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魔術の本を読みました

 この世界には魔術という存在がある。

 それを僕が始めて知った瞬間だった。


「ディノ……パパの仕事はね、魔導機器を作ることなの」

「魔導機器?」

「ええ。魔術というエネルギーを使って動く機械ね。そして、今パパが扱ったのは魔導演算機(プロトリアクター)という魔術を使うために必要な魔導機器よ」

「あの四角いものが魔術を使うために必要なんですか?」

「ええそうよ」


 あんな小さな、四角の物体が魔術を発動させる鍵となる。

 いささか信じがたいことでもあるけれど、この世界ではそれが常識なんだろう。


 しかしこうなってくると魔術についても知りたくなってきた。


「もしかしてこの家に魔術について書かれた本もあるんですか?」


 多分、今の僕は多分キラキラと瞳を光らせていたんじゃないだろうか。

 おそらく年相応の少年のような輝きを放っているだろう。


 でも仕方がない。

 仕方がないんだ。

 魔術、魔術である。

 御伽話にしか出てこないようなものだ。

 もっとも、御伽話の魔術は機械なんて必要としてなかったけど。

 まあそんな細かいことはこの際どうでもいい。


「魔術についての本なら俺の部屋に山ほどあるぞ。見たいのなら勝手に見ていい。もちろんちゃんと後片付けはするんだぞ」


 今さっき見せてくれた魔導演算機のあちこちを首を捻りながら見ているディノールがそう教えてくれた。


 なるほど。

 ディノールの部屋には魔術に関する本が山ほど置いてあるのか。

 それはいいことを聞いた。

 しかも勝手に見ていいという許可も一緒に頂いてしまった。


 流石は僕の父。

 話がわかる。


「じゃあさっそく借ります!」

「ああ。さて、俺も工房で調整してくるか」

「ちょっと待った」


 いざ走り出そうとしたところでマリーナに止められた。

 いいところなのに。

 ディノールも面倒臭そうにマリーナの方を見る。


「まずはご飯を食べてからね」


 もう夕食の時間か。

 早く魔術に関する本を読みたいというのに。



 ★


 夕食を食べ終わった僕はさっそく魔術に関する本を目的としてディノールの部屋に足を運んだ。


「確かにいっぱいあるなぁ」


 僕は部屋に足を踏み入れて感嘆の声を思わず漏らしてしまった。

 いくつもある本棚の中に本がびっしりある。

 マリーナからいくつかの本を借りていたけれど、正直それとは比べものにならないくらいの量だ。


 さて、どれから読もうか。


「……これはどうかな」


 僕は本棚の下段から本を探して一冊の本を取る。

 上段の本は二歳の僕には届かないから仕方がない。


 僕が取り出した本は『魔術の基礎』と呼ばれる本。

 まさに僕にはピッタリの本だ。


 さっそく本を開いて文字を目で追った。


「なになに……」


 魔術は魔力という人間の体内にあるものを消費することによって発現するものである。

 本にはそう書かれてあった。


 本によると魔術には二つほど種類があるらしい。

 一つが体技式魔術。

 もう一つが術技式魔術だ。


 体技式魔術は魔導演算機を必要とせず、自分の体内にある魔力だけを使って発動する魔術。

 術技式魔術は魔導演算機を使って発動する魔術。


 また術技式魔術は魔導演算機だけでは発動せず、魔紙と言われる魔術陣が書かれた紙の中の魔術陣を読み込ませなければならないとのこと。


 この魔紙というのは多分、ディノールが魔導演算機にある差し込み口に突っ込んでいた紙のことだろう。


「なるほど。つまり魔導演算機は魔術陣を読み込むための機械で、魔術自体は魔術陣を必要とするわけか」


 理解はした。


「でもそうなってくると、体技式魔術はなんなんだろう」


 しかし疑問も出てくる。


 術技式魔術は魔導演算機――正確には魔術陣――を必要とするみたいだけれど、もう一つの体技式魔術というものには魔導演算機を必要とせず発動できる魔術とある。


 これって術技式魔術の必要を無くすものじゃないのか?


 その疑問の答えは本のページを追って行くごとに解けていった。


 簡単に言うならば、術技式魔術の方がバラエティに優れている。

 炎を出したり水を出したりと色々なことができるのが術技式魔術。

 それに対して限定的なことしかできない魔術が体技式魔術のようだ。


 この体技式魔術でできることは端的に言えば身体能力の向上みたいだ。

 身体を強化したり、感覚能力を鋭くしたりなど。

 逆に言えばそれだけしかできない。

 それが体技式魔術。


「……それなら、次は魔術を使える方法か」


 知識を得ても、それが使えなければ意味がない。

 これら魔術を使うには一体どうしたらいいんだろうか。


 僕は次のページをめくる。

 その答えは案外早く見つかった。

 僕の視界に映るのは魔術の使い方という文字。


「これだ」


 僕はさっそく食い入るようにして本を見た。


 本によると初心者はまず、体技式魔術から学ぶことがほとんどのようだ。

 その理由は体技式魔術によって人間の体内にある魔力回路の扱い方を学ぶことが、後に術技式魔術にも生きてくるから。


 術技式魔術は魔導演算機に体内の魔力回路を繋いで魔力を通すらしい。

 だからこそ体技式魔術で魔力回路による魔力操作を覚えておいた方がいいとのこと。


 体技式魔術の使い方は言葉で表すと簡単。

 体内の魔力回路によって魔力を操作し、循環させる。

 これによって体技式魔術の最も基礎となる武装魔術が発動する。


 でも、その体技式魔術を習得するまでが大変なのだそうだ。

 本によれば、これを個人的に行うには無理な話だとある。

 魔力観測機と呼ばれる魔導機器を使って自身が上手く魔力の操作を扱えているかを確認しながら行うのが一番だということ。


 ただその魔力観測機という魔導機器はどこに行けばあるのか。

 はたまたは誰が持っているのか。


「一応、図は載ってるけど……」


 本にはその魔力観測機の図が載っている。

 思ったよりも実物は小さいようだ。

 だがそれがどうすれば手に入るかはわからない。


 困ったものだ。

 そこで妙案を思いついた。


「仕方ない。父様に聞いてみるしかないか」


 ディノールならばもしかすると知っているかもしれない。

 それにディノールは工房に向かった筈。

 この家にそんな場所があることを初めて知ったけれど、興味がある。

 できれば見学したい。


 僕はさっそくその工房とやらに向かうために、本を持ったままディノールの部屋を後にした。





 


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