表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

舞台の人

ー空中アクロバットー


この演技に彼は出場する。写真付きなので、女性と2人での芸なのは分かるが、気になるのは、彼と、女性との距離?密着度である。


(仕事、仕事……でも彼女だったりして)


暗転した会場の中でブルブルっと顔をふり、わたしは目を凝らした。


「うわっ!」


思わず声を上げる。


スポットライトが舞台中央上部を照らすと、男女が一本の棒にぶら下がっていた。


(いつの間に)


暗転中の演出だろう。会場の誰もが期待に胸を膨らませているのが、雰囲気でわかった。



「すごいね薫、あの人でしょう。さっきパンフレットに載ってた、薫の好きな人」

「しっ声が大きいよ」


友人の隣りの観客がこちらを振り返った。不審者を見るような目で、その年配女性はかなりじろじろとわたしと友人を見比べていた。


軽快な音楽に乗って、芸は繰り広げられていく。


棒と、彼は右足首のロープ一本で繋がっていた。


下の女性の命の綱は、彼の両手である。両手で握手をするようにして見つめ合ったかと思うと、片手だけになり、女性は観客に向かいポーズを決める。


彼の首に掛けられた輪になったロープを、彼女も首に掛け、互いの首の力だけで、2人は手を離す。


顔の距離はかなり近く、あと数センチでキスしてしまうのではと錯覚するほどである。


大きな長い、途中から二股に分かれたロープを彼女が両足に掛け、大きく開脚した。際どい衣装でのそのポーズはかなりセクシーだった。


それを支えているのも、彼の首なので驚愕である。


また新たなロープが出てきた。ロープはどこから出てくるからというと、テントの天井にある橋の様に長い柱に人がいて、絶妙のタイミングで彼の手に投げている。


使い終わったロープは下に立つ「後見」と呼ばれる男性に向けて彼が落とすのだ。


後見の彼はロープを受け取るのも上手だが、時折、声を発して合図をしているので、ただのロープ取り名人ではないだろう。


今度のロープは網状でかなり太い。


そのロープを彼は両手首に、彼女は両足首にしっかりと通し、彼女が逆さまに吊らされた。


(何が始まるの)


「薫、こわい」


わたしの腕を掴む友人の掌が汗で濡れていて、気持ちが悪かった。


数秒後、とんでもないことが起こった。


下のロープの彼の彼のかけ声に合わせ、彼女が急落下!


会場に女性の叫び声が響き渡る。


「落ちた」


友人はわたしの腕に顔をうずめ全く芸を見ていない。


「大丈夫だよ、ロープで繋がってる」

「えっほんとう?」


舞台の下の方で、ロープ掛かりの後見人が彼女の身体を支え、彼女は素早く両足首からロープを外した。


そうこうしていると、彼も舞台に降り立ち、2人は片手を握り会い、笑顔で見つめ合うと、大きく観客に手を広げた。


盛大な拍手の嵐。


駆け足で舞台の奥に帰って行く2人がとてもかっこ良く見えた。


わたしはその時、彼の隣りの彼女を、自分に移し替えて見ていた。


(サーカスをやりたい)


涙が滲むほど感動していた。どんな名作映画よりも、ミュージカルよりも。


サーカス! 生まれて初めて、感動で全身が震えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ