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シンプルな場所で 3

本日二回目になります。

「華原紅葉さん。念話にて神様に事の次第を報告したところ、貴女には特別に甦る権利が与えられる事となりました」

「えっ! ほ、本当ですか!?」


 茶色の髪の男性にひとしきり思いの丈をぶつけ終えた頃、明後日の方向を向いていた青い髪の男性が再び私に視線を戻して、そう告げてきた。

 私は直ぐ様反応し、青い髪の男性へと向き直る。


「はい、本当です。但し、先程申し上げた通り、既に貴女の死は確定してしまっています。ですので、甦るとは言っても、今までの人生の続きを送って戴くわけではありません。新たに肉体を得ての甦りとなりますが、それでもよろしいでしょうか?」

「新たに肉体を得る? それって、転生って事……?」

「いえ、そうではありません。転生とは、母体に宿り、赤子となって再び生まれる事を言いますから」

「違う? ……じ、じゃあまさか、誰かの体に憑依して乗っ取るとか!?」

「いいえ、それも違います。肉体は我々が新しく作ります。なので、後にも先にも宿る魂は貴女のものだけです」

「あ、な、何だ、そうですか……良かった。なら、わかりました。それでいいです。……それしか、甦る方法は、ないんでしょう?」

「……はい」

「やっぱり。……なら、それでお願いします」

「かしこまりました。……ルーク、わかっているな?」


 示された案に私が頷くと、青い髪の男性はその視線を私から白い何かの上にうつ伏せに倒れている茶色の髪の男性に移した。

 彼にかける声は、私と話していた時よりも幾分か低い。

 この男性も、彼の失態を怒っているんだろう。


「は、はいぃ……。僕が華原紅葉さんを甦らせるんですよねぇぇ?」

「そうだ。お前がしでかした失態だ、きっちり自分で自分の尻拭いをしてみせろ。それもできない、とは言わせないからな」

「は、はいぃ」


 青い髪の男性の厳しい声色に怯えた様子を見せながら、茶色の髪の男性はもぞもぞと起き上がると、私に恐々といった視線を向けてきた。


「で、では、華原紅葉さん……ぼ、僕は見習い天使の、ルークといいます。あ、貴女には、僕が担当する区域の中から新たに生活する場所を選んで戴きますっ。その上で、僕の加護を与えて、その場所にお送りしますねぇ」

「え? ちょっと待って、その加護って、何よ? 説明して!」


 茶色の髪の男性、ルークに改まって告げられたものの中に気になる単語を見つけ、私はすぐにそれについての説明を求めた。

 敬語が外れ、口調が剣呑なものになってしまっているけれど、まあ、この人に対しては構わないだろう、うん。


「あっ、はい、すみません! えっと、加護っていうのは、僕の手助けの事です!」

「手助け?」

「そうです。えっと、こ、今回、こんなご迷惑をかけてしまって、新しく生をやり直す事に対する罪滅ぼしというか……やり直す事によって生じたあらゆる不便な事を解消するお手伝いを、させて戴きます!」

「華原さん。貴女が新たに得る肉体は、作るこちらの都合上、子供の姿のものになるでしょう。それによって生じるあらゆる不都合を、このルークに責任をもって処理させる、それが加護であると、そう認識下さって結構です」

「子供の姿……」


 ルークが言葉を切ると、その補足をするように、青い髪の男性が更に説明を上乗せする。

 それらの内容をきちんと理解すべく、二人の目を見てその言葉をゆっくりと咀嚼していく。

 ……加護について、『そう認識して下さって結構です』という青い髪の男性の言葉から察するに、本当はもっと違うものであるのかもしれない。

 何しろ、"天使の加護"だ。

 ただ生活についての不都合を解消する手助けをする為のものだなんて考えにくい。

 それがたとえ、人違いで人を死なせる馬鹿天使の加護だとしても。

 ……ん?

 馬鹿天使……馬鹿天使、か。

 あのルークって人の呼び名、それでよくない?


「えっと、それで、話を戻しますが、新しく生活する場所、どこがいいですか? やっぱり地球の、日本がいいですかね? 僕が担当している日本の区域ですと、華原さんがお住まいだったのとは遠く離れた別の県になりますけど」

「あ……ちょっと待って、馬鹿天使。確認したいんだけど、私が子供の姿になって、貴方の加護を受けるって事はよ? もしかして、貴方が子供の私の身元保証人たる保護者になる、って事?」

「え、あ、あああの!? ば、馬鹿天使って、何ですかぁ!?」

「質問してるのは私よ、答えなさい」

「うっ! うぅ……はい。保護者が必要な時は、そうなりますぅ」

「……………………」


 私が決めた呼び名に騒ぐ馬鹿天使をたしなめて返答を促すと、馬鹿天使は眉を下げて項垂れながらも、肯定の返事を返してきた。

 ……この馬鹿天使が、私の保護者になる。

 その事実に眉間に皺を寄せると、私はくるりと体の向きを変え、青い髪の男性を見た。


「あの~。こんなドジが私の保護者になるなんて、怖いというか……嫌なんですけど。その役目、貴方にお願いするとか、できません? これまでの対応を見る限り、貴方なら信用できそうですし」

「……私に?」

「えっ!? や、役目を先輩にって、せ、先輩の加護をつけろって事ですか!? そんな! ぼ、僕の失敗なのに、先輩にそんな……!!」

「ちょっと何よ、うるさいわね。加護もだなんて一言も言ってないでしょう? 私はただ、保護者の役目をこの人にって言ってるだけよ」


 私が保護者の役割を担う人物の変更を青い髪の男性に願い出ると、馬鹿天使は慌てて大声を上げ、割って入ってくる。

 それを鬱陶しく思いながら軽く睨むと、青い髪の男性が静かに口を開いた。


「……同じ事なのですよ。保護者の役目も、加護も。同一人物がするべく定められた事柄なのですから」

「えっ。そ、そうなの……? ……じゃ、じゃあ、駄目、なんですか……? どうしても?」

「…………。……私の加護を望むなら、地球へは戻れませんが、それでもよろしいですか? 私の管理する世界は全て、貴女方の言葉でいうところの、"異世界"ですので」

「えっ、せ、先輩!? ま、まさかっ」

「異世界……。……わかりました、それでもいいです。……むしろ、全然違う場所のほうが、前の生活を引きずらなくてすむかもしれませんし」

「……そうですか。わかりました。では、貴女には私の加護をおつけしましょう」

「ええぇっ!! そ、そんな、先輩……!!」

「ルーク。お前は神様の元へ行き、事の次第を全て自分の口で一から説明しろ。あとは、私と華原さんで今後の事を話す」

「先輩! 加護は、僕が!!」

「……聞こえなかったのか、ルーク? 二度は言わないぞ」

「っ! ……は、はい……。……華原さん、本当に、本当に……すみませんでした……」


 私の願いを快く聞き届けてくれた青い髪の男性に、馬鹿天使は自分がやると食い下がるも、威圧感たっぷりにすごまれると途端に力なく項垂れ、最後に私にもう一度謝罪をすると、翼をはためかせて、彼方へと去って行った。

 青い髪の男性は、去って行くその後ろ姿を眺めていたけれど、やがて。


「ち、あのドジが……仕方ない事とはいえ、仕事増やしやがって……!」


 そう小さく、呟いた。

 いや……うん、私は何も、聞いていない。

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