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裁判所 3  断罪

 裁判官の命令と同時に法廷兵が入ってきて、部屋にいた法廷兵と協力して出入り口を塞ぎ、裁判官を守るように両側に立った。  視線の先にはダビと傍聴席…。何かが不自然だ。


 ざわつく法廷内を裁判官は涼しい顔で観察している。 傍聴席のギルドマスターを見ると驚いているので、最初からの予定だったわけではなさそうだ。


 暇を持て余しそうになった頃にドアが開き、手に水晶を持った書記官と複数の法廷兵、法廷兵とは違う制服を着込んだ兵士たちに囲まれた町長一派が入ってきた。


 制服の違う兵士が町長一派を傍聴席に連れて行き、法廷兵がそれを囲むのを見届けてから、裁判官がおもむろに宣言した。


「これより私の許可なく退廷しようとすると捕縛されます。 最後まで静かに傍聴するように。

 では、アリス。 こちらへ」


 裁判官は立ち上がり私を呼んだ。 裁判官の机の上には直径10cm程の水晶が置いてある。


「こちらが『審判の水晶』です。 この上に手を置きながら、あなたが【隠蔽】のスキルを所持していないと、声に出して誓ってください。 誓いが偽りだったら、あなたは全てを失います」


「私は【隠蔽】のスキルを所持していません」


「うわぁ。あっさり…」


 特に躊躇することもないのでさっさと誓いを立てると、傍聴席から驚いたような呟きが聞こえた。


 勿体つけるようなことでもないよね?


「……裁判官?」


 あまりにも何も起きないので裁判官に助けを求めると、


「アリスが【隠蔽】スキルを所持していないことは証明されました。 では、ダビ、」


「す、水晶が壊れているんです! もう一度やり直してください!」


 裁判官がダビに声を掛けると、ダビは蒼白な顔で必死に訴えた。


 面倒なので、おまけを付けてさっさと誓う。


「私は【鑑定】のスキルを持っています。 私は【隠蔽】のスキルを持っていません」


 水晶は何の変化も起こさない。裁判官はかすかに口の端を上げてダビを見た。


「水晶は正常のようですね。 ダビ、次はあなたの番です」


 裁判官が宣言するとダビは首を横に振り後ずさった。


「そんな、そんなハズは…。この女は【隠蔽】を持っているはずなんだ!」


 ダビはどうあっても『断罪の水晶』に触りたくないらしく、手を後ろに回して体全体で拒否をしている。


 それを冷たい目で見ていた裁判官は一言だけ、


「法廷兵」


 法廷兵に声を掛け、裁判官の隣に立っていた法廷兵はその指示だけでダビの側に移動し、手早く捕縛すると裁判官の前に引きずってきた。


「ダビ、あなたの希望どおりにアリスは先に『審判』を受けました。あなたも自分の言葉どおり、『断罪』を受けなさい」


「『()()』だと!?  聞いていないぞっ! やめろっ!!」


 それまで大人しくしていた町長が、『断罪の水晶』と聞いたとたんに騒ぎ出した。


「裁判官! この裁判は『審判』じゃなかったのか!? なぜ『断罪』になっている!! 今すぐやめるんだ!」


「町長。これはダビが承知していることです。あなたが口を挟むことではない」


 裁判官が自分の言う事を聞かないとわかった町長は身を翻し出口へ向かおうとしたが、周りを囲んでいた兵士達にあっさりと捕縛された。 町長に追従しようとした男達も当然捕縛されている。


「何をするんだ! 私はこの町の町長だぞ! 無礼じゃないか!!」

「「そうだっ! 俺達を離しやがれっ!!」」


 町長は叫び暴れようとするが、ただ肥え太った体で鍛えたれた兵士相手に敵うわけがない。 


「私はあなた方に退廷の許可を与えていませんので、先ほどの宣言どおり捕縛しました。 最後まで大人しく傍聴することを命じます。 …法廷兵」


 町長一派を取り囲んでいた法廷兵は、裁判官に呼びかけられただけで指示を理解したらしい。 町長一派に次々と猿轡を噛ませる。


 “カンッ”


 木槌の音が響き、裁判官が厳かに告げた。


「準備が整いましたので、<冒険者ギルド職員・ダビ>の断罪を始めます」


 法廷兵の手際の良さに見とれている間に、ダビは裁判官の前で椅子に座った状態で拘束されていた。 よく見ると、椅子の肘置きに拘束されている右腕の先が布袋で包まれている。


 ……あの中に『断罪の水晶』を握りこませているのかな?  合理的、だな。うん。 あれなら水晶を落として割ることも出来ない。


「やめろ! やめてくれっ! わたしは何も知らない!!」


 喚くダビを意に介さず、裁判官は質問を始めた。


「ダビ、あなたは冒険者登録に訪れたアリスに対して【鑑定】を仕掛けましたね?」


「はい。 違う! していない!!」


「何のためですか?」


「若く見た目のいい女は高値で売れる…、違う! 嘘だ! わたしはそんなことはしない!」


「あなたはこれまでに――――――――――」


『断罪の水晶』は、本人の意思に反して聞かれたことに偽りなく答えてしまう、恐ろしい水晶だった。


 裁判官のさまざまな質問(自分の財産の隠し場所まで!)にダビは涙を流しながら答え、途中で舌を噛もうとしたらしいが、それさえも出来なかったようだ。 


 この世界の魔法(?)のアイテムは奥が深い……。







 ダビが犯していた罪が(つまび)らかに明らかになると、法廷内は騒然となった。


 町長は憤死するんじゃないかと思うほど真っ赤な顔で呻き、その一派は蒼白になってうな垂れている。


 ダビは近隣で活動している盗賊団の情報屋で、その盗賊団を紹介したのが町長だと自白したのだ。 鑑定を使い、冒険者達の情報を売ることで報酬を受け取り、情報の売り先はほとんどが盗賊団と町長だったと。

 

 また、町長が行ってきた罪で知っていることを次々に自白させられていた。


 町長の罪は、住民に有名だった賄賂の受け取りから始まり、盗賊団との癒着、人身売買組織とのつながり、領主に収める税の横領まで多岐に渡っていた。


 ダビもこれを自白すればただではすまないことがわかっていての、これまでの抵抗だったようだ。


「領兵の諸君に町長を引き渡します。 領主様には私からも報告書を(したた)めるので、出発前に取りに来てください。 

 法廷兵1班は、ダビと町長の配下を牢へ移動させ見張りを。2班と3班は手分けしてダビの資産の回収を。4班はそのまま警備を続行してください」


 裁判官の命令でそれぞれが退廷していった。その際に兵たちが、逃げようとしたダビや男達を蹴り飛ばしていたのは普通のコトなのか、見ない振りをすべきコトなのか難しい判断だ…。


ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ざまあみろダビ!
[気になる点] 前話で町長と取り巻きが退廷を言い渡されて退出したと思っていたんですが、この回にまだ町長が居たのはまだ法廷から出きってないからなんですか? すみません気になってしまったので
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