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工房へ行きました

「工房に行きたい?」

「はい。父様の仕事がみたいです」


 まずはマリーナに工房の場所を聞く。

 なにせ場所がわからないからだ。


「そうねぇ。まあ大丈夫かな。ついて来なさい」


 マリーナに案内された場所は家の奥にある一つの部屋だった。

 薄暗い廊下の隅にある一室。

 確かにこの部屋には来たことがない。

 なるほど、こんな場所に工房があったとは。


「えっと。確か合言葉はなんだったかしら」

「合言葉なんてものがあるんですか?」


 目の前には部屋と廊下を遮るような頑丈な扉がある。

 その目の前でマリーナが頭を捻っていた。

 合言葉なんてものがあるのか。


「ええ。この扉は魔導機器を組み込んだものなの。声によって動く声帯式自動解除のついた扉なんて、早々みれるものじゃないわよ? ……あ、今のはちょっと難しかったわね」

「いえ、なんとなくわかります」

「………………」


 我が母がげんなりしているが、そこは正直どうでもいい。

 それよりも驚きなのが声帯式自動解除というもの。

 声によって鍵が開く仕組みなのはわかったけど、すごいな。

 どんな仕組みなのだろう。


「まあいいわ。――工房への道よ、開け」


 マリーナが合言葉らしき言葉を呟く。

 すると驚くことに扉がガチャガチャと音を立てて自動的に開いた。

 中から姿を表すのは地下へと続く階段。

 その先にはこれまた魔導機器と思われるランプの光が灯っている。


 この下が工房になっているのか。

 僕は生唾をゴクリと飲み込んだ。


「じゃあ気を付けて行ってらっしゃい。あとパパの邪魔はしないのよ?」

「わかりました」

「……本当、その敬語はどうにかならないのかしら」


 最後の呟きはあまり耳には入らなかった。

 そんなことよりも僕は夢中になって階段を降りる。

 多分その様子にはマリーナも呆れを含んだ視線を向けているのではないだろうか。


 階下までは結構な長さの階段で、子供の体をしている僕にはキツかったが、やっとの思いで工房へと辿り着いた。


「……結構散らかってるな」


 床には機械の部品と思われるものが散らばっており、至る所に専門書と思われる本が積んである。

 部屋の中はランプのおかげで暗いということはないけれど、落ち着いた雰囲気を醸し出していた。


「マリーナか? いや……レイか」

「父様。ここが工房ですか?」

「ああそうだ。というより、どうしてここに入れたんだ」

「母様に案内してもらいました」


 答えながらも視線は工房のあちらこちらだ。

 あらゆる場所に魔導機器と呼ばれる機械らしきものが置いてある。


「これ全部が……魔導機器ですか?」

「ああ。一般ようの魔導機器から魔導演算機(プロトリアクター)のように専門の魔術師が使う魔導機器が置いてある」

「じゃあこれら全部を父様が作っているんですか」

「まあそうなるな。魔導技師としての俺の仕事だ」


 少しだけ誇らしい表情をするディノール。

 しかしこれだけの魔導機器を作ったのならそれも納得だ。


 ディノールは自分の職を魔導技師といった。

 おそらく魔導技師というのはこれら魔導機器を作り出す職業のことを指すんだろう。

 ということは僕の父親は専門職ということになる。

 それだけの魔術や魔導機器に関する知識を持っているということだ。


「……ん?」


 その時、足にコツンと何かが当たる感触を覚えた。

 なんだろう。

 僕は足に当たった物を手にとってみた。


 それは腕輪の形をしていた。

 僕はこれに見覚えがある。

 ついさっき本で見たばかりのものだ。


「これは……魔力観測機!」


 やはりというべきか。

 ディノールはこの魔力観測機を持っていた。

 しかもこんなに早く見つかるなんて。

 運がいい。


「父様。これをもらってもいいですか?」

「ああ。下に散らばってるものはそこまで大事なものでもないだろうし、いいぞ」


 こちらを見もせずにディノールはそのようなことを言う。

 それでいいのか我が父よ。

 いや、もらえるものはもらっておくべきか。

 ありがたく頂戴しておくことにしよう。


「父様。また見学に来てもいいですか?」

「ああいいぞ。来たい時にくればいい」


 どうやらディノールはすっかり仕事モードのようだ。

 魔導機器を弄りながら気のない言葉が返される。

 まあ言質は取った。

 つまり許可は下りたんだ。

 これからちょくちょくこの工房に足を運ぶことにしよう。


 僕はそれからしばらくディノールの仕事っぷりを目にして、少しの時間が経った後に退室した。



 ★


 魔力観測機を手に入れた僕は次の日さっそく数冊の本と魔力観測機を持ったまま、自分の部屋へと戻った。

 二歳の子供に部屋を一つ明け渡すディノールとマリーナには驚くばかりだ。

 もしかしたらこれも文化の一つなのか。

 そうであるならその文化に感謝だ。


「ではさっそく」


 魔力観測機は腕輪の形をしている。

 それを僕は自分の左腕に嵌めた。


 使い方は簡単。

 左腕につけた魔力観測機は魔力がしっかり循環しているなら腕輪に取り付けられた赤い石が光るそうだ。

 逆になにもなければそれは循環が上手くいっていないということになる。


 まあ、まずは体内の魔力を感じることから始めないといけない。

 しかもこの魔力を感じる作業からかなりの時間が取られるそうだ。


 魔力を感じられるようになるだけでも平均的に半年はかかるとされている。

 つまり半年経ってようやく魔力を操作する作業に入れるということ。

 流石に時間がかかり過ぎなのではないだろうか。いや、そんなものなのだろう。


 だが、これはいい意味で予想を裏切られた。


「体の中にあるこれが魔力なのか……?」


 目を閉じて体内の中に意識を注ぐと、なにやら違和感があるのだ。

 体の中に異物が入っているような感覚だ。

 でもそれが決して不快というわけではない。


 最初こそ戸惑ったが、数回ほど意識を注ぐとその違和感を明確にとらえることができるようになった。

 魔力を感じられるようになるのは平均では半年ほどかかるとされる。

 しかし僕の場合は一日も経っていなかった。

 もしもこれが正しく魔力であるなら、あまりにも魔力を感じることは簡単過ぎないだろうか。


 いや、もしかしたら元々魔力のない世界で生活してきたのだから、体の中の魔力を違和感としてとらえることができているんじゃないだろうか。

 最初からずっと重りを付けていれば重りに慣れて付けていることを意識しなくなるけれど、急に重りを付ければもちろん重りに意識が向く。

 それと同じように僕の場合は魔力という重りを突然付けたから魔力を感じやすいのではないだろうか。

 少し違うかもしれないが、それでおおよそ合っている気がする。


 これは素晴らしい。

 半年ほどかかる魔力の感知をたった数時間で終わらせるなんて。

 前世の僕では考えられないような成功ぶりだ。

 このままいけば魔術なんてすぐに使えるようになるのではないだろうか。

 もしかすると今日中にでも魔術を使えるようになるかも。

 なんだかワクワクしてきた。


 その妄想も一時間後には打ち崩されることになったけれど。


「魔力が循環しない……」


 魔力を感じられることには感じられる。

 しかしその操作方法がわからなかった。

 念じても体に力を込めても、まるで粘土のようにウネウネと動くだけ。

 粘土初心者が精巧な人形を作れないように、僕もまた魔力の循環ができないでいた。

 光りもせずに無言を貫く魔力観測機がただただ虚しい。


 いや、認めよう。

 調子に乗っていた。

 すぐにできるものだと舐めていた。

 とんでもない。

 できないものはできないのだ。


 本によれば魔力の循環は早いものでも数ヶ月かかるとのこと。

 ハンデはあったが、ここからは普通と同じようにやるしかないだろう。

 むしろハンデがあっただけマシと考える。


 焦らず慎重に。

 一つ一つ階段を上っていこう。

 ああ、そうしよう。


 その日は一日中自室の部屋に籠もって魔力循環をしていた。



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