第3話 レストランをメイド喫茶にしようと決めました
今回はシルリーの妹のメリーちゃんが登場します。正統派の可愛い系の女の子です。
そのレストランは少し大きくて、周りのお店に比べて、外観から良さそうな雰囲気が伝わってきた。
「ただいまー」
「お邪魔しまーす」
シルリーの後にお店に入った。
「大丈夫だった? お姉ちゃん」
シルリーより年下だと思う女の子がシルリーに駆け寄ってきた。
シルリーは二十歳くらい。駆け寄ってきた女の子は十七歳くらいに見える。
ツインテールで同じようにスリムなスタイル。ピンクのワンピースを着ていて、幼さが残るキュートな顔をしている。
お姉ちゃんと呼んでたから、きっと妹なんだろうな。キラキラした瞳は似ている。
「全然大丈夫よ、メリー。この妖精使いの走助が結構倒してくれたから」
「そうすけさん?」
妹のメリーちゃんは俺の顔を見ながら、この人が妖精使いなのって顔をした。
「さっきも言ったけど、俺は妖精使いじゃないから」
「いいじゃない。呼び方なんて」
さっきまで消えていたリルカが、俺の前に現れた。
リルカは気分で消えたり、急に現れたりする。呼んだら必ず姿を見せてくれるかいいけど。
「本当に妖精なの?」
不思議そうにリルカを見つめるメリーちゃん。どうやらファンタジー世界でも珍しいようだ。
「一応人間を護る妖精なんだからね。ジロジロ見ないでくれる?」
「そんなことで怒るなよ」
「怒った。可愛い」
まるでぬいぐるみを抱きしめるように、メリーちゃんはリルカを抱きしめた。
「ふぎゃー。苦しい、苦しい。ギブ、ギブ」
リルカは消えてピンチを逃れた。残念そうな表情を浮かべるメリーちゃん。
「お父さん。走助に美味しいご飯作って」
厨房に行ってシルリーはお父さんにお願いしてくれた。シルリーのお父さんは俺の方に来てくれた。
「娘が一人でも街を護りにいくと言ってきかなくて。一緒に戦ってくれてありがとうございます」
コック帽を取って、深々と頭を下げた。
「みなさんは逃げなかったんですか?」
「シルリーが一人でも必ずモンスターを倒す。このお店は絶対に護るというので」
「こう見えて冒険者学校では、一番剣術の成績は良かったのよ」
確かに剣の腕はすごかったし、低級モンスター相手なら、あの数でも何とかなったのかもしれない。
「本当にありがとうございます。シルリーの父ジルクといいます」
ジルクさんは男性にしてはやや長めの髪、伸ばしたひげなど見た目的には、コックさんには見えないが、娘の心配はかなりしていたようだ。
「腕によりをかけて作ります。何か好きなものはありますか?」
腕まくりをしながらそう訊かれ、俺は何が食べたいかを考えた。
「ハンバーグ、オムライス、ステーキ」
思いつくままにメニューを言ってみたが、ここは日本じゃないんだ。この世界にこのメニューがあるのかな?
「わかりました。ハンバーグに、オムライスに、ステーキですね。ステーキならすぐに出来ますよ」
疑問に思ったけど、あるみたいだった。
厨房に戻ったジルクさんは、調理に取りかかった。一緒におばさんが調理をする。たぶんお母さんだろうな。
肉を焼くジューッという音がした。これを聞くと食欲がわいてくる。
「ここに座ってて」
メリーちゃんは俺の手を引っ張って、カウンター席の真ん中辺りに座るように促した。後ろにはテーブル席が四つほど。
メリーちゃんも自然に手を繋いで、俺をドキドキさせて、普通の顔してる。
壁に掛けてある振り子時計を見ると、十二時半頃。この時間でお客さんが誰もいないのか。
「妖精使いなんて格好良いね」
「そんなことないよ。メリーちゃんは可愛いね」
「えへへ。褒められちゃったかな」
「おまちどおさまです」
ステーキののったお皿が、カウンターに置かれた。
「めっちゃ早いんだけど」
俺が驚いていると、説明してくれた。
「実は最近お客さんが来なくてね。新しいメニューを考えて作っていたところなんですよ」
「食べて、食べて。絶対美味しいから」
「うん」
メリーちゃんに急かされ、ナイフでステーキを切った。断面は赤身が残りながらも、肉汁が出てきて、湯気と香りが鼻腔を刺激する。
カットしたステーキを口に入れると、軟らかい肉が、噛むたびに極上の肉汁を出し、今まで食べたステーキで一番だと思った。
「すごい美味しいです」
「本当ですか?」
ジルクさんは嬉しそうに、俺を見つめる。
「問題はお客さんが来ないことなのよね」
「お母さん」
厨房で一緒に調理をしていたおばさんが来た。年齢的には四十代前半だと思うけど、すごく綺麗で、女優さんと言われても不思議じゃない。
「母のユルフィーです」
お辞儀をしたユルフィーさんに、俺は立ち上がって宣言をした。
「俺に任せてください。このお店を人気のお店にしてみせます」
「変なこと考えてるときの顔になった」
リルカが出てきて、余計なことを呟いたけど無視する。
「ジルクさん。このお店をメイド喫茶にしませんか?」
「やっぱり」
リルカが予想通りって顔をしたけど無視して話を進める。
「料理は美味しいです。だけど食べなきゃそれはわかりません」
俺が熱弁すると、ジルクさんが尋ねた。
「そのメイド喫茶とは何ですか?」
そもそもここは日本じゃないんだった。日本語が通じるし、日本で食べられるメニューを食べたし、みんな日本人ぽい顔立ちと肌色だから、日本にいる感覚だった。
「女の子がメイド服を着て、接客する喫茶店ですね」
腕を組んで考えるジルクさん。
「ねえねえ、それって楽しいの?」
「すごく楽しいよ。例えばね、美味しくなるおまじないをかけるの。手でハートマークを作って」
俺が両手でハートの形を作ると、真似をしてくれた。
「美味しくなーれ、美味しくなーれ。萌え萌えきゅん。これでこのステーキはさらに美味しくなりました」
俺が左右に身体を揺らすと、メリーちゃんは俺に合わせて身体を揺らしてくれた。
「なんか楽しい」
「メリーには魔法の才能はないでしょ。魔法らしいものは何も出てないし」
シルリーは冷めた声で言った。
「野暮なこと言わないの」
「シルリーもメイド服着てお給仕するんだから」
「ゆ、勇者のあたしが、メイドになるわけないでしょ!」
「女の子みんなの憧れじゃん」
「メイドになりたいと思ったことなんてないんだからね」
「シルリーはツンデレの才能があるね」
俺は感動で胸が熱くなってきた。
「ツンデレって何よ?」
「あえて説明しないでおこう。シルリーの才能を潰すことになるから」
「あたしの職業は勇者なんだからね」
俺は少し考えてから、説得方法を変えてみることにした。
「シルリー。本当に強い勇者には、どうやったらなれるか知ってるかい?」
落ち着いて話し始めた俺に、さっきまでのとにかく断るスタンスはなくなった。
「毎日修行をして、剣と魔法の腕を磨き、モンスターの知識を蓄え、敵に合わせた戦い方を出来るようになることかしら」
真剣に考えてから答えるシルリー。
「残念。一般的にはそう考えられているけど、さらにその上をいく方法があるんだ」
「それは何?」
一歩近づき前のめりになって、興味を示すシルリー。
「メイドさんになることだよ」
「えっ?」
「剣と魔法の修行をするのはいいけど、それよりも俺がいた国に伝わる言葉を教えよう」
シルリーはつばを飲み込んだ。期待の眼差しが俺の言葉を待っている。少しの間をおいて、その言葉を伝える。
「可愛いは最強」
「は?」
「可愛くってメロメロになったら、敵は戦闘不能状態に近い。そして可愛いの頂点はメイドさんなんだよ」
「よくもそんな」
リルカが余計なことを喋りそうだったから、口を押さえてポケットにしまった。小さなポケットに無理矢理押し込んだから、口を押さえてるのに変な声が漏れてる。すぐに消えたけど、今邪魔をされなきゃいいや。
「俺のいた世界だと、科学的にいろいろ解明されてきているんだ」
これは本当。
「だからメイドさんになって最強の勇者になろう」
これは嘘だけど、シルリーにメイドさんになってもらうための方便。
「わかった。あたしはメイドさんになる。そして最強のメイド勇者になってみせる!」
拳を突き上げ、やる気満々のシルリー。
メイド喫茶といえば愛込め。めいどりーみんや@ほぉ~むなどでは良くやりますね。
次回はハイテンションで元気な女の子が登場します。