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第一話

異世界恋愛では初めまして!

ヒロと申します。

よろしければお付き合いくださいませ。


 女神から神託を受けたのは15歳の時だった。

 ブリディン王国の王都・ブリディナ、華やかな王都の影の部分であるスラムに、俺は生まれた。両親は知らない。

 最底辺であるスラムで、それでも15の年まで無事に大きくなったのは、やはりそれなりの力を持っていたからだと思う。それでも、夢で神託を受け、様々なスキルに目覚めた俺は、それまでの俺とは確実に違っていた。強さも、環境も。

 

 スラムから冒険者へ、そうして神官に見出されて魔王を倒す旅に出るまでに2年がかかった。その時の俺は知らなかったが、神官であるコーネストが俺を見出した時、神殿上層部や王国の上層部にいる人間達は、俺をなかなか勇者と認めようとはしなかったのだという。平民どころか、スラムが出身地である俺を忌避したらしい。俺がその事実を知ったのは、もっとずっと後になって、俺がすっかりスレてしまってからだったので、まぁそういうものだろうな、としか思わなかったが、それでも失礼な話だとは思う。


 冒険者としての華々しい実績により、正式に勇者と認められた俺の生活は一変した。

 もちろん、魔物を倒す事に関しては変わりないが、勇者になったことで情報が集約された。より凶暴でより危険な魔物の相手をすることになった。それ自体に異論は無い。それより、時折呼ばれる夜会の方が大変だった。


 それでも、俺は最初のうちは有頂天だった。

 周りが何も見えていなかった。みんなが俺を讃えていると、無邪気に信じていた。勇者になって各国に移動するようになったが、どこの国でも俺は歓迎され、雲上の人々が愛想良く俺に振る舞う。王族だって親しい友のように振る舞った。俺は、それが”真実”だと思っていた。本当に俺は価値のある人間で、みんなが俺を認めているんだと心の底から思っていた。


 そんなある日。ずっと続くと思っていた、栄光の日々が終わった日。俺はブリディン王国の隣にあるロージアン王国にいた。

 そこで俺は恋をした。

 俺が勇者になる前から麗名をとどろかせていた、天才魔法使いである大公女・ソニア姫。

 彼女に会った瞬間から俺は彼女に恋をした。

 彼女は清冽で気丈で、強い女性だった。魔王城から最も遠い国であるにも関わらず、強い魔族に襲撃された時でさえ、彼女は”勇者”の力を必要とはしなかった。魔族に立ち向かい、見事に討ち取った。


 彼女の全てが眩しくて、俺はロージアン王国を訪問した時の夜会で、彼女に求婚したのだった。

 煌めくシャンデリア、華やかな音楽、笑いさざめく高貴なる人々。俺は、俺自身もそんな高貴な人間と同じ人間だとすっかり信じ込んでいた。

「美しいソニア姫、私が魔王を倒したら、どうか私の妻になってくださいませんか」

 俺が彼女の前に膝を折ってそう告げた瞬間、音楽も人々のざわめきもふっとかき消えた。


 ソニア姫は、それまで浮かべていた、薄い微笑を削ぎ落とし、俺を食い入るように見つめていた。その眼差しは痛いほどで、俺はその目を見た瞬間に理解した。この求婚は決して受け入れられない、と。だがそんな俺に彼女は、抑揚のない静かな声で止めを刺した。

「平民の、それもスラムの孤児であったあなたが、大公女であるわたくしに妻になれと仰るのですか。お断り致しますわ」

 俺は意味もなく周りを見渡した。恐らく、誰かに助けを求めたかったんだと思う。だが、そんな俺に向けられたのは、顰められた顔・顔・顔。

 俺はその日、”スラム出身の勇者”がどういう目で見られていたのか、真実を知ったのだった。






「アル、もうすぐロージアン王国だねぇ」

 隣に馬首を並べた、幼なじみのディモシーが、俺の緊張を解きほぐすようにそう言った。

 俺たちは、3年かけて魔王を倒した。

 ロージアン王国の一件以来、各国の貴族達にどれほど懇願されても夜会には出ず、ひたすら強さを追い求めていた。

 最初は、復讐のために。あの美しい清冽な顔を、泥の中に埋めてやる、汚して穢して落としてやる、そう思ってひたすら剣を振るっていた。


 魔王を倒し、各国の神殿に浄化の祈りを届ける儀式を課せられ、もはや魔物を倒すという言い訳もできず参加することになった夜会で、俺は結局王族や貴族はみんながみんな、ソニア姫と同じ事を考えているのだと知った。

 美しい可憐な姫が愛を囁いている、その姫は”二枚舌”というスキルを発動中だった。

 毅然とした次代の女王が、王配になって国を支えてくれ、と囁く。彼女のスキルは”甘言”。

 

 俺は悟らずにはいられなかった。ソニア姫は、俺に誠実だったのだ、と。俺の”勇者”としての力を欲する余り、俺への軽侮を隠してすり寄ってくる貴族王族。それらに比べて、彼女は確かに清廉だった。

 今、巡礼の旅はこの国で終わりを迎える。

 彼女に再会した時、俺は何を思うのだろう?愛情か、憎悪か、軽蔑か?

 俺はそっと息を吐いた。

 どうか、と思う。

 どうか、俺が俺のままでいられますように、と。




読んでくださってありがとうございました!!


2017/01/26、全面的に改稿しました。

やっぱりアレですね、構想が決まったからっていきなり書いたらメチャメチャですね。せめて一晩は寝かせないと……。

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