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第七話(クラリア視点)

王妹のクラリア姫視点です。


 わたくしはたった一度だけ、ソニアお姉様の涙を見たことがある。

 3年前、ヒーストル村での魔族襲撃を見事に撃退したお姉様が城に帰っていらして、そうしてわたくしにパットの死を教えてくださった時。

 初恋の人を喪って泣いたわたくしを抱きしめて、お姉様も一緒に泣いてくださった。

 たった一度。たった一度だけの涙。

 なにか。

 何かがあったのだと思う。そうして、お姉様は3年前、ひどい言葉で、ろくに面識もない勇者様を傷つけた。

 そうでなければ、おかしい。お姉様はパットを可愛がっていて、パットは貧民街出身で、それなのに王族であるわたくしにまで紹介するほど、彼自身を尊重していた。それなのに、その生まれや育ちを嘲るなんて絶対にお姉様らしくない。


 お兄様もお姉様も、お姉様の部下だったミュリーラお義姉様も、わたくしには何も教えてくれない。

 でもわたくしは、それを不満に思ったり嘆いたりするほど可愛げのある性格ではなかった。教えてもらえないのなら、自分で調べればいいのだ。

 そうしてわたくしは、この謎々を解くために情報を集めている。

 勇者様とも、お話した。勇者様のお人柄を知るため、そうして、お姉様への思いを測るために。


 3年前、わたくしは伏せっていて勇者様に会ったことはなかった。だから今回が初めて。

 噂に名高い、”銀の勇者”様は、仲間である神官様やシーフの少年みたいには端整な顔立ちではない。というか、立っているだけで周りを威圧するような雰囲気があって、顔立ちどころではないというところがある。でも、よくよく見れば荒削りながらも整っているようには見える。少し分かりにくいけれど。

 その勇者様と初めて踊った時、彼はずっとお姉様を見ていた。わたくしに目が向いている時でも、お姉様を()ていた。その時は、ただ未練があるのだと感じただけだった。

 でも翌日、王家の神域に勇者様を案内した時の、お姉様を見る彼の目は……。

 お姉様は、いつか彼に殺されてしまうんじゃないかと思った。殺されるか、壊される。


「考えすぎですよ、クラリア」

 お姉様はわたくしの危惧に、そっと目を伏せて微笑んだ。

「あの方がそこまでわたくしに執着なさる理由がありません。これまで、あの方は各国の姫君方から熱く求められてきた方です。きっと、すり寄らないわたくしが物珍しいだけなのでしょう」

 あの目が、そんな毛色の違ったものを目に留めるようなだけの、可愛げのあるものだったろうか。

「お姉様、勇者様がお姉様を本気でご所望になれば、お姉様に断ることはできませんのよ?」

 一晩だけの戯れに、と望まれて断ったとしても、力で押し切られれば決して叶わない。この世界の誰にも、勇者様を止められる人間はいないのだ。

「そうだとしても、それならそれで構いません。わたくしも大公女です。義務は果たします」

 わたくしはきゅっと口を噤んだ。

 

 お姉様は、ずっとこの国の民を守るために戦ってきた。

 ロージアン王国は魔王城から最も遠い。だから弱い魔物しか現われないと、手薄だった防衛をお姉様が一手に引き受けてくださったのだ。それでも協力者も理解者も少なく、だからお姉様は貧民街からも有志を募った。国を守る才能を持ち、志を持つ者になら、出自は問わなかった。そうしてお姉様は、”公女隊”と俗称される一隊を率いて戦い続けてきたのだ。

 つまり、この国にとっては勇者様よりお姉様の方が慕われているし、尊敬されている。

 そのお姉様が、一晩の戯れに所望されても構わないと仰る!!

「どうしてそんなことを仰るのです!?」

 どうして、という言葉は、実はわたくしは大嫌いだ。思考を放棄しているような気分になるから。

 それでも納得できない。今の勇者様は危険すぎて、お姉様に近づけたくないとすら思うのに。


「わたくしは3年前、勇者様をひどい言葉で傷つけました。あれは……ただの八つ当たりでしたのに。あの犠牲をもたらしたのは、無能なわたくし自身でしたのに。――報いは、受けねばなりません」

 お姉様は、伏せた目を上げた。

 美しく煌めく、漆黒の瞳がわたくしを射る。

 わたくしは確信した。3年前だ。やはり3年前に、しかもあの忌まわしいヒーストル村の事件で、何かがあったのだ。そのことは、今でもお姉様を苦しめている。

 『なにがあったのです?』という言葉を、わたくしは飲み込んだ。きっと答えてはもらえない。お姉様は全部を飲み込んで、お姉様の言う『報い』を受け取るつもりでいる。

「――止めてみせますわ」

 わたくしはお姉様に聞こえないよう、小さく呟いた。

 止めてみせる。誰をも幸せにしない『報い』なんて、決して受けさせたりなんかしない。

 死ぬ気でこの謎々を解いてみせる。わたくしはそう、決意を新たにした。



読んでくださってありがとうございます!!


最初はこの人、当て馬にする予定でした~。それがお話をこねくり回しているとこんな感じに(笑)

実は似たもの兄妹ですw(性格は遙かに妹の方がいいですが)

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