002 練習
エクソシストの修行に終わりはありませんでした。翌朝、いつもと同じようにボロ布で造られた制服に身を包んで、道場に行くと、道場にはクッキング機材と、頭巾を被った上官がいたのです。
あまりのキューティクルさに鼻血を噴出しそうになりましたが、そこは我慢して彼女に近づいていきました。
「おはようございます。上官」
僕は彼女の目を見て挨拶しました。そうしないとお仕置きが待っているからです。
「おはよう。今日は雨が降ってるな」
彼女は窓ガラスから聞こえるザーザーという雨音を聞いているようでした。
「そうですね。これで外の修行は出来そうにありませんね」
僕は素直に言いました。すると、
「だから今日は屋内で可能な修行をするぞ」
彼女は頭巾を被ったまま、そう言うのです。正直言って、僕は目の前の光景が理解できずに頭がこんがらがっています。
「あの……それでなんで、キッチンがここに?」
昨日、鞭で散々ぶたれた場所にキッチンが置いてあるのです。不思議でたまりません。
「今日の修行は上手に卵を割ることだ」
「卵を割る?」
「そうだ。やってみろ」
彼女に渡されたのは茶色の卵でした。見た目は種も仕掛けも無い通常の卵です。僕はそれを手に取ってボールの前へと移動し、隅でコンコンと卵の殻を叩きました。
ズバシャ!
勢いが強すぎた。しかし、時すでに遅しでした。生卵と殻が一緒にボールの中に入ってしまったのです。
「失敗よ」
「そうですね。申し訳ない」
「見本を見せてあげるわ」
彼女がそういうと、いとも簡単に片手で卵を割ってボールの中に入れたのです。まるで、芸術のような手さばきに、僕は思わず拍手を送りました。すると、彼女はまんざらでもないようで、笑顔で頷いていました。
「どうやったらそんな簡単に卵を割れるのですか?」
「慣れよ」
「慣れですか」
「そうよ。だから今日は片手で卵が割れるようになるまで練習しなさい」
「え!?」
「卵はいっぱいあるから大丈夫よ」
そう言った彼女は冷蔵庫を開いて、満載の卵を僕に見せてきたのです。僕は卵パックから卵を一つとって卵を割りました。今度は力を加減したので、上手に割ることが出来ました。
「出来ました」
「でも、両手ね」
「練習あるのみですか?」
「練習あるのみよ。さあ、続けなさい」
こうして、僕は一日中卵を割り続けました。それでも片手で卵を上手に割ることが出来ず、結局、大量に割った卵を、卵焼きにして徹夜で食べる事で彼女に許してもらいました。
もう、こんな地味な修行は懲り懲りです。




