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14 一匹の獣、元の鞘に戻る。




「ふむ……」


 見上げる建物には傭兵ギルドと看板が付けられていた。


 扉を開くと先ほどの侵入者による出来事があったためか、騒がしい。いや、元からこういう場所だと言われても納得出来るが、走り回る皆を見ると通常状態では無いだろう。


 それはそれとして。


 ウォロンは出入り口に立ち、右側へ視線を送り、天井からぶら下がる板を眺めていた。


 正面にあるカウンターの右奥から新規登録、クラス登録。柱を挟んで報酬受け取り、クラス報酬受け取り、さらに柱を挟んで仕事受付、クラス仕事受付と書かれた板が下がっている。


 ふむと頷きながら、次は左へ視線を向ける。


 酒場が併設されているようで、酒場のカウンターがあり、椅子や丸テーブルがいくつもある。


 その酒場カウンターの反対側には掲示板があり、そこには傭兵と思われる人間が集まっている。


 六つの掲示板があり、それぞれがランクごとの対応しているようで、真ん中ほどにある掲示板に偏って集まっているようだ。


(どこでも基本はさほど違いが無いみたいだな)


 ある程度眺めて理解すると、さっそく新規登録のカウンターへと向かう。二人の受付嬢が居たが、右側の女性の前へ行く。


 女性はくりくりとした目でどこか愛嬌のある顔をしており、頭部には三角の獣耳があった。獣人である。


 受付嬢はウォロンの視線がどこへ向けられているのかを知り、少しだけ怪訝そうな表情を浮かべる。


 いや、耳に視線を向けられただけでは無いだろう。ウォロンの姿は明らかに戦闘後と思われる姿だ。黒革の上下は所々が裂け、皮膚が出ている場所は刀傷がある。傷が浅いため血は止まっている。


 それなりに動けそうな男が新規登録の窓口に来た事も理由としてあるだろう。


 それでも受付嬢はすぐに営業用の笑顔へと変えた。


「いらっしゃいませ。新規登録ですか?」


「あぁ、これは使えないだろ?」


 懐から出すのは年季の入った翡翠色のカード。


 前の大陸で使っていたギルドカードだ。初めて手にし、今までこれだけは大事にしてきた唯一の物と言えるかもしれない。


 それを目にした受付嬢は首を横へ振る。


「申し訳ありません。見た事が無いのですが、どこかのギルドカードですか?」


「いや、使えないならそれで構わないさ。新規登録させてくれ」


 大事そうにカードを懐へとしまい込み、苦笑を浮かべるウォロン。


「…………はい。それでは説明させていただきます」


 見た事の無いカードを大事そうにしまうウォロンに何か感じたのか、少し間があいた。


──説明は簡単なものだった。傭兵として登録すると、個々でランクを付けて仕事を斡旋する。下はFから上がってE、D、C、B、A、AA、S、SSまで九種類。


 新規登録者はFから始め、そのランクの仕事をこなし続けると傭兵ギルドから昇級試験を受けないか、と声が掛かる。


 断っても良いが、基本的には従って欲しいとの事だった。極端な話だが、ランクAの者がランクDの仕事を根こそぎ消化されてしまえば、低いランクの者の生活が危うくなり、盗賊などに身を落とす者が出てくる可能性があるからだ。


 面倒だと思っても高ランクになる利点はある。ランクが上がれば報酬が増え、ギルドと提携を結んだ武器、防具、道具や宿屋など、傭兵ランクに合わせて割り引き出来るようになる、と。


 それがギルドから有能な傭兵への特典。


 他にも高ランクになれば名が売れるため、国への仕官が容易になり、中には貴族になり領地を賜った者も少なからず居るため、立身出世を求める野心家は昇級試験を積極的に受けている。


「──ですので、こちらから昇級のお話が行きましたら、受けてくださいね。次に──」


 ギルドの話。傭兵ギルドは大陸中に点在しており、大きな街には必ずある建物。どこへいっても傭兵ギルドと問えば表にある看板の建物を指す。


 また、《クラス》と呼ぶ集まりが別にある。


 これは仲間同士で集まった集団を指す。傭兵集団に自ら名前を付け、紋章を作りその中のルールに従って仕事をする仲間だ。基本的には気の合う仲間同士ではあるが、高ランクの仕事を請けるために一時的に組む場合もあるようだ。


 クラスにもランクがあり、ランクは八種類、Fから始まり、E、D、C、B、A、S、SS。


 例えばだが、クラスのランクCを個人で受ける場合、最低でも個人のランクはAが必須との事。


「ざっと説明しましたが、何か聞きたい事とかありますか?」


「……いや、必要になれば聞くさ」


「そうですか。それでは細かい部分に関しては、こちらの冊子に記載されておりますので、ご活用ください」


 さっとカウンターの下から取り出した冊子を受け取る。それなりに分厚い。


「では、こちらにサインをお願いします」


 受付嬢が紙とペンを差し出す。その紙は契約書である。


 ウォロンはさらさらと何も読まずにサインする。こういう契約はギルドに対して不利益な事にならないように行動しろと書かれているもので、実際に要約するとそう記載されている。


 受付嬢は渡された書類を見て頷く。事務的な処理で審査も無いのか、そのままお待ちくださいと言い残して去った。


 しばらく待っていると一枚の紙を渡された。


「こちらが傭兵登録書になります。必要無ければこちらでしばらく保管します。何かの証明に使うのであればお渡ししますけど……」


「いや、特に必要じゃないな」


「では、どこのギルドでも発行は可能ですので必要であればおっしゃってください。それとこれを付けてください。傭兵の証となります。こちらも再交付可能ですが、こちらに関しては時間とお金が掛かりますので無くさないようにお願い致します。

 人々のためにがんばってください」


 登録終了となり、手渡された小さなバッチは懐へとしまう。




 これで、この大陸でも傭兵となった。今はレダの客将だ。だが、これでいつでもどこでも生活出来るようになる。


 今までそうやって生きてきたのだから。







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