魔法学園 1
ギルのエンジョイ(無双)学園生活が始まる!! のか・・・?
リドルヘイム魔法学園、歴史は古く起源は五世紀半も昔とされる。
伝説の魔法使いリベート・シドゥ・リドルヘイム。若くして十五位階を習得した天才として語り継がれている彼が競う者のいない事を嘆いて世界中から名の知れた魔法使いたちを呼び集め、老若男女問わず魔法に秀でた者を発掘するために建てたのがここ、リドルヘイム魔法学園である。
贅沢な悩み事だな……
はぁ、と大きく息を漏らしながら、ロロ・ビルミスは項垂れる。彼もまたリドルヘイム魔法学園に通う生徒の一人だった。しかし、彼からしてみれば入ってしまった、という方が正しい。
エッゾ村という田舎で育った頃は魔法の才能で彼の右に出るものはおらず調子に乗って学園の試験を受けたところ、本当に受かってしまったのだ。さらに気を良くした彼は特に何かの修練を積むわけでもなく、自堕落な生活を続けてしまい、半年経って気がつけば下の中という成績になっていたのである。これがその理由だ。
さすがに危機感を募らせた彼は必死になって上位に存在する者たちとの差を埋めようとしたが、優秀な者を集めた魔法学園というだけあってなかなか思うようには進まなかった。
よってやる気も沈み、成績も沈みで今のような重い足取りを余儀なくされているのである。
ただもう一つ付け足すならこの学園で一番になることだけは絶対に不可能だと思わされた。というのも事実である。
「おい見ろよ、姫様だぜ」
「今日も美しいですわぁ」
「お前、話しかけてこいよ」
ロロは前方の集団にうんざりしながらため息をはいた。その中心に確実に一番になれない理由が存在するのだ。
学園創設以来の天才、生きていればかの魔法使いリベート・シドゥ・リドルヘイムと肩を並べたであろう人物。そして、魔王を討ち倒した勇者たちの子孫と噂されている。
フィナ・フィルオート、齢十六にして十一位階までの魔法を駆使することの出来る怪物。魔法もさることながら剣術もそれに劣らぬ腕があるとか。生きる伝説、神童、女神、神姫とまで呼ばれ、他の追随を許さず、誰も近寄ることさえ出来なかった。
人垣の中に揺らめく金色の長髪を見た。やっぱりな、と思い一層肩を落として歩いていると突然背後から声をかけられた。
「あの人だかりの中に誰か居るのか?」
驚いて振り返ると、黒髪の少年が立っていた。面識はないが、同じ制服を着ているということは学園の生徒なのだろう。
一応聞き間違いではないか確認するため周りを見てからに自分を指差す。
「オレか?」
彼はうんうんと頷いた。教えたところ別にどうとなるわけでもないだろう。サラッと言って終わりだ。
「お姫様だよ」
「姫? どこかの国の王の娘なのか?」
「違う違う。ほら、お姫様は愛称でって……え? 知らないのか、フィナ・フィルオートを?」
「ああ。聞いたことがないな。姫じゃないのに姫と呼ばれてるのか?」
「いや、そう呼ばれているのは姫みたいに美しいからだろ」
「む? その言い方だと美しくない姫は姫ではなくなるのではないか?」
「……それはあくまで例えであってだな…………」
「ふむ、やはり人間というのは変わっておるな」
次々に繰り出される質問攻めにロロの頭がショートを起こす一歩手前で、ある重要なことに気づいた。
「待て! 待て待て待て、今、知らないと言わなかったか!? フィナ・フィルオートをっ!!」
「言ったが、知らないとまずいのか?」
大声を出しすぎたために何人かの生徒がこちらを向いたが、本人には聞こえていなかったようでホッとため息を吐きながら声を潜める。
信じられないようなものを見る目で目の前の少年を見つめる。これといって特に特徴はなく、黒い瞳に黒い髪、自分と同じ制服に……と、ここで制服が妙に新しいことに気づいた。どこかにあっていいようなシワなどが見受けられないのだ。まるで今日初めて着ているかのようだった。
「…………もしかして、編入生ってお前か?」
「よく分かったな」
少年は少し驚いた顔を見せたが一瞬で元に戻った。ロロは納得する。確かに外から来た者であれば知らなくても無理はない。しかし自分の通う学園の噂くらい耳にしないものなのだろうか、とも思う。
実際彼が入学する前には『今年は一年生に怪物がいる』と流れていた。それがフィナ・フィルオートだと理解するまで時間はかからなかった。
ロロは自分の知っている限りの事を少年に教えた。同じ年齢だとか魔法はどこまで使えてどれくらい強いのか、学園での順位は彼女が一番とか、実は勇者たちの娘という噂があると言ったところで少年の目つきが変わった。
「ほぅ……?」
少年の眼光が増すにつれてロロの血の気は減っていった。何かとんでもない過ちを犯してしまったような気がするのだ。
「勇者の娘……かもしれない者があそこにいるのだな?」
少年が指差した人だかりを見て冷や汗を流しながら無言で頷いた。彼はそれを確認するとその人だかりのに向かって一直線に歩いていった。
ロロは無言でしか見送ることができず、これから起こることが悪いことでないことを祈った。
☆
羨望、嫉妬、好意、敵意、憧憬、色欲……好奇の目に晒されながらも、何食わぬ顔でフィナは学園へと向かう。端正な顔立ちに金色の髪、少し控えめな胸ではあるがむしろその方がプロポーションは整って見える。
周囲に壁を作っている生徒からは聞こえてくる声は彼女からすれば木々のざわめき程度にしか聞こえない。いや、聞かないようにしている。入学当時は多少気になっていたものの最近はもう慣れてしまった。
フィナは目を見開いて足を止める。木のざわめきが一層大きくなるが彼女には聞こえない。
殺気を感じた。普段でもたまに向けられることはあるがここまで明確なものは初めてのことだった。
振り返ってその送り主を視界に捉える。黒髪の少年が有象無象をかき分けて近づいてきていた。人壁を越え、それでもなお足を止めることはない。口に薄ら笑いを浮かべ、真っ直ぐに彼女を見つめている。
「初めて見る顔のはずだけど、もし間違ってたらごめんなさい」
フィナから口を開いて反応を待つ。
「間違ってなどおらん。初対面だとも」
少年から黒いオーラのようなものが立ち上った。彼女は目を見開いたがそれはすぐに消え、錯覚だと気づいた。
「われ…………俺から名乗らせてもらおう。名前はギル、年は十六だ。仲良くしてくれ」
笑顔で右手が差し出される。今はもう殺気は消えており、このギルと名乗る少年が本当に発したものかどうか疑ってしまうくらいだった。
「わたしはフィナ・フィルオート。あなたと同じ十六よ。よろしく」
彼女も遅れながらに答え、握手を交わした。
「………は…似……んな……」
「えっ?」
「何でもない。ただの独り言だ」
もう一度聞き返したがギルは答えなかった。彼女はため息を吐いて本題を切り出す。
「……ところで急に話しかけてくるなんて用件はなに?」
待ってましたと言わんばかりに彼の口元が歪む。
「いやなに、わ……コホン。俺は今日この学園に編入したばかりだからな。ここの一番とやらの強さが知りたかったんだよ」
「何が言いたいの?」
ギルのわざとらしい言い回しに彼女は眉を顰めた。
「単刀直入に言おう。フィナ、君に決闘を申し込む」
木々のざわめきは最高潮に達し、彼女の耳にも雑音として聞こえてくる。
「少し周りが邪魔だったか……。ところで返事だが――」
「いいわ。受けて立ちましょう!」
いつもと違った荒々しい口調に周囲は静まり返った。一人、また一人と人だかりが減っていく。我先にと学園に向かって走りだしたのだ。
お姫様に挑戦者現る。
リビートハルク修道院から推薦された編入生の実力は!?
生きる伝説に挑む伝説級の馬鹿。
彼らにとっては恰好のネタだったのだろう。朝から決闘の話で学園中持ちきりだった。中には賭け事として商売を始めるものさえ出てくる始末だった。
あの後の話し合いで決闘は二日後、競技場で行われることとなった。この時の彼女は良く言えば心に余裕があった、悪く言うならば油断をしていた、と思い知らされることになる。
☆
学園のクラスは全部で五つ。学年は一から三回生まであるので全部で十五クラスある。それぞれの生徒平均数は三十五人なので全生徒は五百人弱といったところ。
決闘を明日に控え、ギルは自分のクラスの教室で熱心に教科書とにらめっこをしていた。
特に面白いのは歴史の教科書で、魔界にはなかった知識、人間同士の戦争や国の成り立ちなどが彼を刺激する。教室には他のクラスや学年も違う生徒がドアや窓を埋め尽くしてギルに視線を注ぐが、彼からしてみればどこ吹く風である。
本を読む以外に行動するわけでもなく、これといって特徴の無い彼を眺める作業に飽きた者たちは次々に帰っていった。
「ありゃ勝てないな」
「本を読む以外にすることねーのかよ、鍛錬とかさ」
「いや、それは俺たちを欺くためであって本当はとんでもない力を……」
面白味に欠けると憶測でそれを補おうとする。それが噂となって学園に広がっていった。
彼らの中のギルが上がったり下がったり、強くなったり弱くなったりしているうちに決闘の日を迎えた。
あれ? イレンがいない……?
そのうち出てきます。
握手の辺り一行くらい改変しました。もう読んでもらった方には申し訳ないです。
10月24日