俺と幼馴染とコスプレーヤー
…この季節はいつ来ても神だな。
何とか乗り切った赤点補習からギリギリの点数で解放され夏コミを満喫していたのは俺、千葉悠太だ。
ごく普通なオタクをやってる。2次元は俺の嫁だ。
そんな嫁の同人(主に百合)を探しつつ、普段はまったく使うことのない体力と筋肉を使い片っ端から買いあさる。
もちろん、1人で来ている。このような神聖な場では友人とワイワイやるのは俺からしたら邪道だしな。
……決してそういう存在がいないわけではない。指で数えられるくらいには話せるやつはいる(友達とは言っていない)
カタログにマーキングしておいたサークルをほぼほぼ周り終え、中も外も変わらない蒸し暑さだが外の空気だけでも吸おうと東館を出る。
持ってきてあったお茶を飲みつつ、周りの様子をうかがう。
まさにオタクと言わんばかりの男がかわい子ちゃんのイラストが描かれているでかいバックで会場を駆けまわっていたり、ここ数年で増えている洒落た女が痛バを持って友人とキャーキャー言ったりしている。
そして、さっきから目につくのがコスプレイヤーだ。
夏だけあって露出度が高い衣装ばかりだ。
だがしかし、俺はそんなものに興味はない。
女は二次元だけだからな。
と、ぶつぶつ言っている俺の前を一人の女コスプレイヤーが走り去る。
・・・?
どこかで見たことがあるような少女だったが、目の色とメイクでよくわからなかった。
おそらく最近俺がはまっている《Catなメイドちゃん☆》のアニメに出てくる主人公だったから勘違いしただけだろ。
残りのお茶を飲みほし、残りのサークルをまわることに専念することにした。
「ふぅ~、まわりきったななんとか…」
満足な顔をしているつもりだが、不満なことがただ一つ。
スマホを見ながらため息をつく。
「サークル限定フィギュアを買い逃したのは痛かったな…」
俺としたことが、Catなメイドちゃん☆のフィギュアを買い逃すとは…休憩してないでもう少し早く行っていれば…
考えても仕方がない。すでに棒になっている足を何とか動かし、最後の戦争でもある帰りの満員電車に乗り込んだ。
「……た!……悠太!!」
「……ってぇよ!!!!アホになっちまう!」
うるさい母さん怒鳴り声と足をたたかれた痛みで目を覚ます。
「いつまで寝てんの、もう12時!!あともう手遅れよ!!」
そう言うと俺の部屋のカーテンを開け、今度は頭をひっぱたかれる。
再度「いてぇ」と頭をさすっていると、白いビニール袋を突き出す
「これおばあちゃんから沢山もらったキュウリだから瀬理さんにも分けてきて。」
「はぁ?なんで俺が…」
「ついでに、そんなだらけてる暇があったら七夏ちゃんに土下座して勉強でも教えてもらったら?」
息子を簡単に土下座させようとすんなよという言葉を引っ込め、近くにあったTシャツとズボンに着替えて隣の家に向かった。
俺のうちの隣は母親同士のつながりで小さいころからよく遊んでた…いわゆる幼馴染の瀬理七夏が住んでいる。
俺とは真逆で勉強できるわ運動できるわ…それに加えて容姿端麗で性格もいい。それこそ2次元から出てきたような存在だ。
実際、3次元であることに変わりはないから興味はないけどな。
ピーンポーン
「………?」
誰もいないのか。
普通ならここで帰るところだが、そこは幼馴染の特権。
昔はよく遊んで通いなれていたために普通に入ることができる。
不用心だとは思うが、なんせこんな田舎に泥棒とか空き巣とかこないために玄関のドアが開けっ放しなことも少なくはない。
「こんちは~…」
何も返ってこない。出かけてるのかとメモ書きしておすそ分けのキュウリを置いていこうとすると
バタンッ
「…!?」
2階から何かが落ちる音がした。誰かいるなら返事してくれよと思いつつ階段を上り、通路を見回してもそこには誰もおらず荷物置きの部屋以外は七夏の部屋しかなかった。
特に何の迷いもなく七夏の部屋の扉を開けるとそこにはベッドから転げ落ちてもなおすやすや眠る七夏の姿があった。
昔から寝相は良かったはずなのに珍しい。そんなことを思ったのは束の間だ。
次の瞬間俺はこいつの部屋には絶対ないはずであろう代物を手に取り
「サークル限定フィギュアぁぁぁぁ!?」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
俺の声に驚き、七夏の悲鳴が上がる。
「あ、悪い。なんでこんなものがお前の部屋にあ…」
パシッ
「………」
無言でフィギュアをぶんどられ、立ち尽くす七夏。
まさかこれがきっかけで俺があんなに振り回されることになるなんて、誰も思いはしないだろう。
続