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Break a low  作者: 秋宮聡一
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二章 その4

「ああ、彼女は風精霊――シルフのアリエルです」

 レイはその妖精を肩に乗せ、昔からの親友を紹介するかのような口調で言った。

風精霊シルフ……、四大精霊を召喚するなんて……すごいじゃないか」

「そうでもないですよ。彼女は、正直言って戦闘には向きませんから」

 レイは申し訳なさそうに言う。

「四大なのに?」

「四大でもです。人間に向き不向きがあるように、精霊にもあるのですよ」

 レイは「精霊も人間と大差ないのですよ」とも付け加える。

 肩に乗っている妖精――もといアリエルはレイの言葉を聴き、はにかみながら手で後頭部の部分をさすっている。

「彼女が得意なのは索敵です。やろうと思えば周囲数キロの様子も探れるはずです。

 風で探るのですよ。詳しい原理はわかりませんが」

「本人に聞けばわかるんじゃないの?」

 千晶が口を開く。

「だな。どうなんだ、精霊さん?」

 アレリアはその後こんなことを思った。精霊って喋れたっけ? と。

 そーっと、視線をレイにずらす。

「彼女は喋れますよ。安心してください」

 こちらの意図を理解して、レイが述べる。

 アレリアは額の汗を拭い、

「そうか……、でどうなの?」

 今度こそ精霊に視線を向ける。

『アリエルでいいわ。

 そうね、私もわからないわ。体感的では解っていても、理論的ではわかってないわ』

 外観に似合わない凛とした声が響く。

 アリエルはレイの肩から飛び上がり、アレリアの前に立つ。

『……あなた……』

「ん?」

『……いや、なんでもないわ』

 どうしたんだ? と首を傾げるアレリア。対してアリエルは何か疑問を抱えたような難しい顔でレイの方へ戻って行った。

「では、そろそろ仕事をしていただきましょうか」

 レイがアリエルに呼びかける。

『わかったわ』

 短い返答の後、アリエルは空高く飛び上がる。

 そしてある高さまで上がったところで、大きく手を広げた。

 途端、木々がざわめき始める。

 風が木々の間を走っているような感覚。

 指向性のない風がアリエルの指示に従い、吹いているのだった。

 まるで獲物を求める猟犬のように、

 まるで指揮者に導かれ、優雅に演奏する楽団員のように、

 優しく、力強い風が。


 風がやみ、アリエルはレイの元へ降りてくる。

「どうでしたか?」

 アリエルに向かって霊が口を開く。

『んー』

 と言って木々の間に向かって指を差すアリエル。

『あっちの……開けた場所。そこに誰かいる。あなたが言ってる監視員じゃなさそう。戦っててる――』

「恐らくは生徒間の戦いでしょう。気にする必要はありません。他には――」

『いや、違うわ』

 レイの言葉を遮る。

「どうしたんですか?」

『これは……一方的な……』

 アリエルは歯切れ悪く言う。

「詳しく」

『一方が一方的に他方の攻撃を受けているわ……、どうももう戦意はないみたい。けど――』

「それでも戦いは続いていると……」

 レイが呟く。その声の低さはルールを守らないことへの怒りの表れか。少なくともアレリアにはそう感じられた。

「しかし、ありえない……監視員がいるはず。そのようなことは起こらないはずだ……」

「ねえ、アリエル」

 アレリアが口を開く。

『なんでしょう?』

「なにか、喋ってないか? どんなことでもいい、何かヒントはないのか?」

『………』

 アリエルは目を瞑り、小さく両手を広げる。

 その間に千晶に視線を向ける。

 千晶はアレリアをじっと見た後、

「わかったわ」と小さく頷き、土を蹴り、森へと入っていった。

「アレリア、何を?」

「千晶を先行させただけだが?」

「なぜ? その必要は――」

「レイ、君の疑問についてはその精霊が答えてくれるさ」

 その場は暫時静寂に包まれる。

 レイは少し俯き、

「アリエル。どうなのですか?」

『言葉を発しているのが一人……』

 アリエルは語りだす。言葉は文章にはなってないが、アレリアはその言葉の断片を頭の中で組み立てていく。

『この国に存在していいのは私たちだけ――』

「随分自意識過剰だな」

『貴方たちは奴隷の地位に甘んじていればいい』

「また古典的な……」

「アレリア、黙って聞きましょう」

「ごめん」

 窘められた。

 レイはこちらを一瞥し、「続けて」とアリエルに言う。アリエルは静かに頷く。

『この国は私たち純血によって統治される。貴方たちは必要ない』

(純血……)

「まさかな……」

「何か分かったので?」

「ああ、考えが正しければ――」

 古典的な差別、そして自らの血統を(異常なほど)重んじる言動。ここから導き出せる答えは一つ。

「――純血主義……やつらだ」

 アレリアは断言した。

 レイが驚きと疑問の入り混じった表情でこちらを見てくる。

「いいか、レイ。純血主義の目的は移民の排除だったな?

 この試験では合法的に対人戦が許可されている」

「しかし、殺害することは不可能なはず……」

「それはあくまでも生徒間での話だ。

 じゃあ生徒じゃなかったら?」

「どういうことですか?」

 まさか、とレイはこちらを見てくる。これからアレリアの言う内容があらかた想像できているのだろう。余計なことは言わず、ただ、静かに、アレリアの言葉を待っている。


「奴ら、生徒を虫の餌にするつもりだ」

次回からは戦闘シーン盛りだくさん(の予定)

ご期待ください。



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