表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生魔王の世界侵略  作者: 日元ひかげ
魔王、人間社会を勉強する
11/13

魔法学園 5

短いよっ! どんどん短くなってる気がする! でも次は多分長くなるよ!!

 決闘が終わってからというもの、ギルの活躍を見ていた学園の生徒からは幾度となく礼や賛辞を掛けられた。


「お前ってすごいやつだったんだな!」

「あのお姫様に勝っちゃうなんて!」


 これらはまだマシな方だった。自分に対する評価なのだから悪い気は起こらない。しかし次の言葉は確実にギルの精神を削りとっていった。彼からしてみれば邪魔者を始末しただけであるが、周囲は違う目線で捉えていたらしい。


「助けてくれてありがとう」


 これである。今は自室に戻り、周囲の声は聞こえないが残響が耳に残っている。


 死罪モノだ……人間を助けたとあってはあ奴らに顔向け出来ぬ。


 この言葉を浴びせられる度に頭を抱えてきた。そこに追い打ちをかけるかのごとくリベート国王からの手紙が届いた。イレンが読み上げた内容を要約すると『まず最初に我が国民、ひいては将来の優秀な魔法使いになるであろう子どもたちを救ってくれたことを感謝する。後日我が城で君に勲章を授与したいのだが、来てくれるかね?』とのことだった。


 我は魔王だぞ!? 人間からの勲章など笑い話にもならんわ!


「ね、ねぇ……お、おおおお城への招待状が五枚入ってるんだけど…………?」

「ああ、うむ」


 震える声のイレンに対し無意識に返事を返すと再び思考の海へと飛び込んでいく。


 しかしだ。ここで断ったらどうなる? それこそ不敬罪で処罰などされるのか? 易々と死ぬつもりはないが、この国では王と呼ばれる者はいくらでも代えが利くらしい。殺すのはあまり賢いとは言えぬな。全力で動くにも制限が……


「ドレスとか着ていくのかな? ギルは何色が似合うと思う?」

「ああ、白」

「分かった! ルイーゼ院長に掛け合ってみるわ。あ、アンタの正装もついでに頼んどいてあげる」

「ああ、頼む」


 無意識にしていた空返事により、本人の知らないところで着々と準備が進んでいく。


 いや、人間を学ぶにはいい機会なのかもしれぬ。国王とやらがどのように振る舞うかを見せてもらうとしよう。


 ギルはソファーから勢いよく立ち上がるとイレンに顔を向けた。


「……よし! そうと決まったら、イレン! 頼みたいことがあるのだが」

「もう頼んだわ!」

「え!? ……は、早いな」


 まさかまた心を読んだのではないだろうな?


 空返事のことを知る由もない彼のこの反応は当然のものである。


「ア、アレ? 普通にしゃべってる……」

「普通に話しちゃまずいことでもあるのか?」

「だって、アンタ今まで何聞いても上の空だったし、あの女になんか弱みでも握られたのかと思って…………別に心配してたわけじゃないけどっ!」


 あの女とはフィナのことだろうなと想像しながら、頬を膨らませるイレンに少し笑いながら言葉を返した。


「……心配をかけたな」


 ボンッと何かが弾けたような音を立てて顔が赤く染まっていく。


「心配なんてしてないーって言ってるでしょー!」


 彼女の手元にあった分厚い本がギルに向かって飛んでいく。彼は容易くそれを掴んだ。イレンはそれを見てムーッとしたふくれっ面だったが、しばらくすると何かを思い出したようにニヤリと笑みを零した。


「ギルゥ、今日の夕飯何だと思う?」

「なっ! いやっ、それは……卑怯だぞ」


 イレンの笑みが勝利を確信し、勝ち誇ったものへと変わる。


「シチューなんだけどなー。どーしよっかなー?」


 ギルに背中を向けては時折チラチラと様子を伺っている。


 彼は両手を上げてヒラヒラと振った。ついでにため息も吐く。


「悪かったよ。意地悪言って」

「フフン、よろしい。じゃあ今から作るわね」


 機嫌よく鼻歌交じりにキッチンへと向かうイレンを尻目にギルは誰にも聞こえないくらい小さな声で呟いた。


「俺、魔王だよな……?」





 その噂が広がったのは決闘の日の事件から一週間、学園の臨時休校が明けてからだった。噂の内容をまとめると『夕方過ぎに学園に一人でいるとゴーストが出るらしい』というものだ。ゴーストとは本来ならば物理攻撃の効きにくい厄介な敵であるが、実際に攻撃を受けた生徒がいないとなると、どうやらそうではないらしい。


 真相を確かめるために噂を流した本人に直接尋ねたこともあるが、当時の記憶がどうも曖昧でハッキリとした回答は得られなかった。おまけに日数が経つに連れ『この学園には記憶を操るゴーストがいる』と恐怖心を煽るようなものに変化していった。


「……まずいわね」


 フィナ・フィルオートは一人呟く。人のいない廊下を歩きながら細い指の上に顎を乗せている。時刻は昼。午前の授業が終わり、今は昼食や休憩のために少し長く時間が設けられている。


 ふと、顔を上げると彼女の前方が少し騒がしくなってきた。それは次第に大きな雑音となり身体を包む。


 廊下の角を曲がって雑音の音量は最大になる。人垣が教室の入り口を塞いていた。


「ちょっと、通してもらえる?」

「あぁ? ……うぉおっ!?」


 のけぞった男子生徒を中心に人垣が左右に分かれていった。


「ありがとう」


 短く礼を言うとその間を進んで行き、とある人物の前で止まった。周りから視線が殺到する中、彼女は気にする素振りも見せずに口を開いた。


「少し、時間空いてるかしら?」

「ん?」


 声をかけられた黒髪の少年、ギルは開いている本から目線を変えることなく返事をした。一瞬だけフィナの顔に目をやると「なんだお前か」とでも言いたげに再び視線を本に戻した。


「ここじゃ駄目か?」

「ええ、場所を変えたいところだけど。……あなたがどうしてもと言うのならここで話すわ」


 するとギルは本をパタンと閉じて席を立ち上がった。


「調度良かった、場所を変えよう。俺も聞きたい事があるんだ」




 人のいない場所、といえばこの学園にいくつかあるが彼女が選んだのは時計塔の中だった。石造りの壁のために外と比べると少しひんやりしていた。天井に設置してある歯車が規則的に動いて金属音を響かせている。他に人はおらず、フィナとギルの二人だけだ。


 先に口を開いたのはフィナの方だった。


「あなたはゴーストの噂を聞いたことがあるかしら?」

「ゴースト?」


 眉を潜める顔を見て知らないと察した彼女は噂の事を一通り説明した。話し終えた時、彼は何故自分にこの話が回ってきたかを理解した。


「つまり、俺に囮になってこの事件の真相を暴いて欲しいってことか?」


 彼女は首を横に降った。


「違う。囮になるのはわたし。あなたにはそのゴーストが出てきた場合に備えてほしいの。本来なら学園に頼まれたわたしが一人でやらないといけないのだけど、相手は十位階ランクテン以上を使用できる可能性があるから」

「……いいだろう。その依頼、受けてやる。ただし、条件というか俺も手伝ってもらいたい事が一つある!」

「一応危険な事に付き合わせているのだから、わたしに出来ることならなんでもするわ!」

「二言は無いな?」

「ええ、神の名に誓って……」


 フィナは自分よりも強い彼ほどの人物が助けを必要とするのだから、相当な困難が待ち受けているものと覚悟した。


 ギルは決意のこもった視線を受け止め、満足そうに頷いた。


「おれ……俺たちに礼儀を教えてくれないか?」

「えっ?」


 素っ頓狂な声が塔の中に響いた。


「礼儀……?」

「実はこの前、俺のとこに国王からの手紙が届いたんだよ」

「ああ、そのこと――」


 わたしにも来たわよ、と続けようとして言葉を切った。


「『俺たち』?」

「ん、言ってなかったか? イレンって娘と住んでてさ、国王に一緒に会いに行くのはいいんだけど俺たち二人とも礼儀とか作法とか知らないから……」

「へ、へぇ……」


 ギルは彼女の声に冷ややかなものが混じったように感じた。


「……分かったわ。それじゃ、夕方にまたここで会いましょう」

「お、おう、助かる……」


 ギルが全部言う前に彼女は時計塔から去って行った。


 一人になった時計塔でボツりと呟く。


「俺、なんか悪いこと言ったか……?」

ギルの魔王口調ってある意味ステータスだと思えるようになって本当は2話3話で消そうか迷ってたんですが心の声として出してます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ