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魔法学院体験ツアー 1

 足が地面に付く感覚がして目を開けると、目の前には石造りの立派な門があった。

 すぐ側を人や馬車が忙しなく行き交っている。

 門を出入りする人の手には箒があり、空を飛んでいる人達が一度降りてきて、歩いて門を潜っていく事から、街への出入りにはこの門を通る事が必須条件になっているのだろうと思う。

 さて、それじゃ私も、門を潜ろうかな。

 そのあとは街の見学をして……あ、その前に、一週間寝泊まりする為の宿を決めておいたほうがいいかな。

 暗くなってきてから宿屋へ行って、もし満室だとか言われて他の宿屋を探し回る羽目になるのは避けたいし。

 ここがファンタジー世界だという事を考えると、泊まるのはやっぱり、大通りかそれに近い場所の宿屋がいいよね?

 裏通りなんかにある宿だと、防犯とかの面でなんとなく不安だし……偏見かもしれないけど。

 大通りに面してると、宿泊代も高いかもしれないけど、お金より安全性を取ったほうが…………。

 そこまで考えると、私は門へ向けて歩いていた足をピタリと止めた。

 思い至った重大な問題に、顔から血の気が引いていくのがわかる。

 私は、この世界のお金を、持っていない。


「ど……どどど、どうしよう……!? ……あっ、そうだ! ラクロさんに手紙で知らせたら、どうにかならないかな……!?」


 私は慌てて肩から下げていた鞄に手を突っ込んだ。

 すると、次の瞬間。


「ああ、そこにおいででしたか、良かった。さぁさぁ、お早く門をお通りになって下さい、クレハ・カハラさん。もう集合時間は過ぎていますよ?」

「……えっ?」


 前方からそんな声が聞こえ、突然腕を掴まれた。

 驚いて顔を上げると、空色の髪に深い蒼の瞳をした男性が立っていて、くるりと背を向けると、私の腕を掴んだまま門へ向かって歩き出した。


「わっ!?」


 掴まれた腕のせいで私は男性に引っ張られ、バランスを崩して転びそうになったのを慌てて足を前に出す事で堪え、そのまま男性に半ば引き摺られるようにして門へと向かう。


「あ、あああのっ、貴方、どなたですか……!? 集合時間って、何!?」


 この人は私を、"クレハ・カハラさん"と呼んだ。

それは間違いなく私の名前だけれど……どうして私の名前を、知っているんだろう?

 ここは異世界で、当然、私とこの人は初対面な筈だ。

 なのに私の名前を知っているとか、訳がわからない。


「はい? ……ああ、失礼を致しました。私は王立魔法学院の者です。集合時間を過ぎても集合場所にいらっしゃらない貴女を迎えに来たのです。他の皆さんはもうお集まりになられていますよ。急ぎましょう」

「……王立魔法学院……?」


 それって、あの球体に映し出されてたあの学校のような建物の事だろうか?

 そういえば、色こそ違えど、この人が着てる服はあそこに出入りしてた人達が着てた服に似てる気がする。

 ……でも、何でそこの人が私を迎えに来るんだろう?

 集合時間や、集合場所って、何の事?

 頭の中を疑問でいっぱいにしながら、私は男性に引っ張られるままに、魔法大国の街の中へと、足を進めていった。


★  ☆  ★  ☆  ★


 辿り着いたのは、やっぱりあの球体で見た建物だった。

 その門の前には、通りすぎて行く人波の他に、一角に集まって手持ちぶさたな様子で佇んでいる人達がいた。

 男性は迷うことなくその人達へと向かって歩いて行く。


「皆さん、お待たせ致しました。これで全員が揃いました。では、改めて。この度は我が王立魔法学院の、無料体験ツアーにお申し込み戴き、誠にありがとうございます。魔法の授業や学院での生活の仕方を心行くまで見学なさって、結果更なる興味を覚えましたなら、是非、来年は我が学院の生徒となられます事を、心よりお待ち致しております」

「へ……っ?」


 門の前に集まっている人達のすぐ近くまで進み出ると、男性はにこやかな笑顔を浮かべ、そんな言葉を口にして、軽く頭を下げた。

 その様を最後まで見て、私は呆然とした表情を浮かべて小さく疑問の声を上げる。

 む、無料体験ツアー?

 お申し込み戴き……って、申し込んだ覚え、ないんですけど?


「それではいよいよ、学院内へご案内致します。どうぞ一週間、学院での生活をお楽しみ下さい」

「! 一週間……!」


 続いて男性が放った"一週間"という言葉に、私はピクリと反応し、それを復唱した。

 ラクロさんは確か、一週間したら様子を見に来ると言っていた。

 そして、この体験ツアーの期間も、一週間。

 それは、つまり。


「あ、あのぅ……ちょっと、聞いてもいいでしょうか? わ、私の申し込みって、その、申し込んだ人の名前を、聞きたいんですけど……?」

「はい? ……ええと、クレハ・カハラさんのお申し込みは、確か代理で、ラクロさんという方がされたと聞いています。お兄さんだという事でしたが、何か……?」

「あっ、いえ! そう、そうでした! すみません、変な事聞いちゃって!」

「? いえ……?」


 怪訝そうに首を傾げる男性に、私はあははと笑って曖昧に誤魔化す。

 ……思った通り、これはラクロさんがやった事らしい。

 まあ、この体験ツアーは無料らしいし、この世界のお金を持っていない私にはちょうどいいイベントなのかもしれないけど……こういう事後報告的な事はやめてもらえるよう、あとで手紙で抗議しよう……。

 ……でも、まあ、それはそれとして。

 魔法学院体験っていうのは楽しそうだし、ここでの一週間、有意義に過ごせそう!

 もし魔法大国に住むんなら、魔法を使える事は必須条件だろうし、まずその魔法について学ぶ事は、移住を考えるにはちょうどいいよね。


★  ☆  ★  ☆  ★


 魔法には、種類があるらしい。

 攻撃魔法、支援魔法、回復魔法、召喚魔法。

 攻撃魔法は、火や水、風や地、光や闇など、自然界の元素ともいうべき力を魔力を使って発現させ、攻撃する魔法らしい。

 支援魔法は、身体能力の上昇や下降、魔法による防御など、対象者を援護する魔法らしい。

 回復魔法は、その名の通り体力の回復や、怪我を治す魔法らしい。

 但し、病気の治療はこれに含まれないらしい。

 召喚魔法は、野にいる精霊や魔獣と契約して、必要に応じて召喚し使役する魔法らしい。

 全て"らしい"がつくのは、学院内を案内しながら男性が説明してくれるのを聞いたものだからだ。

 そういえば、案内されている途中で、鏡の前を横切った。

 そこに映っていた私の姿は、今までの、事故に遭う前の私と全く同じものだった。

 子供の姿になると、ラクロさんは言っていたのに……どういう事なのか、これもあとで手紙で聞かなきゃならない。

 魔法学院は三階建てで、一階に教員室と食堂、男女に別れた寮がある。

 寮は希望制で、他の街など遠方から通う生徒の為のものらしい。

 男子寮と女子寮の間には教員室があるので、忍び込んでいかがわしい行為に及ぼうとする生徒の大いなる障害と抑制になっているそうだ。

 二階には各魔法についての理論や知識を学ぶ為の教室が四つと大きな図書室がある。

 三階には三つの実技演習室がある。

 ここで実際の魔法を学ぶらしい。

 私達は今、その中の一室にいる。


「それでは、明日からの本格的な体験に備えて、まず、皆さんが有している魔力量を測ってみようと思います。己の魔力量の把握は魔法を使う上で重要な事となりますので、測った数値はきちんと覚えておいて下さいね。では、左端の方からこちらへ来て下さい」


 男性がそう言うと、端の人が緊張した面持ちで男性の元に歩いて行き、その前にある水晶玉に両手を乗せる。

 すると水晶玉が淡い光を放ち、その中に数字が現れた。


「ほぅ、八十ですか。一般の方にしては高いほうですね。では、次の方、どうぞ」


 男性の言葉に僅かに安堵したような笑みを浮かべ、次の人と場所を変わる。

 次々と計測を終えていく人の表情は、最初の人と同様にほっとしたような笑みを浮かべているか、周囲に自慢するようにドヤ顔をしているか、複雑そうに眉を寄せているか、しょんぼりと下を向いているかのどれかだった。

 そんな人々を横目で眺めていると、私の番がやって来た。

 私は男性の前まで進み出て、水晶玉に両手を乗せる。

 そして水晶玉が光り、私は期待を込めて見つめた。

 けれど。


「……え?」

「な……っ? こ、これは……え、成人した女性で……この数値……??」


 軽く目を見開き、凝視する私と、私以上に目を大きく見開き、呆然と呟く男性。

 水晶玉に輝く文字は、1。

 これまで計測してたどの人よりも、格段に低い。

 ……ねぇ、ラクロさん。

 私、魔法大国に移住するのは、無理そうですよ?

この魔法大国でのエピソードを魔法学院無料体験ツアーにするか、それとも有料の魔法大国周遊ツアーにするかで悩みましたが、結局こっちにしました。

ラクロにあんまり散財させると、クレハが気にしちゃいますからね(笑)

ちなみに、一週間もの魔法学院体験ツアーが無料なのについては、軽くスルーして下さると助かります。

無料で体験させて興味を引き、入学者を増やして入学金や授業料を増やす経営戦略的狙いがあるんですよ、たぶん。εεε==┏(逃;・д・)┛

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