思ったより、悪くない人生だった
君との出会いからもう何十年経ったろう。お互いに成長し、お互いにお互いを思い始め、お互いに老化。
言葉では短い物語。
案外、そのくらいなものだったのかもしれない。君の笑顔も泣き顔も驚いた時の顔も、そんな多様な表情は時の中。
君といて、楽しいことも悲しいことも腹立たしいことだって当たり前にあって、その度に君は「好きだ」と言ってくれた。
すれ違ったり、遠ざけたり、突き放した時だって、君は僕と歩幅を合わせようと足掻き、踠き、苦戦しながらも必死に着いて来てた。
君に嫌気がさして喧嘩した時もあったっけ。
一方的に突きつける言葉で、君は涙しながらも聞いて最後にこう言ったっけ。
「でも、好きだから」
その一言だけなのに、やけに強引で何も受け付けない言葉。
その後はお互い改善出来る点を話し合う。
偽装せず、装わず、何も被らない。だから少しだけ暖かかった。
だから思ったより、悪くない人生だったーー。
「なぁ君はどう思う?」
そんな問いは彼女には届かない。
永遠の眠りに浸ってしまった君からは返答など返ってこなかった。
しわしわになった手を取り僕は君に伝える。
「僕も好きだよ」
とーー。