神官コーネスト
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この世界には7柱の女神がいる。
ある日、生と死を司る女神からその依り代が奪われた。
そこから女神達の均衡は崩れ、魔王が生まれたと言われている。生と死を司る女神の力が不在なため、魔王は復活を繰り返すのだとも。
コーネストは、自分が冷淡な人間だと言うことを自覚していた。
幼い頃に神官としての力に目覚め、伯爵家の三男から下級神官になったコーネストには、どこか人から遠く離れた場所にいるような不思議な感覚に常に襲われていた。
「それは良いことですよ。あなたの心は自由なのです。何者にも囚われることはない。女神様にお仕えする者として、あなた以上の存在はいません」
コーネストを指導してくれた老神官ジョスリーは、そう言ってコーネストを褒めた。
実際、誰にも無関心ということは、等しく誰もに慈悲を向けることができた。最も、慈悲と呼ぶにはそれは余りにも冷たい……ようにコーネストには思えたが。
親代わりとしてコーネストに関わってくれたジョスリーは、真の慈悲を持ち合わせた、素晴らしい神官だった。だが彼の上司である、ブリディン王国中央神殿の神殿長であるクリフレッドは違った。
神気が見えるコーネストがアルヴァンを見出し、揉める審議を経てついにアルヴァンが”銀の勇者”として認められた後、神殿長であるクリフレッドはこう言ったのだ。
「分かっておるな。決して。決してあの不遜な国の女を、勇者様の仲間になど加えぬように」
ブリディン王国国内のみの話ではなく、全部で7カ国ある大陸の国の中でロージアン王国は、神殿の上層部から最も嫌われている国だった。
理由は二つ。
若きロージアン王が、神殿から距離を置こうとしていること。
魔物の討伐という、女神から勇者に授けられた聖なる任務を侵す女性がいること。
この二つの理由により、勇者の味方になればこの上なく心強い女性の存在を、神殿上層部は排除することに決めたのだった。
そもそも、神殿内には三つの派閥がある。
保守派と穏健派、そして急進派だ。
保守派が神殿の上層部を占め、女神の意志を世に伝える役目を担う神殿に、刃向かうものを許さない頑固な一面を持ち合わせている。彼らは勇者という女神が選んでくれた存在に盲目的で、いかなる理由があれ勇者以外が魔物と戦うことに良い顔をしない。神殿の力は現世にも及んでいるので、各国は目立たない程度にしか魔物に対する自衛の力を持っていなかった。
穏健派は、コーネストの師であるジョスリーのような人間で作られる派閥で、女神を尊びつつも慈悲をあまねく行き渡らせるべく尽力している神殿の良心だ。勇者以外が魔物と戦うことも黙認している。
急進派は、民の救済を最優先している。よって、誰であろうと魔物を倒す人間を賞賛するし、時には自ら剣を持とうとさえする。魔王が復活して世が暗闇に包まれるとこの派閥は活性化し、魔王が滅びると地下に潜る。少数ではあるが決していなくならない派閥でもあった。
「下らない」
コーネストは心底そう呟いた。そうして、慈愛溢れる微笑みを顔に貼り付ける。
魔王城から最も遠いロージアン王国に何事かがあった時、勇者が助けに来てくれる可能性は低い。だから自力で魔物の対応をしようとする。それを女神に対する不遜だと神殿は責め、ますますロージアン王国への情報は勇者に知らせないように仕向ける。ロージアン王国は神殿への不信を募らせ、自衛の意志は強化されていく。
「下らない悪循環だな」
ブリディン王国中央神殿から、勇者達が宿泊しているブリディン王国の王宮に足を向けながら、コーネストは呟かずにはいられなかった。
ヒーストル村の事件が起こる一ヶ月前。
銀の17年、5の月。
コーネストが王宮に戻ると、アルヴァンは勇者専用の応接室で、泣き濡れた第一王女・サンドロンを優しく慰めていた。
「泣かないでください、サンドロン姫。王妃様の病に必要だと言われるその指輪、俺がどうにかして手に入れてきますから」
コーネストは、じっくり王女を観察した。アルヴァンが未だ使いこなせない鑑定を用いてスキルを視る。発動中のソレは、甘言と嘘泣き。アルヴァンの言葉に、花のように笑って見せた王女の目に涙はもはや、露もない。
「ありがとうございます、勇者様!――あぁ、神官様にまでみっともない姿をお目に入れてしまいました」
羞じらって笑う姿に計算を感じたが、コーネストの心を不快の方向にすら押す力を、その微笑は持っていなかった。
「とんでもない。殿下に女神様の祝福がありますように」
コーネストの冷淡な祝福が、しかし淡い神気をまとってサンドロン姫に流れていく。
この瞬間、いつもコーネストは不思議に思う。慈悲とは似ても似つかぬ祝福が成功する一方で、この上ない慈悲を持つジョスリーの祝福にこれほどの力はない。誰もに無関心なコーネストを、女神はそれほど評価しているのだろうか。コーネストにとっては違和感しか感じないが。
美しい所作で、世継ぎの座を異母弟と争っているサンドロン姫が退出していく。
「なんかさぁ、俺、あのお姫サマ苦手なんだよね。俺に向ける笑顔とアルに向ける笑顔が全然違う気がするし」
勇者とそれ以外を明確に区別するのはどこの国の王族でもそうだろう。
勇者は一人しかいない。
各国が魔物に対して戦う術を放棄している現状で、自国を優先的に助けてもらうには勇者を味方に引きずり込むしかないのだ。そうして大概が色仕掛けを使う。恋人がいる国を優先するのは当然だろう、という思考だ。勇者がどうしても落とせない場合、次にディモシーが標的になるのだろう。
「勇者はそれだけ特別な存在ですからね」
他者に無関心なコーネストにも、仲間への愛着はあった。否、死闘を経てようやく芽生えたというべきか。
自分勝手な王族の思惑を馬鹿正直に伝えて、彼らの気分を害そうとまでは思わない。
「まぁね。どうせ薄汚いシーフだしね?」
アルヴァンが勇者と認められてすぐ、二人の騎士が勇者の仲間になろうと近づいた。だが彼らは、アルヴァンに忠誠を向ける一方、アルヴァンの幼馴染みであるディモシーを侮蔑して仲間から外そうと謀った。以来、アルヴァンはディモシーとコーネスト以外を信用しなくなっていた。
「あなたは優秀なシーフですよ」
穏やかに微笑んだコーネストに、ディモシーは肩を竦めてみせたのだった。
翌月、魔族の繭が二カ所で見つかった。
南西の国に移動していたコーネストは、直ちにブリディン王国に帰還した。
繭はブリディン王国とロージアン王国の二つ。
アルヴァンが得た女神からの啓示により、一週間早く繭が破れるロージアン王国を優先しようとした矢先、その親書は届いたのだった。
救援を要請する手紙と、拒否する手紙。
神殿上層部の意志に背いて魔物を討つ、民衆からは英雄と名高い女性からの親書を読んだアルヴァンとディモシーの顔は沈んでいた。彼らは勇者としての、勇者の仲間としての自分を誇りに思っている。その誇りを傷つけられたような色があった。
このままアルヴァンがロージアン王国に行った場合、アルヴァンはソニア姫を仲間に加えようとするだろうか?その強さに感銘を受けて?女神に選ばれたわけでもない、ただの女性を?
コーネストはこっそり嗤った。
自ら助けを拒絶するのだ。ではその実力を示させてやれば良い。そう、わだかまる闇のような声がコーネストの心に響いた。
無関心な自分の心をこうまで不快に揺さぶる存在は非常に珍しい。
「――ここまで仰るのです。ロージアン王国のことはソニア姫にお任せしてはいかがでしょうか」
アルヴァンとディモシーはためらっていた。だが、最終的に彼らも頷いた。
そうして、ソニア姫の運命は決したのだった。
読んでくださってありがとうございます!!
世界観を書きたいと思ったのですが、なかなか難しいですね。
この間章をもう一話入れようかな、と思っています。
ソニアの続きはそれから書きますね。




