中
弟の日記というか感想です。
夜会にて、公爵令嬢である姉が壊れた。
いや“狂った”と言った方がいいのだろうか。
わがままで、贅沢三昧の日々、自分が世界の中心と思っていた姉。
メイドはもちろん、家庭教師や、お茶会に来ていた令嬢達に対しても
「気に入らない」
の一言で、嫌がらせをする。
実の弟に対しても会う度に嫌がらせをする姉が、突如として“聖人”に変わったのだ。
夜会が始まり、第一王子のファーストダンス待ちの時に
「喉が渇いたから、何か飲み物を持ってきなさいよっ!」
いつもの如く,姉の機嫌を損ねる前にと飲み物を取りに姉の側を離れた。
その直後に姉の悲鳴が聞こえた。慌てて姉の元に戻ると姉は、気絶して倒れていた。
誰かに何かされたのかと周りを確認するが、誰も姉に近づいてないらしい。
倒れた姉を抱え、早々にその場から立ち去った。あのまま会場にいては、不敬と思われるかもしれないからだ。
屋敷に戻り、急いで医者に見せた。父には、会場で姉が倒れたこと、すぐに立ち去ったことを執事に伝えさせた。何か合ってからでは、遅いからだ。
主治医の診断では、特に問題はないらしい。一晩休ませて、様子を見ることになった。ほっと胸を撫で下ろした。
しかし、翌朝目覚めた姉は、異様だった。いや、まともになったというべきなのか?
“あれは、一体なんだ”
本当になにもなかったのか?きっと会場で何かがあったはずだ。
あの時、姉の側を離れるべきではなかったと後悔した。
今の姉は、明らかにおかしい。気持ち悪いぐらいに優しいのだ。
周囲の人間が戸惑うほどに気遣いも出来る。今までの非礼をメイドたちに詫び、お茶会で嫌がらせをした令嬢たちには、詫び状とプレゼントを贈っていた。
週末になれば、孤児院に行き、子ども達に本の読み聞かせなどの奉仕活動をし、帰る時には、多額の寄付まで!!ありえない!!!
「寄付するなら新しいドレスの一枚でも買うわ」
と言っていたあの姉が!!!
姉は、毎朝っ!笑顔でっ!メイドや僕にまでっ!
あいさつをするなんて・・・ありえない、寒気がする。
以前の姉を知らない者は、姉の事を“聖人”・“天使”なんて言うだろうが、僕は受け入れがたい。
父や母は、
「公爵令嬢としての心構えがやっと芽生えた」
と喜んでいたが、あれは違うだろう。倒れたときに頭を打ったのか?
それともショックなことがあったのか?姉のソックリさんと入れ替わってる!?
なんにせよ姉に何かが起きたのだ。
ある夜、何気なしに姉の部屋の前を通った。開いている扉から見えたのは、床に座り込み、ノートに何かを書きながら、ぶつぶつと独り言をいっている姉の姿だった。
白い夜着を着ているためか、その姿は、貞子の様で若干引いた。(貞子?うん?何か頭の片隅で聞きなれない言葉が・・・)
「なんで、悪役令嬢なのよっっ!!!!!!思い出すにしても、もっと早くに思いだしてよぉ~。時間がないじゃないっっ!生まれ変わるなら、せめて転生するなら、オリジナル版でしょ!?なんで、恋愛ゲームの小説版なの!!神様の意地悪!!このままじゃ、よくて国外追放コース?いやいや待て、待ってよ~生涯幽閉コースも残っているはず・・・それにまだ18禁の腹ボテアヘ顔もありじゃないっ!?ありえない、ありえない、ありえないぃ~。あぁフラグは、どれだけ折れたかしら?折ってるはずなのにあまり変化がないのは、どゆこと~~~!!!このまま修道院に入っちゃう!?そうする?でもその前にすべきことは・・・」ブツブツブツ・・・
そっと扉から離れた。何か見てはいけない物を見た気がした。
ワタシハナニモミテイナイ・・・そのとき思ったのだ。忘れよう・・・。うん、そうしよう。
それから姉とは、付かず離れずの距離を保っている。いままで散々嫌がさせをしてきた姉。
突如として、品行方正で、淑女らしくしている姿を見ると【何か企んでる】としか考えられない。そうでないにしても、長年の疑念は、すぐには払拭されない。
毎日姉は、僕を見つける度に
「今までのことは申し訳ない、許して欲しい」
と言ってくる。壊れたオルゴールのように繰り返すのだ。ほんと疲れる。
「気にしてませんよ姉上」
と言っても信じてもらえない。距離を保つしか方法が思いつかないのだ。
いったいこれはいつまで続くのだろうか?
姉が倒れた夜会から約半年ほど過ぎた頃、恐ろしいことが起きた。なんと王妃様のお茶会にご招待されたのだ。
今や“天使”、“聖人”といわれる様になった我が姉。それなりの地位にいる貴族からお見合いが殺到しているらしい。
当の本人は、
「私には、大変もったいない方です」
とすべて断っている状態だ。それを聞きつけた王妃様が、
「ぜひうちの子を紹介したいわ~」
とのこと。
父上や母上は朝からバタバタしている。王妃様からの直接のご招待なんて、滅多にないのだから。
しかし姉は、部屋に篭っているらしくメイドが何度呼んでも部屋から出てこない。
「王妃様のお茶会に行くのに、いろいろと準備をしないといけませんのにぃ~!」
とメイド達が顔面蒼白で半泣きになっていた。
仕方無しに僕が呼びに行くことになったが、部屋の前まで来ると何やら聞きなれない言葉の数々がブツブツと聞こえてきた・・・。
「どうしてよぉ~。なんで孤児院で、王妃様にエンカウントするのよ~!!!。会うのは教会だったはずなのに!だからあの日は、教会には行かずに孤児院にいったのよっっ!!このままお茶会なんか行ったら、第二王子と婚約になるじゃないっ!ないわぁ~ないないっ。マザコンなんてムリっ。第三王子とかもムリ~。見た目天使で、中身がサディスト・・・・。夜な夜なムチとか拘束具とかぁ嫌だし!!。それに王女様達なら何かの拍子に不興を買って、娼館に送られるとかぁ~ムリゲーだわっ。
でもっでもっよ?もしかしたら、本当にただのお茶会かも?でも・・・ね~?
いやっ、いままでフラグ折ってたはずなのに何でか、筋書き通りに戻されてるのよ!もしかしてなんてあるかもぉ~あぁ~どうしよう!!!!」
うん、聞かなかったことにしよう。そうしよう・・・。
コンコンっ
「姉上~出てきてくださいっ!メイドたちに仕事をさせて下さい!姉上~」
「ホンジツハ、タイチョウフリョウノタメ、オチャカイヲケッセキイタシマス・・・」
「とりあえず出てきて下さい。父上に話していただかないと僕ではムリですよ?」
「・・・わかったわ・・・。行ってくる。」
何がどうしてこうなったのか、その日のお茶会は、僕が変わりに行くことになった。
なぜだ!?
そこで、お茶会をご一緒した第一王女様に一目ぼれされてしまい、その場で仮婚約までしてしまった!!?(正式な婚約は、お互い成人してからとなった。王族なので時間が掛かるのと、手順番を踏まなければならないからだ。)
一方、姉は、王妃様主催のお茶会を欠席してしまったので、その罰として?修道院でシスター見習いとして2年間過ごす事となったらしい。だからなぜっ!?変わりに行ったので問題ないはずなのに?
「俗世を離れて、神様のことを学びたいのです」
ということらしい。さっぱり分からない。本当になぜそうなった?
一体、姉は、父上とどんな話をしたのだろうか?父上に聞いても渋い顔しかしない。もちろん姉は、
「神様のもと色々と学んできますね。帰ってくるのは16歳の誕生日を過ぎてからになります。♪」
と楽しそうに修道院へ行く準備をしている。
見てはいけない、聞いてはいけないことがあるというが、ここでは、姉に関することは、触れないでおこう。
本当に振り回されているだけです。