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中々、執筆という作業のカンが戻りませんね。
皆さん、コンスタントに投稿できるのが一番凄いと思います。
魔法王の登場と共に黄金騎士の実態が怪しくなり崩れてゆく。
「ご苦労、死して王でなくなってしまった我のために大儀であった。」
魔法王の言葉に感動したのか崩れかけていた一人の騎士が膝を折る。
「王よ。我々の王は未来永劫、魔法王ただ一人でございます。」
「そうか、お前たちが求めるなら我は誰に否定されようと王を名乗ろう。」
無機質で機械的と思われた騎士が微笑んだ気がした。フルフェイスで顔などわからないはずなのに姫は不思議な気分となる。
黄金騎士が消えると魔法王は目尻を下げる。
「あの者たちは我に心酔するあまり、私の魂に半ば融合してしまっているのだ。現世を生きる者からすれば、とっくに王座を奪われた者が王を称するなど滑稽でしかないであろうな。」
姫は言葉が詰まってしまう。どこが滑稽だというのだろうか。黄金騎士は王という立場に仕えていたわけではないのだ。心の底から魔法王という個人に仕えていたのだ。
それは、とても素敵なことだと思う。そして、私にはそのような人物がいるのだろうかとも思う。
そう思うと何も知らぬ私が簡単に否定してよいものか。迷ってしまった。
沈黙を肯定と受け取ったか否定と受け取ったかはわからないが表情を戻し魔法王が私をまっすぐ見る。
「さて、我を召喚したのは其方であるな。」
「その通りでございます。どうか、どうか私の国を助けていただけませんでしょうか。」
魔法王は勿体振るように髭一本ない顎に手をやり何度か撫で、首をかしげてから自分の手の平を見つめる。そしてさらに顔に手をやり目を見開く。
「ま、魔法王、どうかいたしましたか?」
先ほどまでのキリッとした目尻が下がる。
「む、すまない。我の肉体が若返っていたのでとりみだしてしまった。ふむ、全盛期の身体というわけか。」
どこか困惑した様子で手を閉じたり開いたりする。
どこか若い姿も相まって可愛いという思いが生まれそうになるのを必死に押し殺し姫は続ける。
「魔法王?」
「うーむ、面妖なことだ。っと、話を戻そう。其方の願いは国を助けることであったな。」
「はい、現在この国は帝国の侵略を受けております。貴方様のお力で帝国を退けていただきたいのです。」
「退けるだけなら簡単にできよう。しかし、それは国を助けることになるのであろうか。」
「どういう意味でありましょう?」
「そこの老いぼれ魔術師はわかっておるようだな。説明してみよ。」
イシュバーンは笑顔で礼をしてから口を開く。ちなみに額には青筋があった。
「姫様、もし魔神の力で帝国を一度、退けたとして簡単に諦めてもらえるでしょうか。」
「無理であろうな。戦争を仕掛けて何も奪えていないのに軍を引くなど考えられん。相手が立ち直れないほどの損害を与えるか。それこそ、帝国を滅ぼすか。こちらに構っている暇がなくなるほどの事態にならなければ諦めんよ。それが国というものだ。」
魔法王は冷めた目でこちらを見る。
「お前の願いはこうあるべきであった。帝国を滅ぼせと、完膚なきまでに叩きつぶせと願うべきであったな。」
「それはできません。」
「なぜかね。女だから甘いというのかな。」
あきらかに小馬鹿にしたような態度で姫を睨め付ける。
その態度に愕然とするが、たしかに反射的に否定してしまったが然したる理由などありはしなかった。
それでも自分なりの答えを出さなければならない。
「あ、あまりに被害が増えれば恨みを買います。それは新たなる戦争の引き金になりましょう。」
「くくく、姫よ。何をしても恨みは買うものさ。それこそ軍が引くような状況になるだけでも恨みは買うし戦争は終わらない。お前は相手が諦めるまで退け続けろというのかね。」
あまりにも現実的ではない。青臭いを通り越して現実が見れていない。いや、見たことがないのか。
魔法王は自分の前に立つ姫、いや少女を値踏みする。
足元、肌、髪、大事に大事に宝石箱に仕舞われていたのだろう。
苦労という文字さえ知らないのかもしれない。
無論、戦争など知識としてあっても肌で感じたことなどなかったのであろう。
魔法王が生きていた時代は、何処かが争っていた。国も民も戦の気配に怯え生きていた。国の力が衰えるとは食い物にされることであったし、強すぎる力は恐れを生み戦火を引き起こしていた。
それに比べれば平和な時代なのであろう。
「姫よ。一つだけ恨みを買わない方法があるぞ。」
「それはどのような方法でございましょうか。」
「簡単だ。抵抗せず、まるでお客様をディナーの席で持て成すようにすべてを与えればよい。資源も食糧も女もそれこそすべてを平らげるまで持て成せばよい。」
「それは無理な話です。そんなことできるはずがありませんわ。」
「そうだ。民を国を蹂躙されるのを許容できぬのならば戦うしかないのだ。さて、もう一度聞こう。姫よ。其方の願いは何であろうか。」
姫は少しだけ考えるが真っ直ぐ魔法王の瞳を見ながら願う。
「魔法王の言うとおり蹂躙されされたくないのならば、相応の力で叩き潰すのが最善なのでしょう。私は考え足らずであることも承知しております。それでも、私は魔法王に帝国を叩き潰すようなことをしてほしくないのです。私の願いは退けることですわ。」
魔法王は片眉だけ器用に上げて苦笑する。
「あくまで退けろと申すか。敵は何度でも襲ってくるぞ。死者も少なければ成果を上げるまで戻れはしないのだからな。」
「覚悟の上です。」
「姫よ。愚か者の戯れ言と誹られることになるぞ。姫はこの国を助ける気がないと笑われるぞ。」
「そうなのかもしれません。」
魔法王はニヤリと笑う。整った顔で笑うと話し口調は尊大なのに若く見えてしまう。
「よかろう愚かな姫よ。その願いを聞き入れた。しかし、わかっているとは思うが、魔神との契約は双務契約である。何かを求めるなら代償を支払わなければならない。」
きた。自然と姫の身体に力が入り、できる限り気配を消して魔神が怪しい術などを使わないか警戒していたイシュバーンも神経を研ぎ澄ませる。
「ふむ、まずは確認しよう。我は魔を司る術によって一つの国をも築いた王である。その我に其方は国を救って欲しいと願ったわけである。敵を殲滅するでもなく退けてほしいと、姫が救われたと感じるまで何度でも退けてほしいと」
魔法王は顎に手をやる。
「困難である。一度でも大軍に魔神とはいえ個人で押し止めよ。とは伝説の英雄でも困難である。それは理解しておるな。」
姫は頷く。
「なれば、代償もそれに準じた伝説でも間に合わぬものを求めなければならぬ。」
「魔法王、私が差し出せるものならば、すべて差し出します。ですが、民を害すような契約を私は結ぶことはできません。」
「強欲であるな。其方は一個人では成し得ることのできない偉業を求めておるのに」
「なんと言われようと私の願いに差し出せる対価など私が所有するすべて以上はありませんわ。民を救うために民を差し出すなどできるはずがありません。私が差し出せるのは宝石でも金でも私が所有するドレスでも、私自身でも……すべて差し上げます。ですから一度でも良いのです。帝国を退けていただけませんでしょうか。」
「姫様!?なりませんぞ。王家の直系は王と姫様のみなのです。直系の血が跡絶えてしまいますぞ。」
イシュバーンは慌てる。だが、姫は一度だけ首を横に振るだけで前言を撤回するようなことはしない。
「ふむ、話にならないな。まず、宝石や金など物質は我の手にかかれば創造するなど容易きことよ。」
魔法王が手を振るうと石畳の一部が一瞬で金に変わる。
イシュバーンはツバを飲み込んだ。存在の書き換えなど伝説上の魔術であるからだ。
「なれば残りは姫自身か?其方は自身の価値は伝説の偉業にも優るほど高いと考えているのか。どちらにしろ対価には不十分である。」
「ならば、ならば魔法王の考える対価とは」
「ふむ、何故私に聞く。」
「魔法王は交渉をしようとしました。対価として釣り合うものがないのでしたら、論外だと断言すればよいではないですか。あるのですね。対価として釣り合うものが。」
「強引な論法だが良いだろう。私はこの世のすべてを手に入れたといっても過言ではない。よいかな。伝説に残るような偉業を求める強欲なお嬢さん。私はすべてを手に入れたのだ。だが、一つだけ存在を確認していない物もある。」
わかるかね。と魔法王は目線で訴える。むろん、心でも読まない限りわかるわけがない。
「私が求める物は『愛』である。」
姫は魔法王の言葉の意味を咀嚼し、ゆっくりと頷く。
「『愛』でございますか。それは名称ではなく世間一般でいう『愛』でありましょうか。」
もしかしたら、『愛』という御菓子とか幻の料理のことかもしれないと一縷の望みをかける。
「無論だ。今の時代にもあるだろう。低俗な芝居でよく叫ばれる肉欲でなく異性を求めるという感情のことだよ。残念ながら姫よ。私は『愛』だけは得ることができなかったのだよ。」
魔法王の顔に浮かんだ感情は何だったのだろうか。それは酷く疲れたような、何かを諦めたかのような。それでいて、怒りを押し殺しているかのような。複雑ものだった。




