007 僕の思いと彼女の思い
僕が通っている組織はブラック企業ではないため、無論休憩というものが存在します。この日もそうでした。僕が一生懸命に腹式呼吸の修行をしていた時、教官が声を掛けてきたのです。
「そろそろ飯にするか?」
「はい、そうします」
僕は立ち上がりました。
「それじゃあ、何を食べたいかコンビニに行って自分で買ってこい」
彼女は言うのです。選択権は僕にあるのだと。
「はい。それでは行って参ります」
「気を付けろよ。後、なるべく安い商品を買えよ」
彼女に小銭を貰って、僕はコンビニに行くのです。
僕は道場から出た後、すぐ目の前にあるコンビニに行きました。ウイーンと扉が自動で開くと、レジの店員が「いらっしゃいませ」と声を掛けてきました。僕は一応、常連さんなので、このコンビニの店員さん達とは顔見知りです。いらっしゃいませと声を掛けられたら、笑顔を見せて会釈しなければいけません。僕はそれが億劫でしたが、嫌な感じの人だと思われたくないので、必ず会釈をします。
そして、次に僕は目当ての商品棚に移動しました。すると、店員さんがカゴを持って商品をカゴの中に放りこんでいくのです。商品は、おにぎりや弁当、スパゲッティなど多種多様にありました。不思議に思った僕は店員さんに話しかけました。
「一人で食べるのですか?」
カゴ一杯に入った商品を見て、僕は尋ねました。すると、店員さんはニコリと笑ってきて、
「廃棄ですよ」
と、言ってきました。
「成程。廃棄ですか」
「と言っても、賞味期限は二時間後ですけどね」
「そうなんですか」
「よろしければ、この商品半額で売りますよ」
店員さんが言いました。廃棄の商品を半額で売ってくれると。これはナイスタイミングです。教官は『なるべく安い物を買ってこい』と言っていたので、僕は廃棄の商品をありがたく購入することにしました。
「ありがとうございます。そうしてください!」
「廃棄の商品を半額で買い取って下さるのですね?」
「はい、そうです」
「ありがとうございます。では、廃棄登録するので少々お待ちを」
そう言うと、店員さんはレジまで廃棄の山を持っていき、とてつもなく早いスピードで、バーコードに通していきました。それが終わると、廃棄商品が山盛りに入った買い物カゴをどかんとレジカウンターに置いたのです。
「うわあああ。宝の山だ」
「全品半額ですよ。お好きな物をお選びください」
僕はざるそばとおにぎり三つを選んで店員さんに渡しました。店員さんはこれまた凄いスピードでバーコードを通していき、ディスプレイには『三百円』と表示されました。通常なら、この二倍の『六百円』するところでしたが、店員さんに廃棄の商品を売ってもらったおかげで、見事半額で購入する事が出来ました。しかも、賞味期限はまだ切れていません。二時間後なのです。
「ありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそありがとうございます」
この日ばかりは、店員さんと仲良くして良かったと思いました。しかしです。道場に帰ってお釣りを教官に渡し、この事を説明すると、拳骨が飛んできました。
「バカ。廃棄商品買ってきてどうするのよ!」
「でも、教官が出来るだけ安い商品を買って来いって言ったじゃないですか」
「そういう問題じゃないのよ! お腹壊したらどうするの」
「だって、賞味期限は二時間後ですよ」
「今日までじゃない。次からは、ちゃんと賞味期限を見て買いなさい」
「どうしてですか?」
「そういう癖をつけとかないと、廃棄漏れの商品を買う羽目になるのよ」
彼女は、やはり厳しい女の子でした。