プロローグ
俺は神愛 与。高校2年生だ。名前が俗に言うキラキラネームに見えるかもしれないが、そうではない。家の家系は先祖代々運が良い。そして恵まれた万能な才能を持って生まれてくるのだ。そのためか、大昔に神から愛情を受ける一族と言う意味を持ってお偉いさんに『神愛』と苗字を付けられたらしい。ちなみに与という名前は持っている才能や運を私利私欲の為に使わずにみんなの為に使って欲しいという意味があるそうだ。
自分で言うのもアレだが、その一族の端くれである俺も運や才能に恵まれている。だが普段の生活、学校生活でも才能を発揮させることはない。なぜなら普通くらいと言うものが好きだからだ。だから俺は幼稚園の頃からわざとレベルを落として普通を装って生きてきた。だから親戚や一族の関係者は俺の事を
『出来損ない』
『一族の疫病神』
などと言い、処刑される予定だった。だが親は、家族は俺を理解してくれていた。わざとレベルを落としている事に対しとても肯定的に見てくれた。親が色々と手を回してくれたらしく、処刑は無くなった。だがこの一族からは抹消され、隠し子的存在になっている。
無論、普段は偽の苗字を使っている。
学校も普通よりも少し上くらいの田舎の高校に入学した。普段も成績は普通を取り続けている。ーーーはずだった。
「与!今日の体育のバスケで多く点数取った方が学食奢りな!」
俺の唯一の友達、隠沢 翔。頭も容姿にも恵まれている。親しくなってから彼は事あるごとに勝負を挑んでくるようになった。最初はわざと負け続けていた。だが途中で負けたくないと思い始めてしまった。この時俺は負けず嫌いな事に初めて気がついた。その後、彼より少し上を狙いほとんどの勝負に勝ち続けている。だが一つだけ、彼に勝てないものがある。それはバスケだ。無論、普通の部活生レベルなら俺なら勝てるがそんなレベルじゃない。バスケの天才なのだ。俺が全力でやっても勝てない。どんなに練習しても勝てない。だがそんな彼との勝負のせいで、普通だった成績も上位入りしてしまった。俗に言うインキャだったのに普通にみんなに話しかけられるようになってしまった。だがこれも悪くない。
そして学校が終わった。毎週金曜日は翔の部活が休みなので一緒に帰っている。
『残念だったなー、バスケ勝てなくて。学食、ごちそうさま!』
と笑いながら翔が言った。
『バスケは勝てる気がしないよ。』
『そりゃ、俺は天才だからな!』
『自画自賛すぎだよ』
なんて会話をしながら森の道路の真ん中を歩き俺が右側。翔がその横を歩き二人で笑いながら帰る。毎日が幸せだ。普通の高校だからこその楽しみがあり、友があり、クラスメイトがいる。高貴な高校などに行っていたらどうなっていたか...。
そんな事を思っていた時だった。次の曲がり角の奥の方にいるトラックが猛スピードで走ってきた。助手席に乗っている男が言った。
『時間がない、急げよ、次右だからな。』
そして俺たちの方。つまり右側に勢いよくカーブして猛スピードで走ってきた。
『あっ』
トラックは止まる様子がない。俺たちのことが見えていないのだろう。このまま走ってきたら推定して1〜2秒ほどで俺達にぶつかるだろう。翔も気づいているようたが、このままでは二人とも避けられずに大事故になるだろう。おそらく避けるには自分の力だけではなく他人の力を加えなければトラックと衝突する範囲内から出られない。要するに、どちらかがどちらかを押し出せばいいのだ。
ーーーーーードンッーーーーーーーーーーーーーーー
『やべぇ、スピード出し過ぎちまった。』
『馬鹿野郎!取り敢えず証拠が残らない内にさっさと逃げるぞ!!』
トラックはそのままどこかへと行ってしまった。
俺は今、道路の真ん中で横になっている。無論、ただ横になっている訳ではない。意識は残っているが体の感覚がない。骨が折れてるのか、はたまた部位ごと持っていかれたか。おそらく五体満足ではないと思う。何故こうなったか。それはとても単純で翔を助けたからだ。二人とも助かるようないい方法が他にあったかもしれないが、思いつかなかった。これは自分のレベルよりも凄く下の高校に入学したせいで頭の回転が鈍くなったのだろうか。いずれにしても、これが普通を装って生きてきた結果だろう。まだ意識がある辺り即死ではないだろうが、時期に命を落とすだろう。
結局、俺は自身の才能を無駄に持っていただけなのだろうか。親孝行もできず、親の想いの通り自身の運や才能を他人の為に使うこともしていない。これまで生きてきた中で使ったのは自分のためでしかない。
こんな事ならーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『最初から、運や才能なんて授けなければ良かったのに。』
『意識が戻ったかい?』
ふと気がつき目を開けるとそこは見たことがない部屋で、俺の横に年配者の男が立っていた。
分かることといえば、俺はベッドの上にいる事と体の感覚が戻っている事。何より生きているという事だ。
『おっと、まだ動かない方がいい。まだ治療したばかりだからね。』
治療して治るような状態ではなかったと思うが。
『ここはどこですか?』
そう聞くと驚いた様子の年配者の男。
『ここは、ドローランで一番の治療屋だよ。私の名前はジャック・シザー。』
何か誇らしげに言う年配者だが、どれも聞いたことのない名前ばかりだ。
『ふむ、ここはコロッセルでも一番有名な治療屋なのだが、知らないとなると記憶障害が疑われるな。』
記憶障害も何も、単純に知らないのだが。
『無理もない、右足と左腕が千切れていて体中を骨折さらに出血多量ときたら死亡寸前だもんな。私が見つけなかったら今頃死んでいたよ。』
とんでもない事実が飛び込んできた。右足と左腕が千切れていた。今生えている自分の腕を見ても、事故前の腕と変わらず他人のものを移植したとも、人口の腕とも思えない。俺はしなければならない質問を通り越し、一つの質問をした。
『どうやって治したんですか?』
『お、よくぞ聞いてくれたね。君はこの治療屋の近くにある森の中に居てね。私が散歩している時に見つけたんだ。君を治療屋に運びながら腕と足を探したんだが見つからなくてね。ここで私の秘術を使ったんだよ。』
秘術というと魔法的な何かだろうか。この日本に存在しているとは思えないが。
『君の脳の記憶の腕と足を仮想空間に作り出し、そこで君の細胞をちょこーっと貰って増殖させ腕と足を作り現実空間に持ってきたんだ。どうだい?作った四肢とは思えないだろう?』
流石に非現実的な言葉が多すぎた。とりあえず魔法があるとしか思えない。だがとりあえず行っておかなければならない言葉がある。
『治してくださり、ありがとうございます』
ジャックは少し驚いた顔をしつつ、嬉しげな表情を浮かべ、言った。
『どういたしまして。』
俺はそして何から質問しようか、考えていたがそれを見透かすかのようにジャックが言ってきた。
『君は本当に記憶障害が疑われるな。とりあえず学屋の本をあげるから、それを読んで記憶を戻すきっかけにしなさい。』
そういうといきなり本が手から現れた。その本は宙に浮かびベッドの隣にある机に置かれた。
『とりあえず私はこれで失礼するよ。また明日の朝ここに来るから、それまで安静にしてなさい。それとこの部屋から出るのは避けた方がいい。記憶がないのに外に出られても困るからね。』
そう言って部屋から出て行った。
俺は本を手に取り読んで見た。すると分かったことがある。
まずここはコロッセルという大陸。その中心にあるドローランという町らしい。かなり大きい町で、大陸でも一、二番を争うほどと記されている。大陸の形等は、俺の知る限りでは全く見たことがない。つまりここは
『異世界』
なのだ。