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転生魔王の世界侵略  作者: 日元ひかげ
魔王、人間社会を勉強する
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魔法学園 2

決闘前編です。サブタイはまとめてる感じなので細かく言うとってなりますね。

 競技場は楕円形の造りをしており、周囲は観客席に囲まれている。座れる人数は下段が一万人、中段が二万人、上段に一万人が座れる。これは年に一度の先進魔法学園合同演武、通称マジシャンズ・フェスティバルを行うために建設されたものである。フェスティバルの内容は世界を代表する魔法学園五校による実力の見せ合い、といえば解りやすいだろうか。


 競技場自体はリベート国にあり、リドルヘイム魔法学園からも近いため普段は生徒たちの自主的な練習のためや教育の一環として魔法の実習事業に使われたり、今回のように生徒たちの決闘に用いられることもしばしば。


 そんな競技場の外周、入り口の前に二人の人影があった。学生服姿のギルとシスター姿のイレンである。


 イレンはギルを睨みつけ、ギルは何食わぬ顔で目の前の建造物を眺めていた。石造りの競技場は妙な威圧感を放ち、来訪者を迎え入れようと構えている風に見える。


「なかなか立派なものだな。天候も絶好の決闘日和ではないか」


 腕を組んで満足そうに頷く彼にイレンは叱責する。


「……なーにが立派よ! アンタ魔力にばーっかり栄養取られて頭に回ってないんじゃないの!?」

「何をそんなに怒っている? もう決まっている事をうだうだ言っても仕方なかろう」

「アンタ、喋り方戻ってるわよ…………」

「ん? あ、あぁ。無意識に出てしまうな、注意するよ」


 これからの決闘の事を楽しそうな顔で考えている彼を前にイレンは怒りが薄れていくのを感じた。


「はぁ……」


 イレンはつい先日の事を思い出す。




  リドルヘイム魔法学園の学生寮は遠方から通うことの出来ない者のために設けられた施設ではあるが、申請して許可さえ出れば誰でも入居可能なのだ。


 家具はある程度備え付けで揃っており、家賃も優秀な人材を育成するという名目で無償となっている。そのため、学園から遠かろうが近かろうが予約が殺到しており、通常ではこの競争率を突破することは難しかった。しかし、推薦枠の部屋はまた別に用意されており、ギルは難なく部屋を借りることができた。編入初日、彼女は先にギルが住まう予定の部屋に着いていた。その部屋の中には木箱が数個積まれていた。


 ルイーゼ院長が送ってくれたギルに合わせた服装とイレンの私物である。


 彼女はまず自分のものとそうでないものに分け、荷物を整理していた。それも終わりに近づいた頃、ギルが意気揚々と帰ってきたのである。


 その理由を尋ねた彼女は自分の耳を疑った。それもそのはず、学園の一位に決闘を申し込んできたというのだから。確かに彼の強さは目の当たりにしている。しかし、相手は魔法はおろか剣術でさえ国内に勝る者がいるかいないかの存在だ。


 イレンは決闘の取り消しを提案したが、ギルは首を縦に振ることはしなかった。彼の性格が性格なだけに何かは起こるだろうと考えていたが、これは想像の範囲外だった。


 結局、彼女にはどうすることも出来ずに当日を迎えることになった。




 正気に戻った時、ギルは視界から消えていた。どうやら先に向かったようだ。


「ホント信じらんない!」


 本日何度目か分からないため息を吐き、急いで競技場の中へと入っていった。





 少し薄暗い通路を進んで行くと中に抜ける扉があった。手前には受付の男が席に座っており、確認を行うと紙に何かを書き込んだ。


「はい、認証が済みました。では中へどうぞ」


 男が手を向ける方向にギルが進み、扉の目の前まで来ると自動的にそれが開いた。外からのまぶしい光が彼を包み込む。


 外周から見ても分かっていた事だが、中に入ってみてもやはりその巨大さを実感させられる。


 楕円の中心であろう場所にフィナが帯剣姿の仁王立ちで待ち構えていた。観客席には下段の最も中心に近い場所にほぼ全ての学園生徒たちが陣取っていた。


 全校生徒を入れても満席には程遠いと言っても普段ではありえない光景だ。いつもであれば誰かの練習姿を見るよりも自分を高めることを優先しているのだ。それなのにこれだけの人数が集まるということはやはりフィナの戦っている姿が見たいというのが最も多いだろう。ついでに編入生の実力をみてやるか、と言った具合である。


「人気者なんだな」


 ギルはフィナに近づくと冗談混じりに言った。これに対して彼女は首を横に振る。


「いいえ、アレはどちらかと言うと……単に物珍しさにだと思うわ」


 首を傾げると彼女は加えて説明を付け足してくれた。


「今までは決闘を全て断っていたのよ。闘ったのは授業と、テストの時だけ」


 彼女は肩を竦ませながら微笑む。それは少し力なく見えた。


「じゃあなんで俺の申し出を受けたんだ?」


 彼女は沈黙し、しばらくしてから口を開いた。


「あの日、あなたに殺気を向けられたからかしら……」

「ほぅ、気づいてたのか」

「あれだけ暴力的なものを向けられたら敏感な動物はすぐに逃げ出すでしょうね」


 再びの沈黙。彼女の瞳にはギルの力量を見極めようとする意志が感じられたが、困ったように眉を釣り上げて瞳を曇らせた。


「……正直、あなたが怖いわ。いえ……だからこそここでハッキリさせるの。あなたの実力を」


 フィナは左腰に手を伸ばし剣の柄を握りしめるとそこで手を止めた。


「ルールをまだ決めてなかったわね。見たところあなたは剣を持っていないようだけれど、使えるのかしら? なんなら魔法戦でもいいのよ?」


 フィナの提案にギルは笑う。笑い終えると彼は右の掌を突き出した。その掌の上に青い魔法陣が浮かび上がり輝きを増していく。


「すまない。別に君を笑ったわけじゃないんだ。ルールを今決めるなんてマヌケなことに気づかなかった自分がおかしくて、ついな。……そうか、ルールか。君が決めてくれ。俺はこの学園のことをまだ何も知らないんだ」


 ここでギルは「ただ――」と付け加える。魔法陣から氷でできた剣が現れ、フィナは目を見開いた。観客席からは歓声が上がる。


「《クリエイションマジック・コールドブレイド》! 俺だって剣くらい使える」


 剣を魔法陣から引き抜くと二回、三回と試し斬りをして満足気に頷く。その姿を見た彼女は頬に冷や汗を滲ませた。


「驚いたわ。まさかそんなものを使えるなんて……」

「こんくらいで驚いてちゃ、後がもたないと思うぞ」

「そうね、じゃあルールはこうしましょうか。『死ななければなんでもアリ』簡単でしょう?」

「ああ。分かりやすくて助かる」


 互いの同意が得られたところでフィナは後ろに跳んで距離をとった。腰の剣を抜き放って先端に魔力を込める。ギルはそれを眺めながら片手で剣を構えた。


「先に行かせてもらうわ! 《エアスラッシュ》!」


 剣で空を三度斬りつける。そこに生じた見えない斬撃がギルに向かって直進する。フィナはその斬撃の後ろに速度を合わせて突進を開始した。


 おそらくこの斬撃を避けた場合、バランスを崩したところにフィナ自身が追撃を仕掛ける。もしくは避けなかった場合だが、それは単にそのまま突っ込んで追撃するつもりなのだろう。


 普通なら自分で生み出した斬撃であろうともそれに速度を合わせる事自体が不可能だろう。しかしフィナはそれをやってのけた。常人ならざる力をその身に宿し、それを現に証明している。


 あまりの早業に観客席の生徒たちは彼女の残像しか捉えられていない。だが、ギルは違った。瞳の焦点は彼女を正確に捉えている。


 遅い……。


 ギルは心の中で唸る。ある意味では予想通りではあるが、また、ある意味では予想外れだった。


 もし彼女が勇者の子孫であるならば、人間離れしたこの速さで納得できる。しかしギルはどこかで神聖魔法を行使される可能性を考えていたために人間としては有り得ない程度の速度に落胆していた。


 フィナはギルの考えに気づくはずもなく突進を続行する。


 二人の距離は急速に縮まり、闘技場の砂の上に鮮血が染みを作った。血を流したのはギルだった。胴体に三本の亀裂と激痛が走る。最後の斬撃を受けたその瞬間、斬撃の後ろに控えたフィナが到着する刹那に彼は魔法を発動する。


 《ハイリペアー》


 傷を負ったはずの身体から強制的に血が止まり、傷口が塞がった。彼女はこれを見て驚きの表情を隠せずにいたが振るった剣を止めようとはしなかった。


 ギルは左からの剣撃をコールドブレイドで受けた。氷の剣は刃毀れも折れることもせずにその重い一撃を払いのけた。体勢を崩した彼女は再び後ろに跳躍し、距離を取る。顔には明らかに動揺が現れている。


「む、無茶するわね。一瞬でも回復が遅れていたら心臓に届いてたわ」

「手を抜いた攻撃を避ける必要はないだろ?」


 彼女は顔だけではなく全身が凍ったように固まった。


「見抜いていたのね」

「当たり前だ。そもそもこの程度ならば我は死んでおらぬわ」

「……?」


 後半は口に出す前に喉元で飲み込んだ。魔王の頃を思い出して愚痴が出そうになってしまった。


「確かに、あなたの実力を計るには少々力不足だったみたいね」


 今度はギルも剣を持つ手に力を入れる。彼女は少し腰を落として足に力を込めている。


「全力で行かせてもらうわ。死んだら……ごめんなさい」


 彼女の姿が霞む。ギルは少しばかり口に笑みを浮かべる。


 そうだ、我はこの体での限界を知りたい……! 学園最強か。確かめるにこれ以上の者はおるまい。


 彼は間髪をいれず魔法を発動する。


 《パーセプションフィールド》


 右後ろに物凄い速さで近づく反応があった。目で捉えるよりも先に身体を動かす。


 ギルは身体を捻らせ、それも勢いに変えて剣を突き出した。無理な体勢からの一撃だが、相手も簡単に止まれるような速度ではない。


 剣を突き出した瞬間、ギルの右腕が弾かれた。がら空きになった脇腹にフィナの二撃目が迫る。


 《シングルポイント・プロテクション》


 魔法の障壁が相手の太刀筋をずらし、必殺の斬撃を空振りに終わらせた。


 二人は体勢を戻し、剣撃を五合、六合と重ねていく。互いに引かず、フィナが打ち込み、ギルがそれを流す。それが十合に達した時、変化が訪れた。


 ピシリ……。彼の創った氷の剣に亀裂が入った。彼女はこれを見逃さず、次の一撃にさらに力を込める。


「これで終わりっ!!」


 上段から全力で剣を振り下ろした。しかし、標的であるギルの姿はそこにはなかった。彼女の目が見開かれ、背後に悪寒が走る。


 フィナが振り返るとそこにはヒビの入った剣をぶらりと下げたギルが立っていた。彼はそれを投げ捨てると今度は右の掌に赤い魔法陣が浮かび上がる。そこから現れたのは炎を纏いし魔剣。


 《クリエイションマジック・フレイムブレイド》


 彼はそれを手にとって余裕にも見える笑みを見せた。それを見た彼女の瞳の奥底にある炎にも似た煌めきが僅かに揺らいだ。


 ギルはそれに気づかず、炎の切っ先を彼女に向けて高らかに告げる。


「さて、反撃開始と行くぞっ」

中途半端だっただろうか、これでよかったのだろうか、文章はどうなのか、などなどたくさんの疑問を持っております。

読者の皆様の感想でいろいろ言っていただければ嬉し泣きします。


《ウィンドスラッシュ》→《エアスラッシュ》に改変しました。 10月29日

2回間違えて直しました。すいません。

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