた盗賊たちは首を横に振って否定しているから、別に気にしなくてもいいかな?
私が治療をしている間に盗賊たちの捕縛が終わっていた。
「このまま、町の兵士に引き渡すんですか?」
武装を全て預かることに誰も異を唱えなかったので、かたっぱしからインベントリに放り込みながら今後の予定を聞いてみる。
「いや、アジトを吐かせる。 先に兵に渡しちまうと、アジトのお宝はその土地の領主のモンになっちまうからな」
「今からちょっと厳しい質問タイムだ。見るのが辛ければ、アリスは離れてろ」
皆が私を気遣ってくれているのがわかる。 でも、<冒険者>になる私は、これからもこういった状況に遭うことが予想される。
「大丈夫です。 今後のために、お勉強させていただきます」
顔を上げて笑って見せると、男性陣も笑い返してくれた。 あれ? …マルタがいない?
「マルタは兵の足止めに行ってる。 ここは町から近いからな。
さて、時間が無い。始めるぞ」
アルバロの合図で、男性陣がそれぞれにごうも…、体を使って質問を始めるが、盗賊たちもなかなか口を割らない。
「さっさとアジトの場所を吐け! このまま死にたいのか!?」
イザックの脅しも盗賊たちに通じない。回りの盗賊たちが薄笑いを浮かべて私を見ている……?
「殺せるなら殺してみろや! お優しいお嬢ちゃんの目の前で殺せるのか?」
「ほら、殺せよっ! 出来るもんならなぁっ!」
「「「ぎゃははははははっ」」」
「!!」
盗賊たちが口を割らないのは私のせいだった。 私が治療をしているのを見ていたヤツ等は、私に人殺しはできないと高を括ってしまったのだ。
“ジュッ!”
「ギャアアアアアアアッ!!」
(ありすをいじめるなっ)
自分の行動の浅はかさが悔しくて、うつむいて唇を噛み締めていると、さっきまで笑っていた盗賊の1人が悲鳴を上げた。
ライムが、笑っていた男に酸を吐きかけたのだ。
(ライム! 偉いにゃ♪)
盗賊たちは、私の腕の中にいたライムからの攻撃に驚いている。
(ら、ライム?)
(ありすはぼくたちがまもる!)
穏やかだったライムの変貌に、驚いたのは私だけのようで、
高く口笛を吹くアルバロ、
サムズアップするイザック、
「ライムは可愛いだけじゃなくて、頼もしいな! 偉いぞ!」
手放しで褒めるエミルに、
(僕も行くにゃ!)
私の腕の中から飛び出そうとするハク…。
(ハク! ハクまで行かなくてもいいから! ハクにはいつも守ってもらってるよ! 今は大丈夫! ありがとうね! でも落ち着いて!?)
“ジュッ!”
「ギャアアアアア!」
(ライム! ライムももういいよ? ありがとうね! 凄くうれしいよ~!)
攻撃を続けるライムを宥めながら、私の中の何かが剥がれ落ちる幻影を見た。
「ハク、ライム。 私は大丈夫だから落ち着いてね? 今から盗賊への質問に参加するから、見守っていてくれる?」
(…わかったにゃ)
(…わかったー)
2匹を肩に乗せて、比較的怪我の少ない盗賊の前に出る。
「アリス、無理をするな。 俺達が吐かせるから見ていろ」
心配げなアルバロに微笑んで、盗賊に向き合う。
「アジトの場所を教えて?」
「知らねぇなぁ?」
優しく問いかければ、顎を上げ、舐めきった顔で嘯く盗賊。
「ッ! グァァァツ!!」
「【ヒール】」
私は盗賊の足に深くナイフを突き立ててから、抜いてヒールを掛けた。
「ねえ、アジトはどこ?」
「知らねえって言ってんだろっ! グッ! ギャアアアアアッ! 」
今度は足に突き立てたナイフをそのままグリグリと掻き回してからヒールをかける。
「ねえ、教えて?」
「………。 ギャァアアア! ヒッ、よせ、やめろっ!」
もう一度足にナイフを突き立ててから掻き回し、もう1本のナイフを腹の上に滑らせてやる。
「アジトを教えてくれたら、ナイフを抜いて治してあげる。 アジトはどこ?」
「……。やめろよ。冗談だろう? おまえにそんなことできるわけ、 ギャアアアアアアアアアッッ! グッ! ウギャアアアアアアアッッ!」
私は微笑みながら、ナイフをお腹に突き立てて、そのまま揺さぶってやった。
……気持ちの悪い感触が手を伝わってくるけど、とりあえず我慢だ!! 鳥肌も立ってるけど、きっと気のせい!
気持ちの悪さに目をつぶり、顔に微笑を貼り付けたまま、足とお腹にナイフを突き立てた状態でヒールを掛ける。
中途半端に癒された盗賊は、自分の体から生えている2本のナイフを交互に見て、震えだした。 周りで囃していた男達も口を閉じ、驚愕に染まった顔で私を見ている。
3本目のナイフを取り出して刃先を眼球のすれすれで止めてやる。
「ヒィ、ヒィ…、止めてくれ! 頼む! 助けてくれ!」
怯えを見せた盗賊に、出来るだけ優しく見えるようにゆったりと微笑むと、ハクとライムの援護が入った。
「にゃお~ん♪(言うにゃ♪)」
「ぷっきゅうう♪(はなせー♪)」
2匹が、すごく、すっご~~く! 可愛らしい声としぐさで鳴いてみせると、盗賊の中の何かが切れたらしい。
「町の中だ! 町の中、裏門近くの安宿の地下にある! 俺はそこしか知らない! 本当だ! 本当に知らないんだぁっ!」
泣き叫んだ男の股間から水音が聞こえる……。
(ばっちいにゃ…)
(ありす、はなれて?)
慌てて下がったから、ナイフを抜いてやり損ねた。 …男が落ち着いてからでいいかな?
振り返ると冒険者組がこちらを見ていたので、引かれてしまったかな?と少しだけ不安に思ったが、
「ライム、なんて素晴らしい…」
「ハクは本当に賢いなぁ!」
「アリス、やるじゃないか! 凄いチームワークだな!」
3人ともニコニコ笑いながら褒めてくれた。 <上位ランク冒険者>って皆こうなのかな? これも2匹の魅力? なんにしてもありがたい。
「アジトは町の中か…。 想定外だな」
「1つじゃなさそうだぞ。 時間が無いってのに!」
どうやら下っ端な男の知っているアジトなんて、大したものも置いてなさそうだし、もっと情報が欲しいな。
「アルバロ、耳を」
アルバロに2つ確認をすると、2つともに頷いた。 よし!
「誰かメモを取って下さい。 あと、聞かなくてはならないことを整理しておいてくださいね」
インベントリから紙とペンを出すとエミルが受け取って、早速、さっき聞いたアジトの場所を記入してくれる。
……さて、鞭の後は飴だよね?
ありがとうございました!




