夏休み(三題噺 お題山 水 親戚)
「うわー。山だな。」
うっそうとした森の中。急な斜面。
思わずそう呟いてしまう。
「山だからね。」
後ろで妹の梨花が呟く。
「うるせーよ。さっさと行くぞ。」
夏休み。
特にやることなかったので親戚の家に泊まりに行くこととなった・・・はずだった。
「なんで、徒歩なんだよ」
悪態もつきたくなる。
なぜなら、泊まる場所が親戚の家でなく祖母の家となったのだ。
それだけなら良いけど・・・さっきのとおり祖母の家は少し小高い山の上にある。
そして、普段なら車で行くが何故か徒歩だ。
さらに、小さいとはいえリュックを背負っている自分のと妹の二人分だ。
梨花はお気に入りのポシェットだけなのに・・・。
悪意を感じる。代償を払え。
「おにい。うるさい。」
小学校四年になった梨花。
最近生意気きさに磨きがかかった。
「お前も文句くらいあるだろう」
「あっても言わないし。意味無いから。」
なるほど。その通りだ。
「あと、文句言うやつは嫌われるよ。モテないよ。」
余計なお世話である。
「まぁ、・・・でもいいけど。」
何がいいのか・・・はっきりいえ。
そんな会話をしながら山を登る。
周りの木々のマイナスイオンだかを出してるそうだが夏の暑さを補うには力不足だ。
「梨花大丈夫か?」
後ろを歩いている梨花に問いかける。
木の根がところどころ出ていて起伏があるので歩きにくいはずだ。
「大丈夫。」
そう返すが少し疲れてるようだ。
「そうか。」
そう言うと近くの岩に腰を下ろした。
「なに。おにいもう疲れたの?」
「まぁな。お前も座れよ。」
「・・・」
何か言いたげだが梨花も近くの岩に腰をかけた。
リュックから水筒を取り出すと梨花に渡す。
梨花は大人しく受け取ると少しだけ中の飲み物を口にする。
自分も自分の分を飲む。
麦茶が体に染み渡る。
「お前だけでも親とくればよかったのに」
そう、ぶっちゃけ明日になれば親も来る。
舗装された道もあるので車で来れるのだ。
今歩いてるルートは近い上に車も通らないのであるく分には有利がつく。
それでも二時間かかるが・・・。
「別に。イイじゃん。」
もちろん。本人がいいならいいがあんまり歩くイメージが無い。
本を読んでるイメージしかない。
体調大丈夫だろうか?
「そろそろ行くぞ。」
水筒を回収してリュックを背負い直す。
梨花は何も言わずにうなづいた。
歩いて1時間くらい。予定なら半分くらいだがペースが遅れていた。
梨花のペースが上がらないのだ。
根っこなどで起伏がある地面。
そもそもの運動不足で足が動かないらしい。
「もう少ししたら広いところに出るから。お昼にしようぜ。腹減ったからな。」
返事はないから。肯定ととる。
で、少し歩くと広いところに出た。
何故かここは平らになっており、ベンチがある。
ベンチに腰掛けるとリュックからお弁当を取り出した。
お弁当を食べて、少し休んだら歩き出す。
「しかし、おにぎり美味かったなー。」
お腹すいてる上にお外だと尚更うまい。
「うん。」
返事できるくらいには体力回復したようだ。
でも。ペースはゆっくりだ。
焦っても仕方ない。
「おにい・・・」
「んあ?」
「なんでもない。」
首をかしげたが突っ込む気にもなれなかった。
まぁ、いいか。
それからは特に何も無かった。
予定より遅くなったが二時前にはつきそうなので問題ない。
「そろそろ着くぞ。」
「うん。」
なんか、しおらしい。
悪いものでも食ったのだろうか?
「おにい。ありがとうね。」
「お、おう。」
何に対する感謝か分からないので適当にうなづいた。
「無自覚なのかな。」
そう言って笑う梨花は身内補正抜きでも可愛かった。
親戚の家につく。
山小屋みたいな家だ。
「よく来たな!勇者たちよ。」
「いい歳したおっさんが何言ってるの?」
妹に冷たい言葉を投げつけられた。親戚のおじさんがこちらに視線を向けてくる。
「魔王にしてはしょぼいよな。」
俺の追撃におじさんは泣きそうな顔をした。
そして、家に上がる時
妹は俺にしか聞こえない声で呟いた。
「おにいはやっぱり私の宝物。」
「今思えばあれからだよなー。お前からの束縛始まったの」
あれから5年後、高校3年生になった妹からなんと軟禁されている。
まさかの超展開である。
「おにいは宝物だもん。大事に仕舞わないと」
「どこで分岐間違ったんだろうねー」
ハイライトのない目をしてる妹。
あれから、本読むだけの妹が運動するようになった。
初めは体力無いのを克服するためのものだと思ってたがいつの間にか変な武術を習得してた。
今では男性の俺より強い。
「おにい。ご飯だよ。」
もうこの生活にも慣れた。
とはいえ、抜け出すチャンスは狙ってるが・・・。
梨花は器からご飯をすくう。
「はい、あーん。」
口に入れられたご飯は水っぽかった。
お粗末さまでした。