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冒険者ギルドで売られた喧嘩 4  合間に

「閉まっているぞ?」 


「約束の時間より早く来てしまったので…。とりあえず入ってみます」


 ギルドマスターも裁判の時間変更を認めてくれたので、見張り役の冒険者4人と共に金物屋にやってきた。


「俺は裏口にいる。終わったら声をかけてくれ」


 そう言ってBランクさんが離れて行き、


「ここは俺が」


 銀の髪のおにいさまがドアの横にもたれかかる。


 バトルアックスのおじさま、親切なおねえさまと一緒に店の中に入っていくと、昨日の4人、店主夫妻におかみさんと職人さんが揃っていた。


「娘さん、来てくれると信じていたよ」


 おじいさんが立ち上がって迎えてくれると、渋いおじさまが呟くように言った。


「じいさん、自分で立ち上がれるようになったのか…」


「知り合いでしたか?」


「たまに買い物に来る程度だ。人格者で有名なじいさんだ。持病が悪化したと聞いていたが、良くなったんだな」


 そう言いながら、ゆったりと口元をほころばせる。 …世間は狭いな。


「あまりゆっくりとできません。手短にすませましょう」


 もしも今、襲撃を受けたら店に大変な迷惑が掛かる。 おじいさんに向かって端的に言うと、冒険者の2人は窓の側に移動してくれた。


 おじいさんは、一緒に来たのに側にいるでもなく、店の商品をみるでもない2人を不思議そうに見ていたが、すぐに気を取り直した。


「では、商品を見てもらおう」


 おじいさんが言うと、おかみさんと職人さんが買って来てくれた商品の説明を始めた。


「水差しは、ガラス製と陶器製のもので迷ったんだけど、割れにくい方がいいと思って陶器の方にしたわ。ガラス製のものよりは安くなるけど、使い勝手はいいと思う。

 ティーポットは私のお気に入りの工房の新製品で、軽さの割には保温性に優れていて、美味しいお茶が入れられるそうよ? リストにはなかったけど、ティーストレーナーも買ったの。いらないなら私が引き取るわ。 水差しもティーポットも同じものを2つでよかった?」


 不安そうなおかみさんに笑って頷いた。


「大皿と中皿は、意匠を揃えてみたわ。 少し洗いにくいかもしれないけど、軽くてラインがとても綺麗だったから…」


「大丈夫です。とても素敵なお皿ですね♪」


 お皿洗いは【クリーン】任せだから、洗いにくくても問題ない。


「砂時計は砂の量でもわかるけど、3種類の色を変えてみたの。 タオルは少し大きめで肌触りの良いものにしたわ。 初級ポーションは3つ。卵は渡す時までに割れるのが怖くて新鮮なものを30個選んできたから、良いのを20個選んでもらってもいいし、必要なら全部受け取って?」


 卵を1つ1つ鑑定してみると、確かに新鮮なものばかりだ。 


「次は俺だ。 寸胴鍋はあんたがこの店で買った物と同じ物にした。 1ℓのビンと5ℓの樽は知り合いの工房で揃えたから品質は確かなはずだ。 ロープはオルーガの糸を編みこんだ物で、ゴブリン程度ならこれで十分だろう」


「オルーガ?」


「1メートルほどの芋虫型の魔物だ。吐き出す糸を編みこむと、ロープの強度が増す」


「そう。 お2人とも、どうもありがとう」


 きちんと考えて用意してくれている。2人にお礼を言っておじいさんに向き合った。


「娘さんの指定した商品はこれで全部だ」


 おじいさんが指差した先には指定した通りのすりおろし器と斧とたらいとバケツ。それに、大量のビンがあった。


「ビンはこの店の全部という事だったので、多い方がいいかと思って工房から買い付けてきた。多すぎたか?」


 おじいさんの質問に笑顔で答えると、安心した表情かおの後に困った表情(かお)になった。

 皮袋を私に差し出しながら、


「ここに500万メレある。 …娘さん、用意した商品は全て合わせても1,000万メレには遠く及ばない。他に何が欲しい?」


 不安そうに私を見つめながら言った。


「この店の中に、欲しいものはもうないわ」


 そう言うと、4人とも顔がこわばってしまったが、別に治療をしないとは言っていない。


 お金の入った皮袋と商品を全てインベントリに収納してから、おばあさんに向き合う。


「【リカバー】」


 光がおばあさんに吸い込まれるのを見届け、【診断】で治ったことを確認してから、驚いて硬直している4人に声をかけた。


「揃えてもらった商品に不備もなかったことだし、足りない分はまけてあげる。じゃあ、元気でね」


 待ってくれていた2人に声を掛けて店を出ようとすると、おかみさんがまた腰に抱きついてきた。


「待って、待って、待って、待って!!!」


「え、何? おばあさんはちゃんと治しましたよ?」


「本当に治ったのか…?」


「娘さん、待ってくれ! 今度も礼を言わせてくれないのか!?」


 職人さんは疑っているようだけど、きちんと治した。 店の安全の為にも早く出て行きたいんだけど…。


「……見えるわ。 オリオール、あなたの顔が、見えるわ!」


 おばあさんが涙を流し、よろよろとだけど、自分で歩きながらおじいさんに抱きついた。


「アーリー! ああ、アーリー……。 娘さん! ありがとう! 本当にありがとう!」


「お嬢さん、ありがとう! 私、あなたに失礼なことをしていたのに……。 ありがとう!」


 2人とも泣きながら抱き合い、私にお礼を言ってくれた。


「どういたしまして」


 うん、治ってよかった。 こうやって喜ぶ姿を見ると、昨日の腹立たしさが霧散していくんだから、私も大概単純だ。


 ほっこりした気分のまま、店を出るために歩き始めると、


「待って! お嬢さん、待って!」


 また、おかみさんが腰に抱きついて引き止めた。


「お嬢さん、本当にありがとう! 一緒に裏口まで来てもらえるかしら?」


「いいですけど…」


 おかみさんに返事をすると、2人の冒険者も動き出した。 …この機にじっくり観察して、護衛の仕方を学ばせてもらおう。







「これは…?」


 裏口のドアを開けると、すぐ横にトマトとオレンジが詰まった箱が置いてあった。


「なんとなくだけど、こんな結果になりそうな気がしていたから……。 ささやかだけど、私からのお礼なの」


 おかみさんは箱の前に立っていたBランクさんに驚きながらも、笑って言った。


「お嬢さん、本当にありがとう! ……今更だけど、名前を聞いてもいい?」


 …そういえば、私は名前を知っているけど、テルマさんたちに自分の名前を名乗った覚えはないな。


 それどころか、力を貸してくれている冒険者の4人にも名乗っていなかった!


「私はアリスよ、テルマさん。 美味しそうなトマトとオレンジをありがとう! 遠慮なくいただきます!

 それから、冒険者のみなさん。私はアリスといいます。今まで名乗りもせずにすみませんでした」


「俺はアルバロだ」

「マルタよ」

「イザックという」


 バトルアックスのおじさまはアルバロさん、親切なおねえさまはマルタさん、Bランク冒険者はイザックさん。善意で協力してくれている人に礼を欠いていたことを反省しよう…。


「今日1日、よろしくお願いします」


 改めて頭を下げると、3人は笑って頷いてくれた。


「テルマさん、これを預かっていてもらえますか? 後でお店のほうにお願いしに行こうと思っていたんだけど…」


 私はテルマさんに小さな布袋を差し出した。 昨夜、手ぬぐいから縫ったものだ。


「お金…? 50万メレもあるじゃない!」


「ええ。おばあさんには絶対に内緒で、おじいさんに渡してもらえますか?」


「どういうこと…?」


「せっかく治した2人が、餓死とか衰弱死とかするのを想像したくはないので。 払ってもらった治療費には仕入れの分も含まれていたでしょう? その分だけお返ししますよ」


 ただでさえ破格の治療費なのに、とか、お嬢さん1人が損をしすぎる、とか、色々と言ってくれたけど、トマトとオレンジがとても嬉しいから十分だと手を握り締めながらにっこり笑って押し切ると、溜息を吐きながらも引き受けてくれた。


「くれぐれも! おばあさんには内緒でお願いしますね?」


「ええ、わかっているわ。 良い方向に変わってくれるせっかくの機会だもの。大事にしないとね!!」


 ……テルマさんも、おばあさんには含む所があったのかな? とってもいい笑顔で約束してくれた。


ありがとうございました!

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