第8話 初めてのご主人様
朝の更新は早い時間だったのに、アクセス数がすごく伸びてました。ありがとうございます。
今回は本格的にメイド喫茶萌えきゅんがオープンするお給仕回前編になります。
自分がお散歩をすると大変さがよくわかる。秋葉原では個人に声をかけちゃいけないみたいで、メイドさんは立って通り過ぎる人達に話したり、恥ずかしがりな娘は立ってるだけだったりする。
「作戦を変えてみよう」
「どうするんですか?」
「一人に話しかけるんじゃなくて、人の多いところにいって、大きな声でみんなに聞こえるようにしてみるんだ」
「そうですね。その方が大勢の人に注目されれば来てくれる人がいるかもしれないですね」
少し場所を変えて、もっと人のいる場所に行く。正直、俺だって断られ続けるとメンタルがやられてくる。そろそろご主人様を連れていかなきゃ。
さっきよりも人通りが多くなり、俺は緊張してきた。そこまで大胆なことをするタイプじゃないから。
「メイド喫茶、萌えきゅん。今日からオープンしました」
俺が深呼吸して声を張り上げる。隣のメリーちゃんは笑顔で手を振る。
近くの人達が俺達の方を向く。メイド喫茶と聞き、メリーちゃんに視線が集まる。
「美味しい食事とドリンクを、可愛いメイドさんと話しながら、食べられるお店です」
俺の近くにいた二人組の男性が、ヒソヒソ話している。数秒後俺の前まできた。
「すいません」
「来てくれますか?」
「ちょっと興味あるんでいってみたいです」
よっしゃー。作戦を変えたらすぐに上手くいった。こっちの方が良かったのかもしれない。
「こちらです」
俺はお店に連れていきながら、お店のルールを話す。お触り禁止、下ネタやメイドさんの嫌がる話しはしない、メイドさんのプライベートを聞くのは禁止など。
「お帰りなさいませ。ご主人様」
ドアを開けるとシルリーたんとエイミンが挨拶をしてくれた。
「お帰り?」
「そうなんです。ここはご主人様のおうちという設定で、お二人はおうちに帰ってきたんです」
個人的には野暮な説明はあまりしたくないんだけど、初めての人にはちゃんと説明しなきゃね。
「なるほどね」
「可愛いメイドさんが三人もいる。ヨッシャラッキー」
ノリの良いご主人様だ。きっと楽しんでくれると思う。
「やっぱ俺って運が良いな」
戦士のご主人様は萌えきゅんみに来られたことを運が良いと言ってくれた。また来たいと思ってもらうためにも、良い接客をしなきゃ。
「それでは自己紹介をしますね。メリーです。よろしくお願いします」
お辞儀をするメリーちゃん。笑顔でどうもと返すご主人様。
「エイミンだよ~」
手を振るエイミンにニコニコと手を振り返すご主人様。
「シルリーです。強い人が好きです」
「俺達結構強いよ」
ご主人様達は冒険者手帳を出した。
冒険者手帳とは、戦闘を繰り返すことで、強くなったものを、数値化して書いておくノートだ。
筋力、素早さ、防御力、魔力などを魔法によって測り、それをメモしておく。
それぞれの職業によって数字の多い部分と少ない部分が違う。
「俺達はレベル十だぜ」
鎧を身にまとった戦士のご主人様が自慢げに言った。
レベルは冒険者手帳の名前の下に書かれる。十はこの街の冒険者では強い方らしい。
「すっごーい」
手を叩きながらメリーちゃんは小さく飛び跳ねる。こういうの上手い娘だなぁ。男は自分のすごいところを自慢したいし、褒められたいからなぁ。
「だろ。本当ならこの街から出ていって、もっと強いモンスターが出る街にいくのもいいんだけど、この街が気に入って」
確かにこの街は良い街だ。
ジルクさんの料理が美味しいのに、何でお客さんが入らないのか疑問だったけど、他のお店も美味しいお店がいっぱいあった。
「うちのご飯は美味しいですよ」
シルリーたんはメニューを渡す。
「くまさんハンバーグ、くまさんオムライス」
推しているメニューだから大きな字で書いてあったためすぐに気付いてくれた。
「くまさんって熊の肉を使ってるの?」
魔法使いのご主人様が尋ねる。
もっともな疑問だよな。
「こちらのメニューはくまさんの形になっている可愛いオムライスとハンバーグになります。他では食べられないですよ」
貴重な材料を使っているわけではない。可愛く料理を見せるようにしている。まずは目で楽しんでもらう。それがメイド喫茶のご飯だ。
もちろん普通のオムライスもいいけど、メイド喫茶に来たんだって気持ちになってもらうためには、こういうメニューにした方が良いと思う。
「じゃあ俺くまさんハンバーグにしよう」
「僕はくまさんオムライスにします」
「ドリンクはどうしますか?」
メリーちゃんが尋ねる。メイド喫茶はほとんどのお店で、一時間ワンドリンクは頼むようになっていて、チャージ料がかかる。
メイド喫茶の場合は、飲食よりもメイドさんに会うのが目的だから、ワンドリンクで長時間いられると、お店は困ってしまう。
「コーラで」
「僕もコーラで」
シルリーたんが注文をメモして、厨房へいった。
「こんなお店があったんだね。まだこの街にきて数日だから知らなかったよ」
「今日オープンしたんだよ」
エイミンの言葉に驚くご主人様達。
「だからお客さん連れてきたんだね」
「そうなんです。中々来てくれる人がいなくて」
メリーちゃんはさっきまでの苦労を思い出して、疲れた表情を一瞬浮かべた。でもすぐに楽しそうに微笑んだ。
「だけど俺達はそのおかげで来れたから良かった」
「お二人はこの街に何しに来られたんですか?」
「近くのダンジョンを攻略に来たんだよ。ボスモンスターを倒すと、魔力アップの水があるって噂を聞いて」
メリーちゃんの質問に魔法使いのご主人様が答えてくれた。
シルリーたんがハンバーグとオムライスとコーラを持ってきた。待たせないように、注文されたらすぐに出せるようにしていた。
「早いね」
戦士のご主人様は嬉しそうにハンバーグを見つめる。
「くまのぬいぐるみみたいで可愛いね」
「僕のはくまが寝てるみたいだよ」
オムライスの方は、オムライスの横にクマの顔があり、オムライスを布団に見立てている。
「今からあたしがやるのを一緒にやってください」
メリーちゃんが両手の人差し指で空中にハートを描く。両手をハートの形に合わせて、ニコニコしながらおまじないをする。
「美味しくなーれ、美味しくなーれ。萌え萌えきゅん」
きゅんと同時に手を前に出した。
「一緒にやりましょう」
「うん」
「えっ?」
戦士のご主人様はノリノリだったけど、魔法使いのご主人様は少し引いていた。
「美味しくなーれ、美味しくなーれ。萌え萌えきゅん」
ご主人様二人は照れながらやってくれた。
「はい。これでこのオムライスとハンバーグはさらに美味しくなりました」
メリーちゃんは手を叩いて盛り上げる。
「メイド喫茶って楽しいな」
「うん。ちょっと恥ずかしいけどね」
二人の性格の違いが出てるなぁ。戦士のご主人様はノリ良く楽しんでる。魔法使いのご主人様は照れてるけど楽しんでる印象はある。
「いただきます」
二人のご主人様が食べ始めた。一口食べた瞬間目を見開いた。
「このハンバーグ美味しい。正直見た目だけかと思ったら、その辺のお店よりもしっかりした味付けで、噛むたびに肉汁がジュワッと出る」
「オムライスの方も、卵がすごくふわふわで、めちゃくちゃ美味しいよ」
厨房の方を見ると、カーテンをめくって様子をうかがっているジルクさんが、ガッツポーズをしていた。
「ところでどんなモンスターと戦ってきたんですか?」
シルリーたんが戦士のご主人様に尋ねた。シルリーたんは冒険者のご主人様が来たら聞きたかったんだろうな。
「いろいろ戦ってきたけど、一番面白かったのは、巨大スライムかな」
思い出すように戦士のご主人様が語り始めた。
ドラ○エのキングスライムみたいなものかと思ったら、もっとすごかった。
「最初から十匹以上いたんだけど、どんどん仲間を呼んで、百匹のスライムが合体したんだ」
「百匹!」
大声で驚くシルリーたん。驚きながらも目は輝き、興奮気味に質問する。
「どれくらい大きくなったんですか?」
「その辺の家よりは全然大きかったよな?」
「うん。高さだけでいうなら、四階建ての建物くらいはあったかな」
戦士のご主人様は魔法使いのご主人様にふる。
「大きくなったから、体当たりされると体重がのって重いし、剣で斬っても表面しか斬れなくて、すぐに傷を埋めちゃって大変だったよ」
苦笑いを浮かべながら話す戦士のご主人様。
「どうやって倒したんですか?」
みんなが気になったことを誰よりも早く、シルリーたんが尋ねた。
「大工さんが使う分解の魔法を使ったんだ」
「分解の魔法?」
俺はもちろんだけど、シルリーたんも知らないようだった。
「大工さんの中には魔法を使える人もいるんだ。建物を壊すときに使う魔法で、一瞬で材料がバラバラになる魔法なんだ」
「そんなのあるんですね」
勉強になったって顔で感心するシルリーたん。
「普通の魔法使いは使えないけど、僕はいろんな魔法を使いたいと思って、別職業の魔法も身につけてたんだ」
「マディーがその魔法を使ったら、次の瞬間小さいスライムが百匹になって、スライム達も何が起きたかわからない顔をしてて、ザコがいっぱいになれば、倒すのは簡単だったな」
思い出すように語った戦士のご主人様。
魔法使いのご主人様の名前は、マディーのようだ。
冒険者からモンスターとの戦いを聞いたシルリーの興味津々なところを描きつつ、メイド喫茶のシステム的なことを少し書きました。
チャージ料って最初よくわかんなかったけど、今は当たり前になりました。