「黒猫と青猫のワルツ」 Written by にゃん椿3号
「黒猫と青猫のワルツ」
今宵は満月
青い光が魔法に変わる
ねぇ ご主人
あたしは従順な黒猫だけど
添い寝だけがお気に入りじゃないの
眠りの砂をまぶたにかけてあげる
甘さにとろけるような夢を見て
そのまま朝までおやすみなさい
屋根裏部屋から抜け出すと
ひとつ大きな伸びをして
あたしは輝く月にミャオと鳴く
今夜は特別なのよ
月が魔法をかけるから
ふりそそぐ青い光に姿を変えるわ
赤いリボンをふわりと結び
ふんわりレースのワンピースをまとう
闇色のマントをなびかせて夜に歌うの
夜に染まったレンガの古い街並みを駆け
屋根から屋根へとひょいと飛び
ハイヒールで軽くステップ
月に誘われ 夜に踊る
気ままな猫はあたしだけじゃないのよ
あっちの屋根にも もうひとり
マントの色はあたしと同じ
高いシルクハットも闇に溶けて
シャラリと長い鎖のついた 金の懐中電灯がキラキラと
ねぇ なびくマントの似合う怪盗さん
あいかわらず青いタイが鮮やかでまぶしいわ
かなしい誰かの涙を盗んで 笑顔の種をまいてきたのね
ガス灯が淡く照らす広場で
長くのびる淡い影を焼きつけながら
ちょいと散歩先で ちょいとあたしが拾ってきた
こぼれ落ちた涙を ひょいとあなたが盗んできた
どこかの誰かのこぼした涙の数を数えながら
世界をめぐりめぐる 風のワルツを踊りましょう
初めてみたいに優雅な礼をして
いつものように手に手を取って
気持ちだけは紳士と淑女を気取ってみるの
月に雲がかかってもラストダンスはまだ早い?
ほら 太陽が顔を出せば
まぶしい黄金色の光の魔法で
かなしい さみしい涙の粒も 笑顔の種に生まれ変わる
軽やかに鮮やかに交差する影と影
お祭りみたいな陽気さで クルクルと夜明けまで踊りましょう
踊るのも 歌うのも おしゃべりも大好きだけど
待っている人が目を覚ます時間が近づいちゃった
そして あたしは黒猫に
そして あなたは青猫に
戻るのかしら?
変わるのかしら?
ふわふわの毛並みもキラキラの瞳もお日様好み
どっちが真実の姿かなんて 考えるだけ無駄なこと
気ままに踊るワルツはね 猫でも人でも関係ないわ
どっちも等しく気に入っている あなたとあたし
いつもは気ままな尻尾を 一度からめて別れるの
あなたはあなたの館に急ぎ あたしはあたしの家路をたどる
今のあたしはご主人の膝の上
陽だまりで月夜を夢見て丸くなり
耳に残ったワルツの曲をハミングするのよ
また逢う日まで ごきげんよう