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地下牢の神子  作者: 雪香
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侍従長ケイラ

ケイラ視点です。

十神衆の侍従長には、他の侍従とは全く意味が違う。


第一に、十神衆の血を継ぐ者。

第二に、未婚の者。これは、生涯を侍従長として過ごす事を意味する。


その他には、容姿端麗、頑健な肉体、勤勉、犯罪歴皆無…細かい審査を通り、就く事が出来る。


侍従長の主な役割は、大きく二つある。


十神衆の幼い時代の教育と、成人した十神衆の補佐である。


十神衆以外で、異性でも唯一神子との会話も許されている存在だ。


今代の5の国侍従長は2代目。五の方の成人と同時に侍従長となった者である。


名も十神衆から与えられ、慧羅(ケイラ)と名乗る。




10日前、5の国よりの使者として3の国へ行った慧羅だったが、知らぬ間に侵入者となり牢に入れられた。


勿論、反抗する事も出来たが5の国の侍従長として5の国の評判を下げる事になると思い耐えたが、気付くと10日経ってしまった。


流石に五の方も気付くと思うが、3の国との関係に亀裂が生じるのでは無いか?


悶々としている時に、同じ牢に入れられた少女。


世間知らずで凡庸な雰囲気だが、全く毒の無い様子だった。


メイド長に連れて来られたと言ったが…慧羅も思い返せば、メイド長が侵入者だと言った事が発端だった気がした。


メイド長…調べる必要がある。


しかし体は鎖に繋がれ、牢には窓すら無い。この少女を逃がす所か、国に知らせる術も無い。


考え込む慧羅の前に、更に怒濤の出来事が。


千年間不在の紅神子が戻り、偽の神子を語ったこの少女を処刑せよと申したそうである。


意味が分からなかった。


あまりに突然の紅神子の帰還だが、紅神子は基本的に神事や退魔を行い、普段は一つの国で静かに暮らす。


間違っても、表に出て処刑を先導するだろうか?

それに、帰還した直後だ勿論知識など無いだろう。三の方は疑問に思わないのか?


その事に激昂すれば、一般兵士に打ち据えられた弱った体。


その途端少女が止めに入ってくれ、自ら処刑に連れられて行く。


牢の鍵は空いたまま。

少女は逃げろと唇で言った。


薄明かりで見た少女の瞳は赤で、肖像画で見た歴代の紅神子と同じであった。


自分を逃がそうとした心優しき世間知らずの少女と、帰還早々偽神子の処刑を命じた紅神子。


どちらが本物かは明白であろう。


慧羅は血で汚れた体を引きづり、牢の階段を這う。5の国侍従長の誇りにかけ、紅神子を助けなければ。


体を引きづり、どれだけ時間が立っただろうか?

やっと階段を登りきった時、絶望が目に入る。


目の前には、3の国の侍従長。

見付かってしまった。また、牢に戻されるのか?


しかし、3の国侍従長の態度は想像とは真逆であった。


頭を床に着けて何度も謝罪を口にする。


「…申し訳ありませんでした、慧羅殿!」


「……………どういう、事だ?」


混乱する内に着替えさせられ、5の国へ馬車で送られる。その間も、3の国侍従長はずっと謝り倒す。


そんな事はどうでも良かった。それより、紅神子の事を聞けば、処刑される筈の少女は、筆頭十神衆一の方が連れて行ったそうである。


経緯は分からないが、一の方が連れて行ったのなら、やはりあの少女が紅神子様なのだろう。


5の国に戻ると、部下の侍従達に涙ながらに迎えられた。


それを押し留め、五の方様に報告に向かう。


最初は、ボロボロの慧羅に休む様に言ってきたが、3の国での状況を話すと顔色が変わる。


常時柔らかな笑みを浮かべる口元が笑みを潜め、優しげな瞳に冷たい光を宿す。


歴代の紅神子様が側室とされた三の方様…しかし、優しいだけで国を治められるだろうか?


侍従達の顔から色が無くなり、一斉に壁に下がり頭を床に着ける。


慧羅だけは、片膝をついたまま五の方を見上げる。


「…ありがとう、慧羅。よく屈辱に耐えて戻り、報告をしてくれましたね?」


「…いえ。当然の事でございます。」


五の方は酷薄な笑みを浮かべる。


「三の方から、先ほどその内容と同じ書簡が届きましてね…紅神子様を間違え、現在も迷っていると。」


ふふっと笑うと、視線を侍従達に送り統治者の顔となる。


「3の国へ向かう用意を。紅神子と名乗る者に会いに行きましょうか。」


短い返事で、侍従達は直ぐに部屋から出て行く。


しかし慧羅には、五の方の意向が分からない。


「五の方様?…その者に会ってどうすると?」


「…おや?分かりませんか慧羅。」


不思議そうに首を傾げた五の方は、やはりそれだけ見れば善き王だろう。


「もし、真に偽物なら…3の国ごと滅ぼさねばね。」


慧羅の心臓が、ドクリと鳴った。




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