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冒険者ギルドで売られた喧嘩 2 

 さっきまで心配そうだった女性職員さんと受付男性も戸惑いの視線を向けてくる。


「この男が【鑑定スキル】を持っていないと思い込んでいる理由は何?」


「ギルド職員は雇用時に【鑑定士】から【鑑定】を受けて、おかしな称号やスキルを所持していないかのチェックを受けるんだ。その記録にも、鑑定能力所持の記載はない!」


 なるほど。正式な記録があるのか。 そりゃあ、初見の私よりもギルド職員の方を信じるわ。


「そうだ! わたしは【鑑定スキル】なんか持っていない! わかったら早く離せっ!」


 メガネの職員はここぞとばかりに無実を主張するが、簡単に離すわけがない。


「その鑑定に不備があったら? この男が【隠蔽】スキルを持っているなら、【鑑定士】を欺くことも可能よ?」


「そんなことはありえない!」


「その根拠は!!?」


 ギルドマスターは、私の言う事を頭から否定している。このままじゃ埒が明かない。


「根拠がないなら、この場で真実を追究しなさい! この男に対する【鑑定】を要求するわ!」


「何を言っているんだ? 鑑定はとっくにしていて、結果はもう出ている!」


「そ、そうだ! ど、どうして私がこんなに大勢の前で鑑定を受けないといけないんだ! ふざけるな!」


 メガネの職員に少し焦りが見えた。


「その鑑定結果に不備があると言っているの。 この男が無実だと言い張るのなら、無実の証明にこの場で鑑定を受けさせなさい! この状況で頑なに拒否を続けるのは、後ろ暗いことがあると告白しているのと同じよ?」


 私が自信満々に言い切ると、周りの冒険者の中から同調する声が出だした。


「鑑定を受けさせればいいじゃねぇか。それではっきりする」


「このままじゃ、俺はこのギルドを信頼できなくなる。はっきりさせてくれ!」


 そんな声が大きくなると、ギルドマスターも無視できなくなったのか、


「わかった! この場で再鑑定を行う! この鑑定の証人はギルド職員と、この場にいる冒険者達だ! その上で、ダビが無実だと証明されたら、おまえはどう責任を取るつもりなんだ!?」


 メガネの職員はダビと言うらしい。 無実なんてありえないと思うんだけど…。保護者ハクに聞いてみよう…。


(私の勘違いってあると思う?)


(大丈夫にゃ! ビジュー様からいただいた能力をを信じるにゃ!)


(うん!)


「この男が無実なんてありえない! もしも冤罪だと証明されたなら、私の全財産を支払った上で謝罪するわ!」


 胸を張って主張した。


「全財産って言っても、まだ若く冒険者としての活動すらしていないおまえに、どれだけの財産があるって言うんだ!? 奴隷に落とされたいのか! 今すぐに詫びて、ダビに慰謝料を支払うなら、ここで罪はなかったことにしてやる!」


 ……どうやら私は、『“強請りたかり”に来て失敗し、引っ込みが付かなくなった小娘』とでも思われているらしい。


 私はマントをインベントリに収納して、周りに全身を見せ付けた。


 ビジュー特製の<着物ドレス>と<鴉>だ。これの価値がわからない朴念仁もそうはいないだろう。 ネフ村ではこの装備のお陰で『お嬢さま』だと誤解されていたんだ…。


 念押しに<鴉>を鞘から引き抜き、刀身を見せ付ける。


「あの剣はなんだ? 見たこともないが…」


「一見簡単に折れそうに見えるけど、違うな。 ……業物だ」


「なによ、あのドレス。 あんなのを普段使いにできる財力があって、強請りなんてするわけないよ」


 狙い通り、周りの共感は得られたようだ。


「この装備が財産よ! もしも私が間違っていたなら、アイテムボックス内の荷物も含めた全財産を支払って謝罪するわ! 

 それで、おまえは!? その男とおまえはどうやって責任を取るつもりなの!? まさか、私にだけ責任を取らせるつもり!?」


 仮にもギルドマスターと呼ばれている男なら、こんなに大勢の前で、そんな格好悪いことは出来ないだろうが。


「ダビが鑑定スキルを所持していることが証明されたなら、今回は自動的にダビは犯罪者として認められるだろう。本人はスキルの所持を否定しているからな。 ダビの全財産がおまえのものになる! そして、俺の全財産もおまえのものになる! おい、会計! 今すぐ俺の口座を凍結しろ!」


 ギルドマスターは会計席にカードを放り投げて、周りを見た。


「急ぎの依頼がない冒険者はこのまま証人になって欲しい。 依頼を受ける冒険者は仕事に行ってくれ! 足を止めさせて悪かった! 

 誰か、<買い取り担当>のネレアを迎えに行って来てくれ! この時間ならまだ家にいるはずだ!」


 買取担当か。その人がダビを鑑定した【鑑定士】かな?


「冒険者の皆さん! どうか私に力を貸してください! 私はこのギルドの息の掛かっていない【鑑定士】を求めています。どなたか信頼できる【鑑定士】に心当たりはありませんか? 紹介してください!」


 見物人となっていた冒険者たちに向かって頭を下げる。誰かが何かを言ってくれるまで頭を下げ続ける。


「どうか、お願いします!!」


「………<商業ギルドの買取担当>なら、公平に鑑定できるんじゃないか?」


「<道具屋・ヒメネス>の店主も、鑑定の腕は確かよ。利害も絡まないわ」


 よし! 反応をしてくれた2人を確認して、もう1度頭を下げる。


「お手数ですが、お2人のご存知の方に協力をお願いしてもらえませんか?

 あなた方には、その方達を迎えに行っていただきたいので、<依頼>として依頼料をお支払いします。 ですが、その鑑定スキルをお持ちのお2人には、利益供与となることを避けるためにお金はお渡しできません…。 なんとかご協力を願えるように説得をしていただけませんか…?」


 1人ずつ視線を合わせて、頭を下げてお願いすると、


「金なんていらねぇよ。 これは俺達冒険者にも関わりのあることだからな」


「あんたは自信があるのね? だったら協力する。 依頼になんてしなくていい」


 2人は笑って、ギルドを飛び出していった。


 ドアが閉まる音がするまで下げていた頭を上げる。 ダビの背中をずっと踏んでいるのにも疲れたので、横にいる女性職員さんに視線で助けを求めると、職員さんは困ったように笑って、


「ダビの事は冒険者の皆さんにお願いして、足を下ろしたら? はしたない格好になってるわよ?」


 そう言って視線をそらせた。 改めて自分を見下ろすと、確かにはしたない。 慌てて足を下ろして、スカートの裾を押さえた。


 もちろん、スカートの裾に視線を合わせていた男たちを睨んでおくことも忘れなかった。


ありがとうございました!

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