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 今宵は、華やかな夜会が開かれている。ただ、その華やかさの裏で、貴族同士の腹の探り合いの場でもある。

 この夜会は、ネフロ公国第一王子の成人を記念して開かれた。

ネフロ公国では、男女とも16歳で成人とされる。国王の子ども達は、全員で5人おり、第一王子、第二王子、その下に双子の第一王女と第三王子、そして第二王女がいる。

子どもの年齢は、それぞれ2歳ずつ離れている。

王妃さまの

「子どもは、たくさん欲しいけど、自分できちんと育てたい」

との要望を国王さまが叶えた。

 この二人は、恋愛結婚だ。何年経っても周りが胸焼けをするほどに仲睦ましい。


 今夜の夜会は表向き、第一王子の成人を記念してとこのことだが、実際は、未だ婚約者がいない第二王子以降の王族たちへの婚約者候補に、『是非わが子を!』と画策する貴族達で大いに賑わっていた。

王妃さまの

「好きな人と一緒が一番!」

とのことから恋愛結婚が望ましいとされ、政略的な婚約者は誰もいない。


 第一王子には、婚約者がいる。幼稚舎の時、同級生に一目ぼれし、そしてそのまま早々に婚約した。

そのことから王族との婚姻を望む貴族たちは、少しでも会う機会が増えるようにと王子・王女と同じか一年程度の歳の差になるように子づくりに励んだ。


 ネフロ公国の四大公爵の一つ、ウェンディーネ公爵もその一人である。彼には、第二王子と同じ年の娘が一人、第一王女と同じ年の息子が一人いる。この子達のどちらかが王族と婚姻に持ち込めれば、国に対して今以上に大きな影響力を持てると考えている。

そんな彼には大きな悩みが一つある。それは娘のフロレンティーナのことだ。仕事の忙しさにかまけ、妻と乳母に子育てを丸投げした。

 彼女は、蝶よ花よと甘やかされて育てられたため、気に入らない事があればヒステリックになり、酷い時は、泣き叫び、周りに当り散らすようになった。

 まだ小さな子どもならば、それも可愛かったが、成長するにつれ、周りへの当りがきつくなってきた。

彼女の家庭教師は、もう何人も替わっており、身の回りを世話する専属メイドもだれも成りたがらない。お茶会でも格下の令嬢には、嫌がらせの嵐。

現状、公爵令嬢には、同じ公爵か王族以外誰も逆らえないので、泣き寝入り・・・。

 彼は、この報告を聞いたとき、『我が子の育て方を間違えた』と気がついたのだが、今更どうにも出来ずじまいでいた。

今夜の夜会も連れて来るにも少々骨が折れたのだ。

フロレンティーナは、口を開かず大人しくしていれば、儚げで今にも折れそうな華奢な身体つきにさらりと流れる黒髪ストレート。釣り目がちの潤んだブルーの瞳は、今にも目から零れ落ちそうで、護ってあげたくなるような見た目だ。

しかし、ひとたび口をひらくと見た目を裏切り、傲慢で我侭なヒステリックな性格が浮き彫りになる。

『せめて!せめて!この夜会が終わるまでは、フォロレンティーナには、猫を被っていて貰わねばならない。息子には申し訳ないが、フロレンティーナが暴走しないように見張っていてもらわねば・・・。』

彼の息子は、フロレンティーナとは真逆で、物静かで品行方正・成績優秀で、どこに出しても申し分ない。ただ地味な外見を除けばの話だか・・・。


 隔世遺伝とは恐ろしい。代々この公爵家は、黒髪と吸い込まれそうなブルーの瞳が特長だ。婚姻を結ぶ時もそれを重視してきた。

しかし、何世代かに一人、髪も目も焦げ茶で、パッとしない見た目の子が生まれてくる。残念ながら彼の息子も、この地味でどこにでも居そうな焦げ茶の目と髪だ。

一族の中では少しばかり浮いてしまう存在だが、何世代に一人の割合で必ず生まれてくるので、“先祖帰り”ということを知らない人間は、一族内にもこのネフロ公国にもいない。

だが、彼の家での居心地は、決してよくない。実の姉から見目が悪いと罵倒され、仕舞いには


「私に近づくな!お前なんか弟ではない」


と言われている。なので彼は、実姉の視界に極力入らない様に日々神経を使いながら生活しているのだ。

父親は、そんな事も知らず、夜会で姉の(エスコート)見張り役を彼に頼んだ。

彼も姉に暴言を吐かれるのは嫌だが、それ以上に彼女の暴走で他の人に迷惑をかける方がもっと嫌だった。しぶしぶ父親の頼みを聞いたのだ。しかし父親のこの頼みごとは、断るべきだったと後から後悔した。

 


 この夜会で、ネフロ公国の四大公爵の一つ、ウェンディーネ公爵の娘、フロレンティーナ嬢は壊れた。いや狂ったのだ。



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