表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/19

とりあえず作ってみました

 魔導演算機(プロトリアクター)を作る。

 言葉にするのは簡単だが、実際にやるとなればそれはやはり高難易度な作業になってしまう。

 なにせ専門職の人間が手掛ける代物だ。

 簡単に作れる筈がない。


 だがこの一年の間に簡単な魔導機器の作り方は覚えた。

 今すぐに魔導演算機を製作しようとは思っていない。

 最初は簡単な魔導機器を作ってみる。

 魔導演算機は二年、三年かけて一つのものを作れればそれでいい。


 ディノールは言った。

 術技式魔術は子供の僕では危険だと。

 しかし僕の精神年齢は二十を超えている。

 子供ではない。


 前世での失敗の連続。

 その原因は怠惰性だ。

 立ち止まったから失敗した。

 だからもう立ち止まらない。もう失敗したくない。

 失敗してはならない。


 しかし簡単な魔導機器を最初に作るにあたり、問題が一つ。

 部品をどうするかだ。

 まあ、これについては実のところ目処は立っている。


「ディノールの工房に散らばっている部品……。もしかしたら使えるかもしれない」


 そう、工房には部品が数多く散らばっている。

 今の僕からすると宝の山だ。

 あそこに落ちてあるものは必要のないものだとディノールは言っていた。

 ならばこっそり持ち帰っても問題はないだろうし、バレもしない筈。


 そうと決まれば行動しよう。

 さっそく明日からディノールの工房に足を運び、部品を幾つか頂戴することに決めた。


 そして次の日。


 僕はいつものように起床。

 いつものように朝の読書。

 いつものように昼に仕事見学。

 いつもと違って部品を拝借。

 いつものように夜は魔術の修練。

 そしていつものように気絶。


 それをまた次の日も、その次の日も繰り返した。

 すると一ヶ月もすればなかなかの数の部品が集まった。


「これだけあれば幾つか魔導機器が作れそうだ」


 僕は満足げに集まった部品を見る。

 見る人が見ればまるでガラクタの山だ。

 しかし僕には宝の山に見える。

 言葉通り、これだけの部品が集まれば魔導機器は作れそうだ。


「しかも魔石のおまけ付き。運がよかった」


 工房には魔導機器の動力となる魔石も落ちていた。

 質が悪いとはいえ、使えないことはない代物だ。

 ディノールは職人意識が強いから、魔石を厳選するときも厳しい目で見ている。

 だから普通に使える魔石でも容赦無く爪弾き。

 今はそれが助かったとも言えるけど。


 ちなみにそれらの部品は机の下に隠してある。

 見つかって没収なんてされたら目も当てられない。


「じゃあそろそろ魔導機器の製作に入ってみるか」


 部品がこれだけ集まったんだ。

 そろそろ製作に取りかかってもいいだろう。


 僕がまず最初に作ろうと思うのは魔導ランプだ。

 この魔導ランプはもっとも初歩的な魔導機器と言えるもので、魔導技師になるにはこれを作ることが最初の関門とさえ言われている。

 それが無事完成できたら晴れて魔導技師の卵というわけだ。


 まあつまりこの魔導ランプは一般人でも魔導機器に詳しい者なら作ることもできるくらいに製作難易度は高くない。

 最初に作る魔導機器にこれ以上ふさわしいものはないだろう。


 僕はさっそく魔導機器に関する事柄が書かれてある本を開く。

 魔導機器の製作に関しては初心者だ。

 本の知識は大体頭に入っているとはいえ、万全な準備は必要だ。


 ……本当ならディノールに教えられながらが一番確実なんだけど。

 しかしあの父親はこと魔導機器に関しては口煩いし厳しい。

 魔導演算機のように触らせてもくれないかもしれない。

 ここは一人でやるべきだ。


「これと、これと、これは必要ないか」


 とりあえず必要そうな部品を取り出しておく。

 全部出すと片付けの時が面倒だし。


 必要な分の部品を取り出した後は、今度は魔術書を開く。

 というのも魔導機器は魔術陣を刻まなければ発動しないからだ。


 魔導ランプは炎の属性魔術を使った魔導機器。

 そもそも術技式魔術というのは属性魔術と無系統魔術に分かれている。

 属性魔術は炎、水、風、雷、土の五つ。

 その他が無系統魔術だ。


 そして魔導機器というのはその効力を発動するためにも魔導機器の核となる部分に魔術陣を刻まなければならない。

 魔導機器というのはそのほとんどが術技式魔術を発動するための機械だ。

 だから魔導演算機と同じように魔術陣を読み込んで初めて魔術が発動される。


 いや、本当は逆だ。

 魔導機器というものが魔術陣を読み込んで発動する機械だからこそ、魔導機器である魔導演算機も同じように魔術陣を読み込まなければ発動しないと言うべきだろう。

 まあ今はそんなことはどうでもいいか。


 僕は魔導ランプを作るべく、その作業を始めた。


 といってもやることはそんなに大したことじゃない。

 幸い魔導ランプの部品は工房にいくらでもあった。

 多分壊れた魔導ランプの部品だったのではないだろうか。

 それらを魔力回路を組み込まれた部品で魔石と繋ぎ合わせていくだけ。


 だから感覚としてはプラモデルでも組み立てているようなものだ。

 魔導機器に関する本という説明書もある。

 そう難しいことでもない。


 しかし一つだけ問題があった。

 魔術陣を刻むという作業だ。


 魔術にはその威力、効力、有用性、その他の様々な内容から、五級、四級、三級、二級、一級、超級、極級に分類されてある。

 魔導機器に使われている炎の属性魔術は一番最低の五級魔術だ。


 しかし最低だと言っても僕は今まで魔術陣を刻んだことはない。

 だから魔導ランプを作るには五級魔術の魔術陣を学ばなければならないということになる。


 だけどその問題も杞憂なものだった。

 必要な炎の属性魔術の魔術陣はそこまで難解なものではなかったからだ。

 円を描き、その中に必要な線を幾つかいれるだけ。

 手間取ったのは魔術陣に魔力を込めながら刻んだことだろう。


 丸一日が経過した後、魔導ランプの一つ目が完成した。


「……さっそく起動してみるか」


 僕は早く動悸する鼓動を胸に、自作魔導ランプを付けてみる。

 ボッと音が鳴ったと思えば、小さくではあるけど魔導ランプの火が灯った。

 成功だと言っていいだろう。


「よし!」


 僕は思わず握り拳を作った。

 初めての魔導機器製作。

 それに成功した。

 嬉しいなんてものじゃない。

 失敗じゃない。成功なんだ。


「さて。あとはどうして火が小さいか、だけど」


 そうして落ち着いた後、どうして灯った炎が小さくのかを考えた。

 単に魔石や部品が劣化品だからだろうか。

 そう決めつけていいのだろうか。


「いや……」


 一つ心当たりがある。

 あれは魔術書に書かれてあったことだった筈。

 魔方陣が不安定な形をしている時や図形がズレている時、魔術もまた安定しないという記述だ。


 思えば魔方陣はそこまでしっかりしたものだったとは言えない。

 もちろん全力は尽くした。

 しかし本に載っていた図形ほど綺麗な魔方陣でもなかった。


 それに魔方陣はその内容を理解していなければ描くことはできない。

 今さっきの魔方陣は簡単な算術を使ったものだったので、そっち方面でゴリ押しした形になっていた。

 魔方陣の理論のことなんて考えてはいなかった。


 それが原因なのかもしれない。


 とりあえず明日ももう一度魔導ランプを作ってみよう。

 そう思い、今日は寝ることにした。

 もちろん武装魔術で気絶するまで魔力を消費した。




 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

他作品

ただの欠陥魔術師ですが、なにか?

よろしければ評価 して頂けると嬉しいです。

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ