再び、不思議な空間で
解散になったあと、魔法学院を出て、街を歩く。
さて、これからどうしよう?
とりあえず、街をぶらぶらしながらラクロさんの迎えを待てばいいのかな?
あ、でも、ツアーは一週間だって知ってる筈だし、街の門に行けば、既にラクロさんがいたりとかするのかな?
そんな事を考えながら大通りを進んでいると、ふいに突然、目の前の景色ががらりと変わった。
「えっ!?」
驚いて慌てて周囲を見渡せば、そこは白いふわふわした何かが広がる地面と、澄み渡った青空のような空が続く、どこかで。
……うん……見覚えがある景色だね。
ちょうど、一週間くらい前に見たね、ここ。
「こんにちは華原さん。一週間お疲れ様でした。魔法学院は如何でしたか?」
覚えのある場所であった事に落ち着きを取り戻した直後、上から聞こえてきたその声は、やはり一週間前、ここで聞いた彼の声だった。
「こんにちは、ラクロさん。結構楽しかったですよ。魔法なんて、今まで無縁の力でしたから、新鮮でした」
「そうですか、それは良かった。では、新たな生活の地は、魔法大国になさいますか?」
「あっ、いえ、それは……。……もうちょっと、考えてもいいですか? とりあえず、えっと、ネオスティア王国、でしたよね? そこにも、行ってみようかと思います」
「おや……それは、どうしてです? 決め手に欠けたのは、何が原因ですか?」
ラクロさんは地面に降り立つと、小さく首を傾げて、返事を延ばした私に問いかけてきた。
「原因……って、いうか。……魔法を使うのは楽しかったんですけど、私、魔法使いになりたいのかなって考えたら、何か、違うような気がして。……とは言っても、何になりたいかなんて思いつかないんですけど。あっ、でも、せっかくファンタジー世界で生きる事になるなら、やっぱりファンタジー要素のあるものになりたいな、とは、思うんです! ば、漠然とした意見で、申し訳ないんですけど……」
「……なるほど」
話ながら、段々視線を下にずらしていく私に、それでも真っ直ぐに私を見てくれていたラクロさんは短く答えると顎に手を当て目を閉じて、何かを考えるような仕草を見せた。
私はそんなラクロさんの次の言葉を待って、沈黙する。
その場は、しばらく静寂に満ちた空間になったが、やがて、ラクロさんは再び目を開け、その視線を私に戻した。
「わかりました。では、ネオスティア王国では、貴女の言うファンタジー要素のある職種の所に体験に行きましょうか。その中に、貴女のやりたいものがあれば良いのですが。まあ、もしそれが見つからなくても、また別の方法を考えますから、焦る事はありませんよ、華原さん。貴女が悔いのない生を送れるよう、しっかり協力致しますから」
「あ……ありがとうございます! あ、でもちなみに、そのファンタジー要素のある職種って、どんなのですか……?」
「ああ……そうですね。騎士に冒険者、トレジャーハンターに吟遊詩人に旅芸人、ギルド職員に、錬金術士……などでしょうか」
「な、なるほど。……えっと、でも、初めの三つは、除外していいです。戦いの日々は送りたくないし、宝を探してさまよう生活も、ちょっと遠慮したいので……」
「そうですか、わかりました。では、吟遊詩人から……そうですね、引退し、後進を育てている者の所に紛れ込みましょうか」
「あ、はい、わかりました」
「それでは華原さん。目を閉じて下さい。ネオスティア王国へお送り致します」
「はい」
言われた通りに目を閉じると、以前も感じた心地いい浮遊感が、また私を包んだ。
まずは、吟遊詩人の弟子から、か。
歌は好きだけど、どんな生活になるのかな。
ネオスティア王国がどんな国なのかも、楽しみだし。
そんな、どこかワクワクした私の思考は、体と共に、光の中へと消えていった。