第38話 ボスモンスターは本棚?
「あんた達忘れてない?」
俺達がディケインの部屋を出た直後、リルカが部屋の中から話しかけてきた。
ディケインが消えた場所の奥に宝箱があった。
「これを壊すために、ここに来たんでしょ」
「妖精ちゃん。どーもでーす」
「肝心なところでミスるとこあったよな」
「そう思うなら教えてよー」
「ふ、俺は完全にお任せモードのときは、頭を働かせない主義なんだ」
「セペルダー。格好つけて言うセリフじゃないよ」
セペルダーさんとロルンガさんの会話。最後にドヤ顔で言ったセペルダーさんの言葉に、マディーさんがたしなめる。
「開けちゃうねー」
宝箱には赤い宝石が入っていた。
「迷宮化するためのアイテムだね」
ロルンガさんが宝石を取る。
「どうしたんだ? 壊さないのか?」
セペルダーさんが尋ねた。
「壊すよ。綺麗だから思わず見とれちゃってねー」
宝石を地面に向かって叩きつけた。するとこの部屋はなくなってしまい、洞窟の行き止まりになった。
「これで迷宮化はなくなったよ」
俺達はさらに魔法石で床を壊して、一番下の階までいき、壁を破壊したり、モンスターを見つけると走って逃げながら、ボスモンスターの部屋を見つけた。
「わかってると思うけど言っておくよー。俺ッチは後ろで見てて、隙を突いて攻撃とか出来そうなら参加するからねー」
「あんたも日本に帰りたいんでしょ。頑張ろうとは思わないの?」
シルリーが鋭い目つきでロルンガさんを見つめる。
「ちょいちょいお待ちの助だよ」
「何それ。日本で流行ってるの?」
シルリーが訊くけど、俺も初めて聞いたよ。
「ボスと戦うまでに、通常モンスターと中ボスと戦わなきゃいけないんだよ。さらに迷宮化したダンジョンは攻略が超難しいんだからね」
確かにここまで、ロルンガさんがいなかったら来るのは大変だったと思う。
出てくるモンスターと戦っていたら、俺達なら何回勝てるかわからない。殺気だけである程度強さがわかるけど、今まで戦ってきた敵とは違う。
さらに迷宮化を崩すことが出来なかったと思う。そう考えるとロルンガさんのしてくれたことはすごく助かった。
「ここまで無傷な上に、体力が全然減ってないんだよ。俺ッチのおかげってことはわかっておくれよー」
シルリーは渋々受け入れたようで、ボスモンスターの部屋に視線を向けた。
「で? ボスモンスターの特徴は?」
「知っらなーい」
「は?」
シルリーは驚きの声を上げた。
「さっきのディケインを倒さなきゃ、ここまで来れないようになってたんだよ。俺ッチがボスモンスターの情報を知るわけないじゃん」
「ま、元々冒険っていうのは、よくわかんないところにいくもんだしな」
セペルダーさんはそう言って、俺達に視線を向ける。
「みんな準備はいいか?」
「おう」
みんなが頷いてセペルダーさんが扉を開けた。
そこは洞窟とは思えない体育館ほどの部屋で、壁には本棚がいっぱい並んでいた。しかし壁側以外は本棚がないため、本屋や図書館みたいにはなっていない。
「ボスモンスターは?」
シルリーは疑問を呟いた。
部屋を見回してもそれらしいモンスターは見つからなかった。広い部屋を探すためどんどん奥へ歩いていく。
「普通はボスモンスターの部屋に入ると、大きなモンスターが待ち構えているんだけどな」
セペルダーさんの言葉を聞き、本棚があるのが不思議に思えた。
俺達が部屋の中央辺りに来たとき、扉が閉まった。
「えっ?」
扉が閉まる音に振り返り、勝手に閉まったことに不安になった。
「危ない!」
マディーさんが叫んだ。
俺達に向かって本が飛んできた。
しかし素早く動き、かわしていく。落ちた本を見ると、表紙が漫画のようなイラストだった。
「ライトノベル……?」
作品名はわからない。だけど文庫でイラストの表紙だから、たぶん間違いない。
何かが引っかかるけど、今は本をよけなきゃ。
まるで俺達が来ることがわかっていたように、本が俺達に向かって飛んでくる。
「ボスモンスターの前にトラップがあるのか」
セペルダーさんは剣を抜き、本を斬った。
「な、なんだこれ?」
斬った本からはセーラー服の女の子が現れた。
「せっちゃん。そんなの持ってたら危ないよ」
女の子はセペルダーさんの手を握り、剣を離すようにした。セペルダーさんの剣はその場に音を立てて落ち、飛んできた本がおでこに入った。あたったのではなく、本がおでこの中に入った。
「セペルダー?」
マディーさんが叫んだ。俺とシルリーもこの信じられない状況に、目を見開いてしまう。
セペルダーさんは急に頭を押さえてしゃがみ込んだ。
「怖い、怖いよ」
「ここは危険だから、安全な場所にいこうね。せっちゃん」
セーラー服の女の子が、セペルダーさんに手をさしのべると、セペルダーさんは引っ張られるように立ち上がる。
「こっちよ」
女の子が手を引いて数歩歩くと、セペルダーさんは女の子と一緒に消えてしまった。
「ど、どういうこと?」
俺達は本をよけながら、セペルダーさんを見ていたが、恐がりになって消えてしまった。
「よくわからないけど、本はよけて攻撃はしちゃダメってことだね」
ロルンガさんの言葉に頷き、本をよけ続けるけど、飛んでくる本は永遠に続く。
よく見たら本棚から飛んできた本は、本棚からなくなっても、次の瞬間、新しい本がそこに並んでいた。
「よけてるだけじゃらちがあかないよ。何かしないと!」
「でも攻撃したら、女の子に別の場所に移動させられるから」
俺の言葉にマディーさんがそう言って、対応策は中々浮かばない。
「よけると攻撃の二択しかないのが問題じゃない?」
ロルンガさんの言葉にハッとさせられた。
「通常の巨大モンスターじゃなくて、特殊なモンスターだとしたら、単純な攻撃が有効とは限らないんだよ」
ロルンガさんは俺達から離れて走り出した。
「どこにいくんですか?」
「キーになるようなものがないか探すよー。全然違う本や、この部屋に一つしかない特別なものとか」
なるほど。特殊なモンスターの場合は、いわゆる化け物の形態をしていない。
俺達も散らばって何か特別なものがないかを探し始めた。
もちろん本は今も飛んでくるため、素早く動いてかわさなければならない。よけられなかったら本が身体に入って、勇気がなくなるのかもしれない。
「それにしてもライトノベルばっかりだな」
こういうダンジョンがあるのは構わない。ただ何故ライトノベルなのか。日本から来た誰かの影響なのか?
俺が一番奥の本棚に近づき、飛んできた本をかわした。本が再び現れる前の、何もない本棚の空間に手を伸ばした。
周りを見てもそれっぽいものがないため、何もいないところを確かめようと思った。
「えっ?」
「こっちだよ、走助」
本棚が消えた。手を伸ばした俺の手を握る手の感触。そこにはツインテールのセーラー服を着た女の子がいた。
「幼なじみのこと忘れたの?」
俺に幼なじみなんていない。
可愛いけどその女の子に引っ張られると、消えてしまう。もしくはここではない場所に瞬間移動する。それは危険な気がして、女の子の手を振り払った。
「昔から恐がりだったよね」
「走助様!」
手を伸ばした女の子の腕を、シルリーは叩こうとした。しかし俺と女の子を包み込むように、一瞬半透明な光りが輝いた。シルリーははじき飛ばされてしまった。