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仮想世界の日々とその終わり

 ここは一体、どの世界なのだろう。

 いや、大体の予想はついている。

 そう、予想はついているけれど…………これを成し遂げるとは、ラクロさん、恐るべし。

 今私は、私立錬金術アカデミーに通いながら、苦学生としてだだっ広い家の敷地で野菜や薬草等を育て、小さな動物小屋で鶏を一羽と牛を一頭飼ってその収穫物で生計をたて暮らしている。

 担任の先生は、茶色の髪の女性、リーリ先生。

 同じクラスの生徒には、イグリンという女の子やルミーナという女の子、マルーネという少女にエフィルという少女がいる。

 そして更に……記憶を失い、発見された場所で牧場を営み、ダンジョンにも赴いてモンスターを仲間にし飼育するかのゲームの歴代主人公達さえいるのだ。

 明らかにミックスされている。

 世界は勿論、時代さえも無視されたカオス空間だ。

 もう一度言おう。

 ラクロさん、恐るべし。

 とはいえ、大好きなゲームのキャラの一部達が勢揃いしているこの生活は、とても嬉しいものである。

 私は彼ら、彼女らの様子を時に眺め、時にクラスメートとして話しかけながら、日々錬金術を学んでいる。

 余談だが、私が飼っている牛はサリオ牛というらしく、錬金術の材料ともなるサリオミルクというミルクを出してくれるし、畑の薬草や野菜等も材料となる為アカデミーやクラスメート達が頻繁に買ってくれるので、苦学生といえど、生活費には困っていない。

 なのでとにかく毎日が楽しくて仕方がないのだ。

 そんなこんなで一年が過ぎ、自分が何の為にこの生活を送っているのかをすっかり忘れたとある夜。

 そろそろ就寝しようと考えていた私の目の前に、突然眩い程の光が溢れた。

 そして。


「こんばんは。お久しぶりです華原さん。お邪魔致しますね」


 そう言って、ラクロさんが現れた。


「ラクロさん! こんばんは、お久しぶりです! どうしたんですか、私に何か?」


 一年ぶりに会うラクロさんを、私は笑顔で出迎える。

 けれどラクロさんは、用件を尋ねた私に何故か困ったような笑みを向けた。


「華原さん。私が臨時で作成した仮想世界をとても楽しんで戴けている中、非常に恐縮なのですが……そろそろ、ここを去って本当の生活を送りませんか? 錬金術の知識は、もう十分身についたようですし。貴女がとても楽しそうなのでなかなか言い出せなかったのですが……とうに貴女の新しい体の用意も済んでおりますので……これ以上は」

「え? ……あ……っ!!」


 ラクロさんの言葉で、ようやく自分の目的を思い出した私は、目を大きく開けて大きな声を上げた。

 そう、そうだった。

 私は錬金術士になる為に、まずはその体験をしたいとラクロさんにお願いしたんだった。

 この世界で生きるのではなく。


「す、すみませんラクロさん。毎日があんまり楽しいからすっかり忘れてました……」

「いえ、構いませんよ。楽しんで戴けて何よりです。……ですが……もう、終わりにしましょう? 華原さん」

「う……。は、はい……わかりました……」


 この生活を終わりにする事に一瞬言葉を詰まらせたが、私は目を閉じて了承した。

 ここでの生活は、仮の生、つまり一時の夢なのだ。

 申し訳なさそうにしながらも起床を告げに来てくれた人がいる以上、もう起きなければならない。

 夢からは、覚めなければ。


「行きましょう、ラクロさん」

「はい。ではあの場所で、移住についての細かな事を話し合いましょう」

「はいっ!」


 私はここへの未練を断ち切るように明るくはっきりと返事をすると、伸ばされたラクロさんの手を取った。

 ……さようなら、楽しかった夢の世界。

 一年ありがとう、大好きなクラスメート達。

 私は新しい私の現実で、新しく出会う人達と、この楽しい夢の続きを生きるよ。

 貴方達と共に学び、共に目指した、錬金術士になって。

 私とラクロさんの体を白い光が包むと、頬をつたって流れ落ちた一滴の滴を残し、私はこの世界から去ったのだった。

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