第5話 メイド服を選ぼう
今回はメイド服を選びます。
服屋さんに着いた。
「メイド服はどこなかー」
「エイミン。待ってよー」
お店の中を走っちゃダメでしょ。
「この黄色いメイド服キラキラしてて可愛い」
エイミンはメイド服売り場に行くと、すぐにお気に入りのメイド服を見つけた。
「それはいくらぐらい?」
一六三四八だったから、五千くらいなら大丈夫。単位はなんていうんだろう?
「五千マルだよーん」
「それなら買えるね」
どうでもいいけどマルっていうんだ、お金の単位。
「キラメキカラーはイエローだからね。みんなを明るく照らしちゃうよ」
黄色いメイド服って珍しいけど、エイミンのみんなを照らすっていうのは、良いキャッチコピーな気がする。
「あたしは迷うなぁ」
たくさんかかってる中から、取っては戻して、取っては戻してを繰り返すメリーちゃん。
「好きな色は何色?」
「ピンク」
「今着てるピンクのワンピース似合ってて良いね」
「ありがとう。じゃあメイド服もピンクにしようかな」
ピンクに決めても、それでもまだまだいっぱいある。
細かい部分のデザインが違うみたいで、二十種類くらいはあるようだ。
一つ一つ取っていき、候補のものを残して俺に渡す。
「ちょっと持ってて」
最終的に二種類まで絞った。一つめは薄いピンクの半袖で、チェック柄になっている。エプロン部分は白で、肩からフリルになっていて、後ろで腰の部分はリボンになるようだ。
二つめは濃いピンクの長袖で、襟の下に赤いリボンが付いている。胸の部分は白、お腹の部分は金色のボタンが二列三つずつ付いている。ウエストから下のスカートの前にエプロンが着いている。
「走助さん選んで」
何このデートみたいな展開。
「どっちが可愛いかなぁ?」
俺は二着のメイド服を交互に見比べる。一つ目の方が、チェック、フリルがいっぱい、腰のリボンと可愛い要素が多い気がした。
「こっちかな?」
俺は一つ目の方を選んだ。
「うわぁ。あたしもこっちの方が可愛いと思ってたの。好みがあって嬉しいな」
選ばなかった方を戻して、そっちの手をハイタッチしてきた。
ヤバい。こんなこと言われてハイタッチされたら、嬉しすぎるよ。
メイド喫茶を作る側になるのに、推しはメリーちゃんに決めたとか、一瞬思ったよ。
「そういえばシルリーたんがいないね」
声が聞こえないと思ったら、周りを見てもいない。どうやらメイド服売り場にはいないようだった。
お店の中を探し回ると、他の場所も探してみると、別の場所にいた。
「どうしたんだよ。これメイド服じゃないじゃん」
あまり可愛いデザインじゃない服を見ていた。
「これは動きやすさを重視しつつ、服にしては丈夫な素材で作られているみたいなの。鎧よりもスピード重視の人にお勧めなんだって」
どうやらまだ勇者の考えが残っているみたい。
「ハッキリ言ってこれはダメだよ」
「何で?」
不満な表情を隠そうともせずに、問いかけてきた。
「可愛くないから」
「可愛くないからダメなの?」
憮然とした声でオウム返しされた。
「さっき俺が言ったことを覚えてる?」
ハッとした表情で思い出したシルリーたん。
「可愛いは最強……」
呟いてから自分の中で思考を巡らせる。
「メイド喫茶では戦う相手なんていないんだよ」
「だけどマナーの悪い客が来たらどうするのよ?」
食い気味に反論してきたけど、俺はあえて間を作ってから、ゆっくりと話す。感情的に話してくる相手に対しては、余裕を持つべきだ。
「可愛いを極めるんだよ」
「えっ?」
「メロメロになった男なんて、たいしたことは出来ないから」
俺がそう言うと、リルカが出てきた。
「実際に困ったときがあるっていうのね」
すぐに口を押さえてポケットにしまった。
確かに俺の行ってたメイド喫茶でも、お酒を出すため、酔っ払った人が来ることもあったようだ。
「それに何かがあったら、俺が対応する。シルリーたんは、ご主人様を楽しませることを考えてくれればいいんだよ」
そう言ってメイド服売り場へ連れてきた。
「そもそもなんだけど……」
俯いてモジモジしている。何が恥ずかしいんだろう?
「あたしはずっとスカートをはいてないから、スカートを履くだけでも恥ずかしいの」
「スカートをはかなかったら、パンツが丸見えだよ」
「ズボンをはいてるに決まってるでしょ」
わざとボケて少しリラックスしたかな。
「十歳くらいからかな。パ、パンツが見えるんじゃないかと思って、スカートがはけなくなったのよ」
「それなら見せパンを履けばいいじゃん」
僕が行ってるメイド喫茶のメイドさん達はどうか知らないけど、普通にミニスカートの女の子がそうしてるのは聞いたことがある。メイドさんならパニエか。
「そ、そんな裏技があったの!」
男の俺でも知ってるんだけど……。もちろん詳しくはない。
「お姉ちゃん。こっちにあるから選んでこよう」
「う、うん」
「走助さんはここでお姉ちゃんに似合うメイド服選んでてくださいね」
「スカートの長いのがいい。それ以外は任せる。女性用の服はちゃんと選んだことないからね」
「あとカチューシャとニーハイとチョーカーも買わなきゃね」
メリーちゃんに連れて行かれるシルリーたん。
女性だろ。私服は男物の服着てるのか?
そんなことを思いながら、俺はメイド服を選び始めた。黄色とピンクってきたから、黒の娘がいなきゃね。
一つ一つ見ていき、完全に自分好みで選んでいた。スカートが長いのが良いって言ってたけど、個人的にはクラシカルなものもデザイン重視で可愛いものも両方好き。先に選んだ二人が、デザイン重視だからクラシカルなものを選ぼう。
いくつか選び候補を二つまで絞った。メリーちゃんの真似をするわけじゃないけど、シルリーたんが着るものなんだから、シルリーたんが選ぶべきだと思う。
一つめは足首まできそうなほどスカート部分が長いメイド服。長袖で、肩からフリルの着いた白いエプロンは、スカートの少し上まである。ウエスト部分が引き締まっていて、エプロンの一番下と少し上にフリルが着いている。
もう一つも長袖で膝下までのスカート。スカートは広らがずに真っ直ぐ下に降りている。肩の部分にフリルの着いたエプロンは、真ん中だけ長く、サイドは短い。
「選んできた?」
三人が戻ってきたのを確認して話しかける。
「うん。可愛いの持ってるね」
メリーちゃんが褒めてくれた。一応女の子から見ても可愛いものは選べたようだ。
「シルリーたんどっちがいい?」
「どっちもいい」
「えっ?」
予想外の言葉に驚いてしまった。
「あたしはこういうののセンスがないから、全部任せる」
俺はもう一度選ぶことになった。結局一つめの方にして前に出す。
「こっちでいいか?」
「うん。走助の言う通りにする」
「何言ってんだよ。シルリーたんの考えをちゃんと言ってこいよ」
「あ、あたしは、可愛いことが苦手なの。だから任せることにしたの」
そうか。だったら俺は責任を持って、シルリーたんを可愛くしなきゃな。男の俺でわからないことは、メリーちゃんに訊こう。
次回はシルリーがメイドさんの修行を頑張ります。
夜に更新しますね。