表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/16

甘い考え

 吟遊詩人として成功する為に大切な事。

 ひとつ、各国を股にかけあらゆる地を巡る為に体力をつける。

 ひとつ、あらゆる地に伝わる伝承・伝説等を見聞きし自らの歌にするべく、どんな人とも親しくなれるよう社交性を磨く。

 ひとつ、各地特有のわらべ歌などを覚えて一言一句違えず歌えるよう、頭を鍛える。

 ひとつ、歌う際の感情・表現力を高めるべく、感受性を育てる。

 ひとつ、吟遊詩人にとって声は最大の武器、喉を何より大切にし、声量を上げ、腹筋を鍛え、そして日々美声になるよう努める。


「う~ん……やっぱり何度復唱しても、大変だよねぇこれ……。特に、どんな人とも親しくなれるように社交性を、とか、一言一句違えず歌えるよう、頭を、とか、日々美声になるよう努める、とかの部分……。……吟遊詩人って、ただ歌を歌って各地を旅してればいいんだと思ってたけど、甘かったかも……」


 有名な吟遊詩人の元に弟子入り希望として住み込みで師事して、はや数日。

 『毎朝声に出して復唱し、しかと心に刻むように』と言われた内容を復唱し終え、私はそう一人ごちた。

 吟遊詩人は、ただ歌を歌うだけじゃない。

 各地に伝わる英雄や勇者等の伝説や伝承、女性達が憧れている、実際にあった過去の恋人達の逸話などを調べ上げ、詩にし、感動を呼ぶ歌として自ら作り上げるのも、吟遊詩人の仕事らしい。

 それを聞いて、早くも私は吟遊詩人への道を諦めそうになっている。

 だって、詩を作り、歌にするんだよ?

 英雄や勇者の話とか、過去の恋物語とかはなんとか聞き出せたとしても、それを詩にして、感動的な歌にするなんて……うん、できそうにない。

 自信がありません師匠!!


「あれ、クレハさん? こんな所で、どうしたんですか?」

「あっ、ユージン君!」


 ふいに後ろからかけられた声に振り返ると、そこには銀髪の可愛らしい顔立ちの少年が立っていた。

 少年は、ユージン・シギウ君といって、私が師事してる吟遊詩人さんのお孫さんだ。

 ユージン君はまだ小さいながらも、将来お祖父さんのような吟遊詩人になるんだという夢を持っていて、日々それに向かって努力している立派な子だ。

 可愛らしい整った顔立ちは将来美形になる事を予想させるし、ユージン君は声も綺麗だ。

 そして、頭もいい。

 既にこの土地に伝わる素敵な恋物語を歌にして、その綺麗な声で切なげに、そして情熱的に歌っている。

 このまま努力を重ねて将来吟遊詩人になったなら、何処へ行っても女性ファンがつく素敵な青年になるんだろうと思う。

 かつて、という程まだ昔でもないけれど、日本にいた頃プレイしていたゲームでは、かなりの高確率で銀髪キャラに萌えていた過去を持つ私としては、このユージン君の存在は想像以上に厳しい弟子生活の中での癒しとなっているくらいだし。

 私はショタ趣味ではないけれど、ユージン君が青空の下瞳を潤ませ、その綺麗な声で恋物語を歌っている姿を初めて見た時は、もう何のご褒美かと思ったものである。


「でも、その時の歌に比べて、私は……。……やっぱり向いてないかなぁ、吟遊詩人」

「え?」

「あ、ううん、何でもない! ちょっと気分転換してたんだ。でもそろそろ戻って体力作りと腹筋と発声練習しないとね。行こ!」

「あ、はい。あの、僕も一緒にやってもいいですか?」

「うん、もちろん! 頑張ろうね、ユージン君!」

「はいっ」


 ……今日の夜、ラクロさんに手紙を書こう。

 吟遊詩人は私には無理。

 他の職業についても、もう一度しっかり考え直す必要が、あるかもしれない。

 あの場所へ戻ったら、またラクロさんに相談して、どうするかを考えなくちゃ。

 そんな心の内を綺麗に覆い隠し、私はユージン君と一緒に吟遊詩人の弟子としての、最後の修業をこなしたのだった。

迷ったけれど、やはり吟遊詩人といえば、という事で幼き日のユージン・シギウ君登場です!(笑)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ