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魔法学院体験ツアー 2

『ラクロさんへ。

今日一日で聞きたい事と言いたい事がいくつか出てきましたが、まずはこんばんは。

無事に魔法学院での一日を終えました。

が、まずひとつ目。

魔法学院での体験ツアーに参加させるなら、送り出す前にそう言っておいて欲しかったです。

今後はこういった事後報告はやめて下さいね。学院の迎えの人が来たとき、意味がわからなくて本当に混乱したんですから。

次に二つ目。

鏡に映る私の姿は日本にいた時のままでしたが、子供の姿になるんじゃなかったんですか?

それとも、私の目にはそのままでも、他の人には子供に見えているんでしょうか?

あ、でも学院の人が、"成人してて"って言っていたから、そんな事もありませんよね?

どういう事なんでしょう?

最後に、三つ目。

魔力数値を測ったところ、私の魔力は1でした。

なので、魔法が生活の一部になっている魔法大国に住むのは無理かと思います。

一週間も待たず、結論が出てしまいました。

それでも、実技はともかく、魔法についての講義とかは興味があるので、体験ツアーには最後まで参加しようとは思いますが。クレハ』


 魔法学院での一日を終えて、女子寮の一室に案内されそこを使わせて貰う事になった私は、日記を書くフリをして同室になった子の目を誤魔化し、早速ラクロさんに手紙を書いた。

 その返事がきたのは、夕食後、寮の庭を一人で散歩し、周りに人がいなくなった、その瞬間だった。

 突然目の前に白く柔らかな光が出現し、その中に手紙が浮いていたのだ。

 手紙を手に取ると光は消え、私はその場で封を切った。


『こんばんは、カハラさん。

学院での一日、お疲れ様でした。

少しでもお楽しみ戴けたのなら良いのですが。

体験ツアー参加については、何も知らせなかった事で混乱を招いたようで、申し訳ございませんでした。

手元の資料とあの場での貴女との会話から、貴女ならばそれでも理解し対応できると判断してしまった私の落ち度です、本当に申し訳ございません。

つい、貴女に私の同僚や後進達と同じ対応をしてしまいました。

永く、それ以外との交流をしていなかった弊害のようです、以後気をつけます。

二つ目についてですが、貴女の新しい体はこれから作成する為、今はまだ貴女の姿は以前のままに見えるのですよ。

本来の貴女の体は日本にあり、既に火葬されていますが、以前の貴女の姿そのままになら、短い期間であれば私の魔法で存在させる事は可能ですからね。

その世界では、私は天使ではなく守護神という存在ですから、それくらいは容易い事というわけです。

最後の三つ目ですが。

日本、というか地球には、魔法というものがなかったでしょう?

その為、必要のない魔力は皆低いのですよ。

貴女の姿が日本にいた時のままなのですから、能力もまた然り、という事です。

けれど新しい体はその世界に順応するように作りますから、魔力もそれなりにありますよ。

貴女が望むなら、類い稀なる魔力をつけて差し上げる事も可能です。

なので魔法大国が気に入ったのであれば住む事は大いに可能ですから、学院での体験ツアーにてしっかり魔法を学ぶ事をお勧め致します。

もし魔法大国に住まなかったとしても、魔法のあるその世界では、そこで学んだ事は決して無駄にはなりませんから。ラクロ』


 手紙を読み終わると、私はそれを小さく折り畳み、ポケットにしまった。

 そして空を見上げ、手紙にあった内容を反芻する。

 私の本来の体は、既に火葬。

 以前の私の姿そのままに、魔法で存在。

 新しい体はこれから作り、それはこの世界に順応するもの……。

 ……つまり今の私は体をもたず、魂だけのような存在で、それをラクロさんの魔法で体をもっているように見せている、という事か。


「本当に……私、死んだんだなぁ……」


 あの場で既に聞かされていたそれを、今更ながらにぼそりと呟く。

 こうして改めて事実を突きつけられると、胸に何とも言えないもの悲しい思いが沸き上がってくる。


「……私自身は変わらずこうして動いて、喋ってるのにね」


 私は下を向いて右手を見つめ、それを少しだけ上げて、握ったり、開いたりを繰り返す。

 これが本当は体がなくて、魂だけの存在だなんて意味がわからない。

 日本で生きていた時と何も変わらないように、見えるのに。

 視界が滲み、頬を冷たい滴がつたった。

 口に両手を当てて、声を押し殺す。


「そこの生徒! そろそろ消灯ですよ、部屋に戻りなさい!」


 しばらくして寮監の先生らしき人にそう声をかけられるまで、私は静かに泣き続けた。

 ……泣くのはこれで、最後にしなくちゃ。

 もうすぐ新しい体を貰って、新しい生を生きるんだから。

 いつまでも後ろを振り返るより、胸にしまって前を向いて生きなくちゃ。

 涙を拭くと、そう自分に言い聞かせながら、私は寮の部屋へと、歩いて行った。

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