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03 三匹の獣、謎の少女と出会う。



 窮地を脱したプロングスは思考する余裕を持てた事に安堵していた。



 潅木を跨ぎ、意外と背の高い隊長にしがみ付いて歩いている。


 無様だ。


 今までの傭兵生活の中で、今回の失態は上位に位置するほどのものだ。


 それでも生きている。生き残る事が出来た。まずはそれだけで十分だと思わなければならない。


 トナとウォロンの兄貴分を自称する身として、不甲斐ないとは思うものの、他の何かで埋め合わせしていけば良い。


 隣を歩くトナにウォロンが息を荒げて掴まっている。


 ……しかし、この二人から兄と慕われる自分を想像しようとして……なぜか頬を赤く染めた二人が出てくる。気持ち悪い映像が浮かんでしまった。


 余裕が生まれると碌な思考にならないようだ。いや、むしろ仲の良い兄弟の映像が出て来ないのはなぜなのか……。


 自分に嫌悪するが、二人の普段の行動が悪いからだ。そうに違い無い。


 それからしばらく歩くと広い場所に着いた。空もわずかに白み始め、夜明けが近い事を教えてくれている。


 広場の脇にはわだちがあり、護衛と思わしき騎士が数人、馬に乗って一台の大きな馬車を守るように囲みながら待機していた。


 歪な馬車だった。


 外装は高貴な雰囲気を出しているのに、後ろの車輪部とそれに隣接する部分に無理やり貼り付けた板が見える。数人の騎士達が守るからには貧乏というわけではないだろう。敵襲を受けたとか、不慮の事故によって損傷し、応急修理をしたというところか。


 出血と緑色の返り血を浴びたオレ達に待機している騎士からタオルを手渡された。


 ありがたいと心の底から思った。完全にとまで言わないが、汗と一緒に拭き取り、一息付けたからだ。


 タオルは数倍の重さになり、血臭に汗がブレンドされた臭いは酷いとしか言いようがなかった。


 捨てるだろうと思いつつ、返したタオルを騎士はわずかに顔を歪めて、暖を取っていた焚き火に放り投げた。使い捨てなのだろう。


 ……だが、ふとウォロンの方を見て、気づいた……。


 オレが返したタオルは騎士が物凄い表情を浮かべ、誰の相談も無しに焚き火行きだった。しかし、ウォロンの使ったタオルは洗えば使えるかと言う相談を仲間の騎士としている……。向こうのタオルの方が返り血など大量に付いて、汚れ方は酷いはずなのにだ……なぜだ……何の違いがあるというのか……加齢臭という単語が浮かぶが、すぐに首を振ってかき消した。


 敗北感に打ちひしがれそうになる……。


 救いとしては、結局ウォロンの物も焚き火行きだった事だろうか……。





 複雑な思いでタオルの行方を見ていたプロングスの背後で、トナがにやりと意地の悪い笑みを浮かべていたのだが、それはともかくとして。


 ――ある程度身嗜みを整えた三人は武器を取り上げられ、道の中央に陣取る馬車へ案内された。ウォロンは最後まで武器を手放す事に抵抗していたが、助けられた手前渋々ながら手渡した。


 しかし、ウォロンの着る黒革のジャケットには大量の武器が仕込まれているのだが、それには気づかないのか、それとも面倒と思ったのか、誰もそこには触れなかった。


 トナやプロングスは服の中身を知っているが、それを騎士に進言しようとしなかった。


 もしもの場合に常に備えるのが傭兵だからだ。


 見知らぬ者達に促されているままに武器を渡して危機に陥るような生き方はしていない。その辺りを計算し、黙る事にしたのだ。ついでに言うと、武器と呼べる物を全部回収するとなるとウォロンは下着姿になるまで回収してもらわなければならない。そこまで武器を仕込んであるのだ。


 そして、個室に一人だけ素っ裸で居たくもないだろうし、そんな男が居る事を許容するような友人はいらない。


(甘いな……)


 その中でウォロンは今の状況を分析して思う。初対面の相手が持っていた目に見える武器を取り上げた程度で安全だと思っているならば、ここの騎士達は危機感が無いし、認識が甘いと言わざるを得ない。


 周りを警護している騎士が相手ならば、武器は必要無い。素手で全員を倒せるだろう。


 もし、脱出する事になってもそれほど苦労はしないと断言出来る。


 三人それぞれがそんな事を考えながら、馬車の中へ入るように促された。




 馬車の中には一人の少女が座っていた。微笑を浮かべて向かい側に座るよう三人を促す。トナは礼儀正しく頭を下げ、プロングスもそれに倣う。ウォロンは疲弊しきっていたために重りを背負っているような足取りで入ると、少女に一瞥もせずに無言で座り込んだのだった。



 俺は薄目を開けて辺りを見回す。馬車の内装は優雅な趣を見せている。金が有り、人の上に立つ者でなければこれほど無駄とも思えるほど凝ったりはしない。扉や天井には蔦が絡まるような文様が彫られ、シートはふかふかと柔らかく、幅も広い。


 片側に四人座ってもまだ余裕がある。今はこの余裕のある幅が嬉しかった。疲れきっている状態な上に男三人がひしめきあってしまっては、疲れるだけでなく、鬱陶しい。


 目の前の女の子をさり気なく眺める。十代の半ば、いや後半くらいか。顔立ちは整っているが、浅く呼吸をして下を向いている。


 時折、興味があるのか視線を向けてくるが、すぐに顔を伏せた。


 気持ちは解らないでも無い。長身の男は死んだように眼を瞑り、角刈りの男は柔和な笑みを浮かべ、俺と言えば薄目を開けて値踏みするように見ている。


 この状況ならば少女でなくとも落ち着かないだろうし、よほど社交性が無ければ話しかけようとも思わない。


 唯一正面に座るトナだけが笑顔を向けていた。そのたびに少女も笑顔を浮かべようとしているようだが、ことごとく失敗していた。努力は垣間見えるのだが、落ち着かないのか苦笑いにしか見えない。照れているのか、それとも具合が悪いのか良く解らなかった。


 あれだけの騎士が護衛でいるくらいなので、高貴な出なのだろう。今は汚れているが、フリルが随所に盛り込まれた白いドレスは高そうな素材を使っている。それに合わせるように同色のフード付きのマント。まるで着せ替え人形のように着飾っているのだが、本人の放つ雰囲気と合っているので違和感は無い。


 見える部分、手や顔は病的なほど白い。ほとんど屋内にいる生活をしているのかもしれない。肩まで伸ばされた琥珀色の髪は一本一本細いようで、微かな風でも揺らめく。同じ色の瞳は大きく、今は落ち着かないのか、伏せられる事が多かった。


 一度でも高貴だと思うと気品があるように見えてくるのが不思議なものだ。見た感じは病気がちな薄幸の少女にしか見えないのだが……。


 そこまで考えたが、心身共に疲れ果てている俺はそれ以上の興味は無いため、横の壁にもたれて額を壁に押し当てていた。少しだけひんやりしていて気持ち良い。気を抜けばすぐにでも睡魔が襲ってくるのだろうが、外が騒がしくなり、それはすぐに遮られた。


 開けたままの扉の方へ視線を向けると、敵を引き付けてくれていた騎士達が帰還したようだ。留守番していた護衛騎士が馬から降り、左の拳を胸に当てて頭を下げている。そして、一人の騎士がタオルを手に近寄っていく。返り血を浴びた鎧や剣を拭くのだろう。


 隊長はそれぞれの騎士に一言二言何かを言っている。おそらく労いの言葉でもかけているのだろう。よく見ると他の騎士とは鎧の装飾も違っていた。全員、フルアーマーではあるが、あの隊長だけ肩や腰の辺りの装飾が凝った作りになっている。フルフェイスに付いている白い羽はやはり長の印なのだろう。


 隊長がフルフェイスを脱ぐと艶やかな黒い髪が現れた。邪魔にならないように短めに切られている。小脇にフルフェイスを抱え、馬車の扉の前で一礼をし、少女の脇に座る。


「さすが異大陸の者達ですね。あの数を二人だけで相手をなさるとは……」


 褒めているのだろうが、顔がそう言っていないように見えた。見下しているわけでは無いようだが……素直に褒めているようでもない。ただ結果のみを言葉にしているという感じだ。助けてくれた時の優しげな雰囲気はまったく感じられなかった。


 そして、フルフェイスを取ってわかった事だが、騎士達を束ねていると思われるこの隊長は女性だった。たしかに胸部の鎧は身体に合わせているようで、湾曲に沿った作りだ。面影は男装の麗人と言える中性的な表情。その凛々しさ、物腰の柔らかさを見れば伝説に語られる戦乙女を思わせる。男女ともに人気があるタイプだろう。


 サファイアのような蒼い瞳は汚れを知らない純粋な輝きと知性があった。だが、力強さが無い。やはり周りに居る護衛の騎士同様に戦いに慣れているとは思えなかった。


「姫、この方々にご説明は御済でしょうか?」


 少女に姫と声を掛けた女隊長はハスキーボイスで問いかけた。そして、その言葉を合図にしたように馬車がゆっくりと走り出す。


 姫と呼ばれた少女は血生臭い見知らぬ男達を恐れているのか、声は出さずに首を振る。


「では、私からご説明させていただきます。

 こちらに居られるお方は、レダ国の姫君レスティア様です。そして、私はレダ国騎士団第一分隊の隊長を勤めさせていただいております。アシュー・フォートと申します。先ほどこちらのトナ様に姫様の危ない所を助けていただきました。改めて御礼申し上げます」


 俺はただじっと話を聞いている。プロングスはよく状況が分からず唖然と口を開けたまま聞いていた。トナは頭を掻いて照れている。


「これから我等の城へ来ていただきます。トナ様へは非公式ながら御礼せねばなりませんので。そして御友人の方々もご一緒に招待いたします。それまで三日から四日ほどの予定で馬車の旅になります。よろしくお願いします。

それと、姫様への無礼だけは慎んでください。恩人を切り捨てたくはありません。お願いします」


 アシューはそう言うと微笑を浮かべて三人を見渡した。先程から見せる、取ってつけたような笑顔だが、それぞれに何かしら思う事があるのか、微笑にもうひとつ何かの感情が付け足されている感じだ。


 トナには姫を救ったという感謝の部分があるのだろうが、プロングスや俺にはもっと他の感情……あれだけの敵を相手にしてのけた力に対しての羨望や嫉妬というわけでは無さそうだ。恩人とは言え、やはりすぐに信用出来るわけでは無いという事か……。おそらく疑念、疑惑といった感情だろう。


 もしかしたら、姫と呼ばれた少女を前にしても態度を変えない俺の態度を遠回しに抗議している可能性がある。


 俺は脱力したまま寄りかかるように座っている。足を伸ばして力を抜いている様は完全にリハビリに疲れた初老の雰囲気を出しているはずだ。


 見栄えが悪く、態度も悪いだろう。そう思われると解っているが、疲弊している今は直そうと思わない。


 ……いや、語弊があるな……疲弊していなくても直さない。


 普通の奴ならば、王族相手に今の態度は首を斬られても文句は言えない。傭兵である俺には知った事では無いが。


「そう言えば、トナってどうやってこの方達と知り合ったんだ?」


 プロングスが俺の態度を誤魔化すように説明を求める。


「特にプロさん達と状況は変わらないかなぁ~。目新しい情報は無いと思うけどね。起きたら森の中で倒れててさ。回復魔法使ってすぐに動き回ったんだよ……」







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