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09 レダの賢王、動く。




 ウォロンの率直な言葉を耳にし、王としてだけでは無く、国を思う者として口を開いた。


「そこでなのだが……。御三方はこれから何か目的はあるのかな?」


 ワイングラスを片手に持ち、問う。彼らには気怠そうに思えたかもしれない。いや、実際に疲れ果てている。


 普段であれば隠すべき事なのだが、今居る者は心許せる者であり、恩人である。王の威厳が失われると苦言する者もすでに退席している。かまわないだろう。


──傭兵の三人は小声で確認し合っている──


 娘が誘拐されたと聞いてからも王としての仕事を果たさねばならぬ身である。自らが探しに行きたいと言う衝動を抑え続けながら娘の行方の報告を聞き、一喜一憂していたのだ。されど王の責務を他人に任せられるわけでも無し。精神的に追い詰められていた。


 自他共に認める穏和な性格をしていると思ってきたが、この時ばかりは荒れて重臣達には迷惑をかけた。申し訳なく思う反面、城下に住む人々と同じような反応をした事が嬉しかった。私もやはり王であるのと同時に親なのだと。


 四十も半ばに差し掛かるほど生きてきた中で、戦争や暗殺と表でも裏でも命の危険を潜り抜けてきた私が、娘の安否が気がかりで動揺を隠し切れてなかった。


 その反動なのか、吉報を聞いた時の安堵による脱力は半端なものではなかった。王座に座っていなければ無様にも腰から床に落ちていた事だろう。長年共に歩んできた腰痛も昔に比べて軽くなったとは言え、腰から落ちれば悪化するしか道は無かった。


 様々な思索に更けている間、傭兵の三人はまだ相談をしていた。知恵も行動力もある武人達だ。返答はすぐにせず、互いに軽く意見を言い合ったようだ。


「私としてはしばらく逗留してもらい、我が騎士団を鍛えて貰いたいと思っているのだよ。ウォロン殿の指摘通り隣国に比べると質が劣っているのは事実。せっかくの御縁だ。鍛えてもらえんかね?

 この国に骨を埋める覚悟を持ってもらうと、私としてはお願いし易いのだが、そういうわけにもいかんだろうがね」


 肩を竦め、微笑む。いや、疲労のために苦笑に見えたかもしれない。


 私の提案にまた三人は声を掛け合う。トナ、プロングス、ウォロンと個性的な者達だ。


 酒と暖炉の火、照明のおかげで汗が出てきたのだろう。プロングスはジャケットを脱いだ。中に着ているのは真夏の木に茂る葉のような深い緑色をした奇妙な生地の服で、身体にぴったりと張り付いている。伸縮性があるのか動きを妨げるようなものではないらしい。


 ウォロンはそれを目にするなり、『酒が不味くなる』『キモい』『加齢臭が酷い』などと暴言を吐いているが、プロングスは慣れているのか動じる様子はなかった。隣で見ているアシューも普段は見せないような困惑の表情をしていた。少し離れた所でトナを見ていたレスティアは視界に入るプロングスを見て恥ずかしいのか、頬を紅く染めていた。気づいたトナがさりげなく視線を遮る位置に移動していた。


「して、返答は?」


 私の言葉に、はやし立てていたウォロンはプロングスに顎で指して促し、トナと視線を交えて頷くのを確認すると、頭を下げた。


「王の頼み。お受けします」


 プロングスの言葉に私は表情を緩めて頷いた。


「ただ……一つだけ、お願いしたいことがあります」


 眼だけで促す。


 プロングスは脇に寄り、トナを前に出した。


「我々が元の大陸に帰れるのか、それとも帰れないのか。それを確かめたいと思っております。そこで、大陸を移動するような魔術や伝承などを知っていたら教えていただきたい事と、この辺りの歴史書や魔術書など古い文献をお持ちでしたら閲覧の許可をいただきたいのですが……」


「……ふむ。今思い付くような話は無いが、わが国の宮廷魔術師や色々調べている知恵袋……変わり者だが、様々な人が居る。そちらに聞いてもらいたい。

 それと、小国とは言え我が国には王立図書館がある。トナ殿でしたら閲覧してもかまわないのだが……。小さい国とは言え、禁書も数多く保管してあるのだ。王とは言え、宮廷魔術師や大臣に相談も無く許可は出せんのだよ。なるべくトナ殿の意に沿うよう努力しよう。それで今は我慢してもらえるかね?」


 私の言葉にトナはかしこまって頭を下げた。


 その姿に満足気に頷いた私は顎ヒゲを擦りながら周りを見渡し、三人に頭を下げた。


「よろしく頼む、御三方。細かい事はアシューに聞いてくだされ。アシュー頼んだぞ」


 私の言葉にアシューが応え、三人はそれぞれの方法で返答した。プロングスとトナは片膝をつき、頭を下げ、ウォロンは片手を挙げるだけだった。




 ほどよくアルコールが回った頃、互いの逸話や失敗談に話を咲かせていると、ふと疑問が浮かび口を開いた。


「ふと、思ったのだが……」


 居並ぶ傭兵の三人に視線を送る。プロングスはその意図がわからずキョトンとしていた。


「御三方の中で誰が一番強いのかな? ウォロン殿の強さの一端はさきほど見る機会があったが、御二方の強さはどのくらいのものなのかな? と思ったのだが……」


 私の興味深げな視線と言葉に三人は顔を見合わせ、指で互いを差し、俺かと自分に指を向け、遠慮するかのように手を振って否定し、それを言うならそちらですよ、と言うようなジェスチャーをしたりと、無言でやりあっている。コントの様相を呈してきたので、アシューが苦笑気味に提案した。


「ウォロン殿を基準にしたらどのようなものなんですか?」


 その言葉にプロングスが綺麗に剃られた顎を撫でる。


「誰が上って事は無いかなぁ……。一対一で接近戦ならがぶろんが一番強いだろうし、遠距離からの攻撃となればトナ。中距離でどっちでもいけるのが俺かな?」


 プロングスの言葉にトナが付け加えた。


「間合いの話で言えばそうだけど、純粋な力……殲滅力で言えば、火力が一番強いプロさんだろうね。俺は回復役もあるからどうしても手数が減るから二番目。攻撃手段的にがぶろんは三番目になるだろうね」


 トナの冷静な分析。プロングスの分析。この二つにさらに言葉が追加された。


「もっと解り易く言えよ。性質悪いのは師匠だな。怒らせたらこの国一日もかからずに滅ぼせるぞ。

 次に回復手段を持ってて倒し辛いトナが二番目。トナの力なら一週間あれば十分にこの国滅ぼせる。

 一番おとなしいのが俺。この国を滅ぼしたいとは思わないからな」


 意地の悪い表情を浮かべる。ウォロンという男は困らせたり、怒らせたりするような話し方をよくする。しかし、冗談だと解る程度に抑え、本気で怒られるところまでには至らないようだ。その辺りの間合いはしっかりとしている。この言葉に二人が一斉に否定の言葉を吐き出すが、ウォロンは全て聞き流して酒を煽る。叫ぶような大声で互いの性質の悪さを言い合っていた。


 すでに論点がずれているのにも気づかない三人を私は暖かい眼差しで眺めていた。





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