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移住についての話し合い

 馬鹿天使の姿が完全に見えなくなると、青い髪の男性は再びくるりと私に向き直った。


「では、改めまして。私は天使のラクロと申します。貴女のご希望に従い、貴女には私の加護をつけさせて戴きます」

「あっ、はい。貴方にはすみませんが、どうか、よろしくお願いします」


 改めて名乗ってくれた青い髪の男性――ラクロさんに、私はペコリと頭を下げた。

 この人には、本当に申し訳ないとは思う。

 私を間違って死なせたのはあの馬鹿天使なのだから、その張本人の加護を断ってその代わりをこの人に願うというのは、この人にとってはとんだとばっちりだし、さっき口走っていた通り、増えた"余計な仕事"だろう。

 そういう事だと理解はしているし、罪悪感も感じるけど……それ以上に、あの馬鹿天使に自分の保護者顔をされるなんて怖くて嫌なんだ。

 ここは我が儘を押し通させて貰いたい。


「……私は構いませんよ、華原さん。そもそも、私はあの馬鹿、いえ、ルークの教育係でして、無関係ではないのですから。彼の失敗はそのまま、教育不足という事で私の責任にもなるのです。ですからどうな、お気になさらずに」

「えっ、あの馬鹿天使の教育係なんですか……!? それは……ご苦労、お察しします」


 成る程、それでこの場に一緒に来たんだね。

 うん、納得した。

 ……いくら名前が似てるからって間違えて人を死なせるような馬鹿天使の教育係かぁ……さぞかし大変だろうなぁ。

 栄養ドリンクと胃薬を差し入れしたいくらい同情するよ……持ってないけど。


「……ありがとうございます。お気持ちは、ありがたく。さて、本題に入りますが、これから貴女の生活の場となる地の候補は、三つです。ひとつは、アーバントッド」


 そう言うと、ラクロさんは一度言葉を区切り、掌を上にした状態で右手を胸の前で開き、そこにテニスボール大の大きさの透明な球体を出現させた。

 次いで軽く手首を振ると、球体は徐々に巨大化しながら私のほうへと漂ってくる。

 目の前までくる頃には、スイカ程の大きさになっていた。

 じっとその球体を見つめると、そこには高いビルと、黒い煙を吐く工場のようなものが映し出された。


「アーバントッドは地球のように、科学が発達している世界です。私が管理する世界では、一番地球に近いと言えるでしょうか。今見て戴いているのはアーバントッドで一番の大国、その王都の様子です」

「王都……。あの、なんか、薄暗いですけど、ここは今、夜なんですか?」

「いいえ。それは昼間の映像です。その世界は地球のように環境には配慮せず科学を発展させてきたので、昼間でも陽の光が厚い灰色の雲に遮られ、満足に届かないのです」

「えっ……」

「まあ、大陸から離れた小さな島国ならその限りではありませんが……アーバントッドではどの国も他の国の領土を欲し、争いを繰り広げていますから、移り住むのならやはりその大国の王都か、それに近い主要都市のほうが安全だと思われます。戦火に巻き込まれる可能性が低いですから」

「う……え、えっと……ほ、他の世界は?」


 私はやんわりと目の前の球体を押し退けてラクロさんに別の世界の説明を促した。

 するとラクロさんは別の球体を出現させる。


「次は、ハーバスタッド。こちらはファンタジー世界です。魔法があり、魔王がいます」

「へえ、ファンタジーですか……!」


 ファンタジー世界、という言葉に少し胸を踊らせ、球体を覗き込む。

 すると、そこには…………。

 ……うん……ボロボロの服を着た上に足に鉄球を嵌められて、疲れた表情で働いている人達がいるね?

 その横では牛のような顔をした白い肌の筋肉質な人が斧を持って仁王立ちしているよ。

 な、何かなぁ、これ?


「ご覧戴いているのはハーバスタッド一番の大国の映像です。この世界は魔王が支配し、人は家畜か食」

「はいわかりましたぁ! 次お願いします!!」


 私はラクロさんの説明を遮ると、球体をつかみ全力で彼方へとぶん投げた。


「……そうですか……ハーバスタッドへ移住するのなら、貴女を人々を魔王の支配から救う勇者として優れた能力を授ける事もできるのですが」

「無理! 無理です!! 嫌ですそんな重い人生!! 私は平穏に暮らしたいです~~!!」

「……わかりました。では最後に、ラザルドールです」


 うっ、さ、最後!!

 どうかその世界は穏やかな世界でありますように……!!

 ラクロさんが再度出現させた球体を、私は祈るように見つめた。


「ラザルドールも、ファンタジー世界です。ご覧戴いているのは、ラザルドール一番の大国、ラクロゼウス神聖国の王都です」

「……!!」


 私はパチパチと目を瞬くと、食い入るように球体に映し出されたその光景を見つめた。

 そこには立派な白亜の城に、厳かな雰囲気の神殿、綺麗に整備された街並みに、至るところに花や木々などの緑が添えられている。


「綺麗……凄い素敵な場所ですね!!」

「ありがとうございます。ラザルドールは私が初めて単独で担当を任された世界で、中でもこのラクロゼウス神聖国は、建国当初、私が人々の前に直に姿を現し交流し、発展を見守った国なので、思い入れもありまして。褒めて戴けるのは、やはり嬉しいですね」

「え、ラクロさんが直に? あ、じゃあもしかして、"ラクロゼウス神聖国"って名前は」

「はい。私の名を使わせて欲しいと初代国王と法王に乞われ、許可したのです。その為か、永い時が経った今でもこの国の人々は私に深い信仰心を捧げてくれています」

「へぇ~……!」


 嬉しそうに、そしてどこか誇らしそうに微笑んで言うラクロさんの顔を見て、私は気持ちを固めた。


「じゃあ、ラクロさん。私、このラザルドールに移住しま」

「あっ、お待ち下さい華原さん! 今、他の国の映像も見て戴きますので」

「えっ?」


 移住します、と伝えようとしたのをラクロさんは慌てて遮り、球体の映像を切り替える。

 再び透明になったそれに首を傾げてラクロさんを見ると、ラクロさんは申し訳なさそうに眉を下げた。


「申し訳ありません。ラザルドールに移住する場合、その住居を構える国は、ラクロゼウスでは少し不都合がございまして。加護を与える以上、保護者役が必要となった時は私が実際に貴女の元に行き対処させて戴くのですが……先程申した通り、ラクロゼウスは信仰心が厚く、私の姿絵や像等も各神殿にあり……私が姿を現すと大騒ぎになる可能性が高いのです。そして私が保護者を名乗れば、貴女はその後神子として神殿に保護される可能性も……」

「! ……ほ、他の国でどこか、ラクロさんのオススメってありますかぁ!?」


 ラクロさんの言葉を聞いた私は直ぐ様球体に視線を戻した。

 神子なんて大層な存在に祭り上げられ、神殿で淑やかに、清貧に過ごすなんて性に合わない。

 私は穏やかに、そして自由にのびのび暮らしたい!


「そうですね……魔法大国など、いかがでしょうか。その名の通り、魔法に秀でた国です」


 ラクロさんがそう言うと同時に、球体の映像が切り替わった。

 三角屋根の家々が建ち並び、住宅地から離れた一角には大きな建物があって、そこには同じ服を身に纏った年若い人達が出入りしていた。

 たぶん、学校かな。

 空を見れば、箒や絨毯に乗った人々が飛び回り、地を見れば、杖を持った女性がそれを振って動物を出し、籠を渡して何かを言っていたり、また別の女性が杖を振って花壇に水を撒いたりしている様子が見える。

 なるほど、確かに魔法が浸透しているみたいだ。


「あとは……大国というわけではありませんが、ネオスティア王国なども、良いかもしれません。この国の王族は皆心優しく、国民性も穏やかです」


 ラクロさんがそう言うと、また映像が切り替わる。

 そこには、ラクロゼウス神聖国程ではなくても立派な造りのお城に、整った街並み、賑やかな大きな通り、そして子供達が笑顔で走り回る緑の多い広場などが映し出された。

 うん、悪くないかも。

 でも、う~ん……どっちにしようかな?

 私は球体を見たまま腕を組んで少しの間考えると、顔を上げてラクロさんを見つめた。


「あの、ラクロさん。提案なんですが、魔法大国と、このネオスティア王国、両方に数日間滞在してみてから移住先を決めてもいいでしょうか? 実際そこで生活してみないと、わからない事ってあると思いますし」

「あ、はい、構いませんよ。候補は、この二国でよろしいですか?」

「はい」

「わかりました。では、そうですね。まずは魔法大国へお送りします。一週間ほど経ちましたら、様子を見に伺います。ああそれと、これを渡しておきましょう」


 ラクロさんがそう言うと球体が消え、代わりに色鮮やかな便箋と封筒、そしてペンが現れた。


「魔法の封筒とペンです。その封筒に私の名を書いて手紙を入れれば私の元に届きますので、何か困った事が起こったら手紙で知らせて下さい。適切に対処させて戴きますので」

「わ、それ助かります! 連絡が取れるなら心強いです、ありがとうございます」

「いえ。それでは、目を瞑って下さい。ラザルドールの魔法大国へ、お送り致します」

「あ、はい」


 言われた通りに目を瞑ると、次の瞬間、私の体は心地いい浮遊感に包まれた。

テニスボール大の球体の大きさが変わった時にサッカーボールやバスケットボールじゃなくスイカにしたのは他でもありません、私がスイカを食べたくなったからです。


☆☆☆以下 おふざけ。読まなくても支障ありません☆☆☆


「というわけでルーク君! スイカを買ってきて下さい! 君の奢りで!」

「え、えぇ!? 何で僕が!? しかも奢りで、ですか!? い、嫌です!!」

「あれ。いいのかな~? 断って?」

「え、な、何でですか……?」

「君がこの先どこまで大きな失敗をしてどれだけ大きな罰を受けるかは、私の采配にかかっているんだよ?」

「!! きょ、強迫ですか!!」

「え、違うよ、お願いだよ?」

「スイカですか。それはいいですね」

「あ、ラクロさん」

「せ、先輩! 葉月さんが僕を強迫するんです!!」

「葉月さん、私もご相伴にあずかっても?」

「えっ! うん、もちろんだよ!」

「ありがとうございます。よし、ルーク。スイカを買ってこい。勿論お前の奢りでな。先輩命令だ」

「そ、そんな、先輩まで……!! あんまりで」

「普段、お前の失敗の尻拭いを無償でやっているのは、誰だ?」

「ひっ! い、行ってきますぅぅ!!」

「おお、地を這うような鶴の一声で、脱兎の如く買いに走ったね。さすがラクロさん」

「……たまにはこれくらい良いでしょう。……葉月さん、スイカ、ルークにも食べさせてやってもよろしいですか?」

「あ、うん、それはもちろん。この暑い中重いスイカを買ってきてくれるんだもん。それくらいは当然の権利でしょ」

「ありがとうございます。……楽しみですね。スイカ」

「そうだね~!」


しかしこのあと、帰ってきたルークの手には、何かに躓き転んで下敷きにしたせいで土がつき割れたスイカがあったのだった。

かろうじて無事だった部分をラクロと葉月が食べ、土がついた部分はルークが浄化の魔法をかけたあと、自分で食べたのだった。

ルークの表情が微妙なものだった事は、言うまでもない。

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