第6話 シルリーメイドさんへの道
ブックマークが2つもついてました。ありがとうございます。
今回はまだまだ勇者なシルリーが、メイドさんになるため頑張る回です。
メイド服を試着室で着てもらった。
「みんな着てみた感じはどう?」
「可愛くって良い感じ」
メリーちゃんのメイド服姿はとにかく似合ってる。可愛い女の子が、可愛いメイド服を着たら、すごく可愛くなるっていうわかりやすいパターン。
ただスカートがやけに短い。それはそれで可愛いんだけど、絶対領域はものすごく魅力的なんだけど、変な人が変なことをしなきゃいいけどって心配がある。
「キラメキが止まらないよー」
言ってることはよくわからないけど、エイミンの黄色いメイド服姿も可愛い。膝丈のため脚はそんなに見えないけど、本来そこは問題じゃない。
ただのご主人様から、お店の人間としての考えが生まれてきたってことかもしれない。昔は太ももにドキドキしていた。これは秘密だけどね。
「やっぱり恥ずかしい」
着替えたみたいだけど、カーテンから顔しか出さないシルリーたん。
「着替えたんだろ?」
「うん」
「だったら恥ずかしがるなよ」
俺はカーテンを引いて、シルリーたんの姿を見る。前屈みでよく見えないものの、どうして恥ずかしがるかわからないほど似合っている。
「真っ直ぐ立って。お姉ちゃん」
「う、うん」
メリーちゃんに促され、俯きながら身体をこっちに向ける。
「可愛いじゃん。恥ずかしがる必要ないよ」
「そ、そう。ありがとう」
まだ恥ずかしさが残っているようで、声に嬉しさと恥ずかしさが混じっているように感じる。
「サイズは問題ないみたいだな。買ってこよう」
俺の言葉にみんな頷き、元の服に着替える。
会計を済ませてレストランに戻る。
「ただいまー」
「おかえり」
元気なメリーちゃんにユルフィーさんが迎える。
「キラキラっと参上だよー」
「いっらしゃい」
エイミンの謎の挨拶にも微笑むユルフィーさん。
シルリーたんは無言のままは入り、イスに座った。疲れているようだけど、そんなに長い距離を歩いたわけじゃない。むしろメリーちゃんとエイミンは元気いっぱいだ。
「どうしたの?」
ユルフィーさんはシルリーたんの不調に気付き尋ねた。
「大丈夫よ」
「ひょっとしてそんなにメイド服が嫌なのか?」
「ギクッ!」
漫画みたいにギクッていう人初めて見たよ。それにしてもわかりやすい奴だなぁ。
「そこまで嫌なら、シルリーたんはメイドさんやめるか?」
俺の言葉に一瞬希望を見いだしたように、瞳が輝く。しかし思い出したように首を振った。
「いや、最強の勇者になるために、一人前のメイドさんにならなきゃ」
立ち上がり、強く拳を握って顔の横に持ってきたシルリーたん。だけど俺はその手をゆっくりと下ろす。
「そうじゃないよ。こう」
両手の人差し指でハートの形を作ってから、両手でハート型を作る。
「萌え萌えキュンキュンって言ってみて」
身体を揺らしながら、俺の可愛さを全力で込める。
「なっ、何よ、その言葉は?」
恥ずかしさと驚きで、たじろぐシルリーたん。
「萌え萌えキュンキュン」
もう一度可愛さ全開でやった。
言葉じゃない。理屈じゃない。可愛いと思ってやらなきゃ、たぶんすぐにやめたくなる。だったら男の俺でも可愛くやろうとしてるのに、可愛い女の子のシルリーたんが、苦手意識を持ったままやってちゃ意味がない。
「萌え萌えキュンキュン」
恥ずかしがらずにシルリーたんはやった。こういう初々しいのは嫌いじゃないけど、お店でやるからには恥ずかしさがなくなるくらいにならなきゃいけない。
「それでモンスターがときめくと思う?」
「何をバカなこと」
リルカが出てきて、すぐに口を押さえて、ポケットにしまった。
「あたしは可愛い。あたしは可愛い。あたしは可愛い」
ハッとした表情を浮かべて、シルリーたんは真剣な顔になる。何度も自己暗示をかけるように繰り返す。
そして俺に向かってニコッと笑う。
「萌え萌えキュンキュン」
恥ずかしさを吹き飛ばし、笑顔で身体を揺らす。楽しそうに愛込めをやっているその姿は、本物のメイドさんだ。
「シルリーたん。最高に可愛いよ」
「そ、そう?」
「シルリーたんは大切なことを身につけたんじゃないか?」
「大切なこと?」
「心から本気でやるってこと。何をするにも、心からやろうとしなきゃ、良い結果に結びつかないと思うんだ」
思い当たる節があるのか、記憶をたどるように少し上を見上げる。
「剣の修行をしてるときも、授業だからやっている雰囲気のあったクラスメイトは、剣の腕があまりよくなかった」
同じ時間同じことをしても、嫌々やってる人と、楽しんでやってる人じゃ習熟度が違うのは当然だ。
癒やしてほしいのに、メイドさんが恥ずかしがってたら、メイド喫茶の空間を楽しめなくなる。
「もう可愛くやるのに、恥ずかしくはないか?」
「正直まだ恥ずかしさはあるけど、それでも本気でやる!」
「そこは力を込めて言わないで」
「どう言えばいいの?」
困ったように問いかけるシルリーたんに、俺は少し考えて答えた。
「頑張るにゃん」
「可愛い」
「キラメキが止まらないね」
メリーちゃんとエイミンが俺の前に駆け寄ってきた。
「メイドさんって可愛いんだね」
「頑張るにゃん」
シルリーたんは手を猫の手にした。俺はそれをしなかったため、シルリーたんの工夫が見られた。
俺は感動して胸が熱くなった。さっきまで恥ずかしがって出来なかったのに、自分の工夫をプラスして、可愛さが伝わってきた。
「恥ずかしさに耐えてよく頑張ったね。感動したよ」
俺は思わずシルリーの手を握った。
「ありがとう。そんなに良かった?」
「良かったよ。シルリーたんの可愛さが出てた」
「走助さん。あたしにも教えて」
メリーちゃんがシャツの袖をクイクイ引っ張ってきた。
この娘は可愛いの才能がありすぎるんだけど。こんなことされたら望みを叶えたくなっちゃうよ。
「そうだなぁ。他にどんなのがあったかなぁ」
他にもあったような気はするけど、思い出せない。
考えてみたら、日本のメイド喫茶を完全に真似する必要はないんじゃないか。
お客さんは異世界の人達なんだから。その中には冒険者がいるはずだ。例えば怪我をした冒険者には、どう言ったら萌えるかを考えればいいんじゃないかな。
「モンスターと戦って、怪我をしたご主人様が来たときに」
俺は一度止め、少し芝居風の口調になる。
「大丈夫ですか? この身体はご主人様だけの身体じゃないんですからね。無理はしないでくださいね」
俺が言われたら、ズッキューン間違いなしの台詞だ。
メリーちゃんは俺の前に来て、前腕をなでるように触る。
「大丈夫ですか? この身体はご主人様だけの身体じゃないんですからね。無理はしないでくださいね」
台詞だけでも破壊力満点なのに、メリーちゃんが優しくなでてくれたら、ドキドキしてきた。
「あたしもやる」
負けん気の強いシルリーたんが俺の前に来た。
「腕怪我しちゃったよ」
「怪我なんてしてないじゃない。それくらいで男が痛がるんじゃないわよ」
「何で勇者モードに戻ってるんだよ」
「あっ!」
しまったって顔で固まるシルリーたんだった。
次回はご主人様を連れてくる回です。
お散歩の大変さはメイドさんから聞くので、それを参考にして書きました。お楽しみに。