夢の世界ーエンターティナー
音楽が心地よい
このサーカスに流れている音楽は、子供だましの安っぽいものとは違い、コンセプトがしっかりしていた。
パンフレットを見て分かったが、ディズニーのピーターパンの物語に沿って曲芸が成される演出となっているらしい。なんと演出家はこのサーカスの社長である。
わたしが「団長」ではなく、「社長」と記したのは、このサーカスが株式会社だからだ。
昔懐かしいサーカス団のイメージは消され、しかっりとしたエンターテイメントの世界へとサーカスは移りつつある。少なくてもこのキグレサーカスに限っては、そうであった。
「ピーターパンなのに、私たちまでわくわくしちゃうよね」
友人の言葉は十分、理解できる。まだショーはスタートしていないというのに、高校生のわたしたちのボルテージは上がりっぱなしである。
開演5分前のアナウンスが流れると、もうひとつ興奮した。
聞き慣れた、やさいしい声のアナウンス。
さっそくパンフレットをめくってみると、「ああ」開演のアナウンスと、ピーターパンのショーに使われる声の人は、ルパン三世に登場する峰不二子の声優さんだった。
小さな頃から、どこかで耳したことのある声が、感触として、体中におかしな安心感を与えてくれていた。
(はじまる)
会える、サーカスのあの人に会える。わたしは無駄に前髪を整え、生唾を飲み込んだ。