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転生魔王の世界侵略  作者: 日元ひかげ
魔王、人間社会を勉強する
9/13

魔法学園 3

いくつかのパターンを思いついたうちの一つです。お陰で時間がかかってしまった。

決闘後編。

 フィナは攻めから一転、今度は守りに入っていた。それも防戦一方で、攻撃に転じる隙がまるでなかった。


 右上から、左下から、上から、左から、と放たれる剣撃はどれも重く、正面から受けるよりも外に流すように捌いていく。このままではすぐに限界が来てしまうだろう。彼女は顔を曇らせて両手で握っていた剣の柄から左手を離した。掌をギルの足元へと向ける。


「《サウザンドアイスエッジ》!!」

「っ!」


 その瞬間ギルの足の裏を起点に青の魔法陣が広がり、そこから無数の氷の刃が殺到する。彼は後方に跳んで躱し、空中へと逃げた。それでも迫ってくるものは炎の剣で叩き折ったり溶かしたりして凌いだ。


 距離ができたことによる形勢逆転への道。見逃すはずもなく追撃を仕掛ける。


「《ウォーターショット》!」


 フィナの周囲に現れた八つの水の弾丸が空中で無防備になっているギルに放たれた。


「むっ!」


 《ファイアボール》


 ギルの周囲に水の弾丸と同じ数だけ小さな火の球が現れた。それらは迫り来る水の弾丸に向かって飛んでいき、ぶつかり合って相殺した。


 生じた湯気によってフィナの視界が阻まれる。


「この程度なのか?」


 湯気の向こうから声がする。特に感情が込められているわけではないが、その言葉が彼女の琴線に触れたために眉を少しばかり釣り上げた。


「この程度……?」

「そうとも、俺にとってはこの程度でしかない」

「――っ!」


 突如として湯気の中からギルが現れ、鋭い剣先を突き出した。かろうじて躱すも反応が遅れ、脇腹に傷を負った。深くはないが、一瞬たりとも気の抜けない戦いにおいては致命的とも言える。


「《ハイリペアー》」


 フィナは治癒魔法を唱え、この間の追撃を想定して構えた。が、ギルは立ったまま動こうとしなかった。それどころか持っていた炎の剣さえ地面に投げ捨ててしまった。


「……なんのつもり?」


 彼は答えず両手を胸のあたりまで持ち上げた。そしてこの場にいるすべての者が目を丸くする言葉を口にした。


「まいった、俺の負けだ」


 辺りが静まり返った。あまりにも呆気ない終わり方だったが次元の違う二人に野次を飛ばす者はおらず、この決闘は幕を下ろすかと思われた。


「ふざけないで…………」


 ただ一人、彼女を除いて。肩を震わせてギルを睨みつける。彼はそれを意にも介さず、顔を明後日の方向に向けている。その態度が彼女の怒りをさらに掻き立てる。


「いい加減に――」


 痺れを切らしたフィナが《エアスラッシュ》を足元に放とうとすると彼が急に向きを変えて、口を開いた。


「フィナ、避けろ!」


 わけも分からず反射的にその場から離れた直後、彼女が元いた場所に全長四メートル程の塊が墜落した。その衝撃は凄まじく、地面にも何本かの亀裂が走り、辺りは砂煙で視界が塞がった。


 数秒後、その中心地点から猛烈な風が吹き荒れて砂煙を払い飛ばした。視界が開け、落ちてきた物の姿を確かめる。それを見た彼女は自分自身の目を疑った。


「な、なんでこんなところに……」


 グリフォン。その獣のを知る者はそう呼ぶ。大鷲の頭に獅子の身体を持ち、背中には自身を空中に羽ばたけるだけの巨大な翼をつけている。風を自在に操り、空を駆ける魔獣。


 観客席から悲鳴が上がった。教員でさえ自分の立場を忘れて呆然と立ち尽くしている。


 グリフォンの視線が悲鳴によって観客席に向けられた。翼は動いていないにも関わらず周囲に風が巻き起こっている。


 まずい!


 フィナの身体が考えるよりも先に動く。


「《ファストムーブ》!」


 魔法によってさらに速度を増し、怪物との距離を一気に詰める。


「《ブレイドコーティング・ダブル》!!」


 強化された刃が首に向かって横一文字に振り抜く。しかしその途中でグリフォンの強靭な前足によって防がれた。鈍い金属音を響かせて接触面から火花が散る。


「くっ」

「クルァァァアアアアアアアアアアッ」


 グリフォンは怒り狂ったように吠えた。二つの眼が彼女に向けられる。ここまでは計算通りだ。自分に注意を向けさせ、他の生徒が逃げるための時間を稼ぐ。視界の端では正気に戻った教員たちが生徒たちを避難させ始めているのが分かった。


 だが、距離を取ったフィナの手からは剣がなくなっていた。先ほどの一撃を防がれた際に鉤爪から抜けなくなってしまい、仕方なく手放してしまったのだ。


「クォオオオオオオオオオオッ」


 怒り狂ったグリフォンが風を纏いながら突進を開始した。怪物の力強い踏み込みに地面が抉れる。大人の背丈の二倍以上ある巨体が迫ってきているにもかかわらず、彼女の顔に焦りはない。


 両手を前に突き出し、魔力を送る。浮かび上がったのは白い魔法陣。息を大きく吸い込み、視線はグリフォンへとまっすぐ向ける。魔法陣の直径が怪物と同等になった時、それは唱えられた。


「《ホーリーレイ》!」 


 視界を覆い尽くさんばかりの光の光線が魔法陣から放たれた。光はグリフォンを飲み込み、さらに直進。競技場の壁に激突し大きな穴を開ける。勿論、その場所には誰も居ないことを確認している。


 《ホーリーレイ》は十一位階ランクイレブンであり、フィナの使える魔法の中で最高位階のものだった。さらに魔族との相性も良く、グリフォンにこれを防ぐ力はない事は知っている。


 よって勝利を確信したフィナは口端を少し釣り上げた。


「クェェエエエエエエエエエエエエッ」


 光の中からの咆哮。彼女の表情は凍りついた。光線を突き抜けたグリフォンの正面には半透明の青い膜が張られていた。


「なっ!? なんでグリフォンがそんな魔法を――」


 数秒前の油断が思考を鈍らせ、結果として彼女の動きが止まった。目の前に迫ったグリフォンが右前足を振り上げた。四本の鉤爪が光り、鋭い眼光は彼女を見据えている。


 頭の中が真っ白になり、フィナはただ時が過ぎるのを待つばかりだった。





「おとなしくしていれば良かったものを、我の邪魔をしおって……」


 《テレポート》


 尖った鉤爪が振り下ろされる瞬間、フィナとグリフォンの間に割って入り、それに向けて彼は左腕を伸ばした。


 《フィジカルカウンター》《エディションフォース》


 現れた魔法の壁が勢い良く振り下ろされた怪物の鉤爪を跳ね返す。


「ケェッ、クルルルルゥ……」


 驚いたグリフォンは数歩さがって威嚇の唸り声を上げた。


「もう遅い」


 声を発するとグリフォンの様子が急変し始めた。苦しそうに悶え、瞳の焦点が合っていない。その時、大きな翼から一滴の血が滴り落ちた。


「クェ……」


 この鳴き声を皮切りにグリフォンの身体が裂けていった。四等分にされた肉塊は鮮血と臓器を派手に撒き散らしながら崩れ落ちていく。


 返り血を浴びながらグリフォンの死骸を確認し、しばらく思考を巡らせた。


 決闘を開始してからしばらくして何者かが監視していることには気づいていた。これといってあまり警戒せず、邪魔さえしなければ放置するつもりだったが、妙な魔力の流れを感じ取ったために急いで決闘を中止するに至ったのだ。


 結果的にその何者かが使った召喚魔法でグリフォンが現れた。しかしここでいくつか疑問が生じる。一つ目はグリフォンは魔界においてもそこそこ力のある魔獣であるため、力の弱い人間がそれを召喚することが出来るのか、ということ。二つ目はフィナの放った《ホーリーレイ》を防いだことである。なぜならグリフォンは本来は《アンチマジックシールド》という光属性に入る魔法を行使できない。使える魔法は多くても風属性、炎属性、闇属性だけだったはずだ。


 つまり、フィナの攻撃を防いだのはグリフォンではなく召喚者だったのだろう。それならギルの攻撃にも何らかの手を打てたのではないのかと考えられるが、そうしなかった。元からギルが狙いだったかのようだ。


「気に食わんな……だが、収穫はあった」


 ギルの言う収穫、それは自分の能力に関する限界を知ったことであった。彼の目線の先にある腕は震え満足に手が握れなくなっている。足も同様に痙攣を起こし、力が入らない。以前ならこの程度でこうなることは有り得なかった。筋力や体力は肉体年齢相応のモノなのかもしれない。


「どこの誰かは知らんがやってくれたな。この借りは高く付くぞ」

「あの……」


 突然背後から声をかけられ、ビクリと肩を震わせた。振り返るとフィナがそこに立っていた。視線はやや下向きでいつもの気丈に振る舞ったような態度は見られなかった。


「気づいて……いたのね。だからあんな終わり方を……いえ、まずは礼を言うわ。ありがとう、助けてくれて」


 この言葉はギルに途轍もない衝撃を与えた。そう、彼は助けてしまったのだ。人間である彼女を、自分と自分の部下を殺した勇者たちの娘を。見殺しにすることも出来た、混乱に乗じて命を奪うことも容易かったはずだ。しかし咄嗟に出た言葉で救ってしまった。


 …………なぜだ、なぜ我はコイツを助けた?


 疑問が頭の中で木霊するが、それを必死に抑えて返事を返した。


「いや、礼を言われるようなことはしていない」

「そんなことない!!」


 彼女は視線をギルに向ける。


「わたしは、このがくえ……この国にわたしより強い者はいないと思っていた。でも、それは奢りだった。父からいつも言われていたことなのに、忘れてしまっていたわ……。あなたはそれを思い出させてくれた」

「…………」

「負けなんて言ったけど、本当はわたしに勝てるのよね? あれだけ余裕を見せつけておいて嘘とは言わせないわ」


 無言で頷くのを見て彼女は少し嬉しそうに笑った。その顔を見たギルは反射的に口を固く結んだ。


 今、我は何を言おうとした……?


 無意識のうちに人間に対する新たな感情が芽生え始めていることに彼はまだ気づいていなかった。

感想、お待ちしております。

次回は普通に続きますが番外編とか、そのうちちょっとした話を別で出そうかと考えておりまする。

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