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地下牢の神子  作者: 雪香
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偽神子の処刑

靴音が止まり、牢の錠が開く。


「…来い、女。」


乱暴に引きづり出され、紅葉の体が震える。


「おい!何をする気だ?!」


どう見ても悪人に見えぬ若い娘に対する扱いに、ケイラは声を荒げた。


しかし男は意に介さず、冷たく言い放つ。


「決まっている。この女は畏れ多くも紅神子様を語った罪人。本日真の紅神子様がご帰還された。三の方様が、御前に引き出し切り捨てろと仰ったのだ。」


「……何?」


馬鹿な、とケイラは驚愕する。突然、紅神子が現れた?

しかも、この少女が偽者だと語った?

更に、神子語りの罪は重いが処刑とまでいかなかった筈だ。


怖がり動けぬ紅葉に、ケイラは牢の壁に繋がる足の鎖を苦々しく思う。


「…神子語りは五の国では鞭打ち100のみだ。三の方様が殺せと仰ったか?」


男は一瞬動きが止まるが、直ぐに変わらぬ態度に戻す。


「…いや、紅神子様が偽者は災いを招くと仰り、三の方様がそれに応じられたのだ。」


その言葉に、ケイラの瞳が鋭く光る。


「…五の方様は歴代の紅神子様の側室。その方が、紅神子様が処刑を命じた事など一度たりと聞いた事など無いわ!!」


あまりの激昂に男は恐れおののくが、ケイラが繋がれているのを良い事に自身の腰の棒で打ち据えた。


「…グッ!」


「ケイラさん?!」


叫ぶ紅葉に男は頬を殴り飛ばし、紅葉の頬は赤く腫れる。


「……っ。」


ケイラがそれに何か言う前に、更に頭から殴りつけられていく。


「…止めて!私行きますから!」


「…ふん。最初からそう言えば良いものを。」


男は満足したのかケイラを一度蹴りあげてから、紅葉の両手首を縛り上げた。

頬の痛みに唇を噛み締める様子に、蔑んだ視線を向ける。


「…はん。その目は色付ガラスか?まあ、その貧相な容色でよくも紅神子様を語ったものだ。せいぜい上手く命乞いするのだな?」


あまりの物言いに紅葉は泣くのを堪え、それでも歩く。


それには理由がある。今はまだ、男が牢を閉めていない事に気付いていないからだ。


こっそり後ろを振り返ると、血を流しながら顔を上げたケイラと目が合う。


「にげて」


口の動きだけで言う紅葉に、ケイラは何故か呆然としていた。


牢の階段に灯る光で、はっきりと紅葉の顔が浮かぶ。

その瞳は、まるでケイラが見てきた紅神子の肖像画と瓜二つである。


男と紅葉が去った後、ようやく動く手を握り閉め、悲痛な咆哮を上げる。


「く、くそ…何という事だアアアアアアアアアアア!!!」



降りてきた道を、登って行く。


もし、あのメイド長が紅神子だと言う事は、自分は絶対殺されるだろう。


確かに自分は赤い目をしている。それだけで、何でこんな目に遭わないといけないのだろう?


こんな目…自分が一番嫌いなのに…。


見知らぬ場所で死ななければならないのに、考えに耽る余裕があるのは、やはり現状が受け入れられないからか。


連れられたのは、王の玉座の前。

膝を着けさせられ、左右には鋭い剣を持つ兵士。


死にたくない。


「…あの…」


どうにか出来ないかと声を上げるも、甲高い声にかきけされる、


「…ああ!三の方、この者です。災いを招く者は…どうか、直ぐに処分を?」


血のように赤い髪と瞳の妖艶な女が、冷たい印象の青年に寄り添う。


三の方と呼ばれた青年は、紅葉を一度も見ずに女にうっとりと微笑む。


「…勿論。貴女様を騙る罪人に死を持って償えさせますよ。」


メイド長!

その女は、どう見ても紅葉を牢屋に入れたメイド長の変化した姿だ。


「…始めろ。」


愕然とする紅葉に、三の方の冷たい声が掛かる。その声を合図に、左右の兵士が剣を構えた。


それでも涙を溢さず、紅葉は静かに頭を上げる。


何でだろう?

私、あまり怖くない。

死ぬのが?

いえ…だって不思議と私は悪くないと思えるから。


その時、王の間の扉が開く。


「…貴方は、一の方。」


三の方の声に、淡々とした声が返される。


「…紅神子様がご帰還なされたと知り飛んで来たが…何だ物騒な様子だな?」


感情の乗らない声音は、不思議そうに兵士に剣を向けられる人物の後ろ姿を見る。


三の方は少し罰が悪そうに息を吐く。


「…まあ、紅神子様の御前で失礼だとは思いましたが、偽者の処分は早急にしようと…。」


そう言う三の方に何も言わず、一の方はゆっくり『偽者』へ近付く。


一の方は、処分しなければならない悪人の顔を見ておこうという単なる好奇心であり、本来なら紅神子に挨拶をしたい気持ちが、本人を見て気が乗らなくなったからだ。


何故か、あの赤い髪と目には惹かれない。

それより、この細い背中が気になってしまう。


一の方は、片膝を着き相手の顔を覗き込んだ。


紅葉は、絵画から出た様な青年を見つめる。

飴色の瞳に、金糸の様なさらりと揺れる髪は、耳の上で切り揃えられている。


知らず、胸を押さえ今まで抑えていた涙が溢れる。


胸が痛い。

何で?


私、この人を、知ってる。


「…壱刄(イチハ)?」


口をついて出た名前に、一の方の表情がスッと変わり、紅葉の赤い瞳を凝視した。


「……………モミジ、様?」


何故か紅葉は相手の頬に手を添え、微笑。まるで、それが当たり前の様に。


「…モミジ様…モミジ様!モミジ様!」


一の方は紅葉の手を強く握り、震える声で何度も繰り返す。


しかし、ふいに紅葉の頬の腫れに眉を寄せる。


「…この御体に傷を付けたのは、何処のシれ者でしょう?」


恐ろしい形相に、紅葉は混乱し戸惑う。


「…あの…えっと?」


紅葉の戸惑いに一の方は、自然な動作で紅葉を横抱きに抱き上げる。

その仕草は、まるで触れれば崩れてしまう物を抱く様である。


後ろで何か叫ぶ三の方など眼中に無く、一の方は王の間から出て行くのであった。






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